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  • 2017/07/27 掲載

宅配ロボットの事例に見る理想と現実、なぜ実効性に疑問が尽きないのか

森山和道の「ロボット」基礎講座

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屋内だけでなく屋外、街中での移動ロボットも注目され始めた。これまではもっぱら工場内などで用いられるに止まっていた移動ロボットが屋外、しかも人がいる街中に出てこようとしている。「宅配」が主な用途として注目されているが、それは正しいのだろうか。今回は宅配ロボットの事例をざっと見てみよう。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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ZMPが発表した「CarriRo Delivery」

ZMPは「銀のさら」と実証実験を目指す

 2017年の夏も暑い日が続いているが、搬送ロボットも熱い。物を運ぶロボットだ。特にピザなどの食べ物をデリバリーしてくれるロボットにはわかりやすい派手さがあって、多くの人が面白がって飛びついている。

 海外での取り組み例が多いが、日本でも7月にZMP社から「CarriRo Delivery(キャリロデリバリー)」というロボットを使って「銀のさら」との実証実験を進めていくとの発表があり、多くのマスコミが取材に来ていた。



 ZMP社からは主に法的整備の必要が訴えられていたが、率直に言うと、法的整備以前の段階にあるように見えた。外見はともかく技術的にもまだまだだ。しかしながら、業務用の屋内移動AGVの記者会見ではこれだけのメディアは集まらない。ロボットが宅配寿司を持ってくる──。そのわかりやすい未来像を多くの人が面白がっている。

宅配ロボットへの尽きない疑問

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 ただ私は宅配ロボットにどのくらいの実質的な意味があるのかについては、かなり疑問に思っている。まず、自動搬送ロボットが歩道や車道を移動できるようになる日は、少なくとも日本では、まだまだかなり先だろう。

 技術的/法律的な面をクリアしてロボットが歩道を動けるようになったとしても、では時速どのくらいまで我々は許容できるだろうか。

 通常のフード宅配はスクーターと徒歩を組み合わせて、できるだけ素早く宅配しようとしている。たとえば彼らは横断舗道を渡るために、わざわざ一度エンジンを止めてスクーターを押して道路を横断したりしている。

 彼らと同じ速度で動いて配達を実現するのは、技術的にも運用上も、かなり難しいだろう。当然、移動速度はかなり遅い速度に制限されることになる。せいぜい徒歩よりも多少早く、自転車よりも遅いくらいにとどまるだろう。

 移動速度が遅いとなると、宅配可能な範囲は狭くなる。もっとも、ロボットだけで宅配する必要は別にない。人とロボットが適宜使い分けられることになるとしても、ピザ屋から近い場所のほうがロボット宅配になって余計な時間がかかってしまうようでは本末転倒だ。

 それよりももっと難しいのは、搬送ロボットが仮に家の前までちゃんと移動できたとしても、そこからどうするのか、という問題だ。現状のロボットに呼び出しブザーのボタンは押せない。集合住宅のインターホンも操作できない。そうすると、一軒家あるいは集合住宅前から、もう一度ユーザーに対して電話でもかけて取りに来てもらうのだろうか?

 そうなると、ユーザーに対して新たな労力を強いることになる。そのぶんは割引サービスでも実施するのだろうか。そのコストはどうやって賄うのだろうか。考えるときりがない。ロボットにとって本当に難しいのはこういった最後の接触部分なのだが、その部分を考えずに絵空事だけ言われていても、正直ピンとこない。

 また、通常の宅配便などの状況で、これまで2人で押していた搬送用ワゴンが自動化されて、1台は人の後をついてくるようになったとしよう。

 そうすれば確かに1人が1度に運べる荷物の量は増える。それは全体で見ると人手不足解消にはなるかもしれないが、現場はよけい苦しくなってしまうのではないだろうか。

 現場の人の負担が増してしまうような方向の技術の発展は望ましいのだろうか。色々な疑問がわいてくる。

 少なくとも実用化するためには、現在の動くワゴンのような台車ロボットの技術だけでは不足している。フード宅配という分野において単純に配達を自動化しようと試みるのはあまり筋が良いようには思えない。

 そうはいっても、少なからぬ人たちが熱視線を送る理由もわかる。いかにも「未来のロボット活用」といった印象を受ける、派手さのある使い方だからだ。

 それに、細かいことをグダグダ言っているよりも、とりあえずできることから色々試してみようよというほうが前向きと感じられるというのもある。

 やっているうちに新たな現実的な用途が見つかったり、巧みな切り出し方のような新たなアイデアが出ることもなくはない。何より、技術は現場で磨かれるものだ。何もやらないよりはやったほうがいい。それは確かだ。

 だから国内外で行われている実験は実用化とはだいぶ遠いと思うが、実験の試み自体は注目していきたい。そう思っている。今回は宅配ロボットをいくつかご紹介しておきたい。

ドミノピザの「Domino's Robotic Unit」

 まず宅配ピザ大手のドミノピザは、2016年4月に「DRU(Domino’s Robotic Unit)」という宅配ロボットを「世界初の自動運転デリバリーロボット」と銘打って発表した。オーストラリアのクイーンズランドでデリバリー実験をしたという。



 ちなみに同社は2013年からドローンを使ったピザ宅配にもトライしている。これらは世界中で話題になっていることからもわかるようにプロモーションを兼ねているのだろうが、無人配送、自動配送に対して、かなりの期待と投資を行っていることも間違いなさそうだ。

 さてこのDRU、Marathon Targets社のロボットだった。同社は軍事用のターゲットロボットなどを開発している企業だ。射撃のターゲットとなるロボットである。同社のYoutubeチャンネルには多くの動画が公開されている。こちらのロボットも一部メディアで話題になったので覚えていらっしゃる方もいるだろうと思う。

 ところが、2017年3月末に、ドミノピザはMarathon Targets社のロボットではなく、Starship Technologies社の6輪タイプの配送ロボットを使ってピザの配送実験を始めるとの発表が行われた。ドイツとオランダの一部の都市で、半径1マイル(約1.6km)以内で配達を始めるという。

 なぜプラットフォームを変えたのかはわからないが、まだまだ色々試している段階だということなのだろう。いまの段階では実際に配送するロボットそのものよりも、それらを管制するシステム自体のほうを重視して、テストを積み重ねている段階なのかもしれない。

【次ページ】もっとも注目されている宅配ロボット企業とは?

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