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  • 2018/01/16 掲載

コルク佐渡島庸平×ナカヤマン。対談:今、コンテンツに何が起きている?

SNS時代のコンテンツを考える

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SNSの普及で、誰もがコンテンツを生み出し消費できる時代になった。そんなSNS隆盛の時代では、コンテンツやプロモーションのあり方は大きく変わりつつある。日本が誇る強力コンテンツの一つである漫画も、Web漫画や漫画アプリ、電子書籍や読み放題サービスなどの登場で、そのあり方が変化している。今、コンテンツに何が起きているのか。『バガボンド』(井上雄彦)など大ヒット漫画の編集を担当し、2012年に講談社を辞めて作家エージェント会社コルクを立ち上げた佐渡島 庸平氏と、ラクジュアリーブランドのコンテンツマーケティングをワールドワイドで手掛けているマーケター兼アーティストのナカヤマン。氏が、「コンテンツの未来」について語り合った。
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『ドラゴン桜』(三田紀房)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『マチネの終わりに』(平野啓一郎)などの編集者として知られる佐渡島庸平氏と、ルイ・ヴィトン、グッチ、ディオールなどラグジュアリーブランドをパートナーにコンテンツマーケティングを成功させてきたナカヤマン。氏の対談が実現

「経営者」と名乗ったことはない

ナカヤマン。氏:まずは佐渡島さんが編集者を目指したきっかけについて教えてください。

佐渡島氏:本がとにかく好きだったんです。だから編集者以外の職業には、ほぼ興味がありませんでしたね。というか極端なことを言うと、世の中のほとんどのことに興味がなくて何もやりたくなかったんです(笑)。仕事もしたくない。出版社なら「ギリ働いてもよいかな」という感じで、講談社に就職しました。

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コルク 代表取締役社長
佐渡島 庸平氏

2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。現在noteにてブログ開設中

ナカヤマン。氏:出版社にもそれほど就職したいという感じではなかったのですね。

佐渡島氏:就職活動もゲーム感覚でした。ゲームをしているうちに、いつの間にか出版社に行きたいという気持ちにさせられたというか。ナカヤマン。さんはどういうキャリアを歩まれたのですか。

ナカヤマン。氏:就職活動のときに何かを生み出す仕事をしたいと思い、商品企画を選びました。カーオーディオのメーカーに6年勤めました。 キャリア冒頭ではトレンドだったインディーズのミュージシャンとのコラボレーションなど、特定のセグメントにだけに刺さる商品を作って数字はコミットする一方、宣伝部も営業部もあまり理解ができないという状況が生まれます。

 そこで広告も営業も、工数と予算をまとめて自分で巻き取ろうと決めたのがマーケティングとの出会いです。その後会社から「君が勝手に始めたそれはマーケティングと言うものだから、勉強してブランド全体を見なさい」と、会社からビジネススクールに行かせて頂きました。そこで今の基盤が構築された形です。実際、学校に行くまでマーケティングという単語を知らなかったんです。

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佐渡島氏:現在は自分の会社を持たれていますよね。肩書は「会社経営者」ですか。

ナカヤマン。氏:「経営者」と名乗ったことはないですね。今は「マーケター兼アーティスト」と名乗っています。クリエイターと名乗ったりいろいろ変遷はあるのですが、マーケターとアーティストの両極端を行き来する性質さえ伝われば、あとは相手が決めるくらいで良いかなと。

独立したのは、時代の変化を正しく理解したかったから

佐渡島氏:日本のデザイン力は世界的に見ても高いと思います。しかし、多くのデザイン会社はクリエイターが社長を務めているんですね。クリエイターが社長だと、クリエイター業をしているときは意思決定が止まります。だから会社としてのビジネスが大きくなっていかないんです。

ナカヤマン。氏:すごく分かります。そして日本のビジネスは「チャンスが有る」前提を選ぶことを評価する傾向がありますよね。だから、チャンスを創れる「クリエイター」への評価が、不当に低いとも感じます。「チャンスを創る」のが一番いい仕事なのに。クリエイティブと経営スキルの両立ができる人材が育たないのは、そういう社会環境も原因でしょう。プロデューサー不在の背景というか。

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[scream louder] Inc. Los Angeles代表
マーケター兼アーティスト ナカヤマン。氏

京都のマーケター兼アーティスト。ファッション領域に特化したデジタルエージェンシー『ドレスイング』代表を2007年の設立から十年に渡り務める。SNSを用いたコンテンツ形成を、ルイ・ヴィトン、グッチ、ディオールなどラグジュアリーブランドからGUなどマスブランドまで、幅広いパートナーと展開。2017年5月に米国法人[scream louder] Inc.を設立、ファーストシーズンから手掛けたコンテンツがコーチの本国で起用された

佐渡島氏:それはよく分かります。本当はすでにあるマーケットに売りに行くのではなくて、作ったモノをどう売るのかを考えるのがプロデューサーという仕事のはずですよね。僕が作家との役割分担をしているのも、そういった背景があるからです。作家には作品を当ててほしい。たとえその作品が時代とずれていたとしても、時代と接続する“文脈”を作ればいいんです。その文脈を作るのが、編集者の仕事だと思っています。

 たとえば『ドラゴン桜』が描かれた最初は、東大卒の人が「自分は東大卒だと世間に言えない」という風潮が今より強かった時代でした。なんかかっこ悪いよね、という。そんな中で、世間の主流とはまったく逆の「東大は良い」という価値を投げた。『ドラゴン桜』が当たったことで、「東大」と銘打つ書籍も増え、東大に価値が付く世の中に少し変えることができました。

ナカヤマン。氏:そこまで行くと時代を編集しているとも言えますね。ツイッター以降、定番化したキュレーターの概念に近いのかもしれない。ちなみに、ボクが今の仕事をする切っ掛けになったのはツイッターとの出会いです。ファン構造を可視化する「フォロー」という仕組みに衝撃を受けて人生捧げようと。10年も前のことです。佐渡島さんの独立のきっかけは何だったのでしょうか。

佐渡島氏:一番の理由は、時代の変化を正しく理解したいという気持ちです。ツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどSNSの普及によって、情報の届き方はまったく変わりました。ですが、自分がそれらのソーシャルメディアを上手く使えているとは思っていなかったですし、今でも思っていません。

 僕はツイッターよりもインスタグラムのほうがクリエイターに向いていると思っています。インスタグラムには誰もやっていないようなもっと面白い、もっと違う使い方があるはずだと思っているんです。きっとクリエイターの誰かが、そうした使い方を見つけると期待している。そしてそれをプロデュースしたいと思っているのです。ナカヤマン。さんは、ブランドのデジタルコンテンツを作ることが多いんですよね。

ナカヤマン。氏:そうですね。ラグジュアリーブランドと呼ばれる海外の高級ブランドからの依頼が多いです。ルイ・ヴィトンやグッチなどがそうですね。ただ高級であることがポイントなのではなく、コンセプトが明確で強いという部分との相性が良いのだと考えています。

佐渡島氏:それらのブランドは、広告コンテンツ制作まで手掛けたのでしょうか。

ナカヤマン。氏:はい、企画から制作までを行います。以前はコンサルティングも行っていたので「SNS戦略やデジタル戦略を提案するまで」を業務にしていた時期もあるのですが、やはりそれでは戦略立案時にイメージした結果は出ない。やはり偉そうに話したことは、偉そうに話した奴が責任を持って成否を示さないと卑怯だなと思って今の業態に変えました。

デジタルでも本質的な効果指標が計測可能とは限らない

佐渡島氏:なるほど。ナカヤマン。さんが手掛けたデジタルプロモーションの事例を教えてください。

ナカヤマン。氏:グッチとは「渋谷ジャック」というプロジェクトを行いました。渋谷のスクランブル交差点の街灯ビジョン全5面を使った、広告でもあり、イベントでもあり、バイラルプロモーションでもあるという三面性を持つ企画です。ルイ・ヴィトンとは「Louis Vuitton x Chapman Brothers」というヴァイラル・インスタレーションを六本木ヒルズ店で展示しました。

 そしてこの冬はコーチと「THE ARCADE」というクリスマスキャンペーンを手掛けています(2017/12/25に終了)。その名の通りゲームセンターがテーマなのですが、商品と密に連動したキャンペーンです。オンライン上に2種類のレトロゲームを構築しました。レトロゲームと言ってもジャイロセンサーを使って3D処理をしています。

 また同じコンセプトのゲームをオフライン施策としても構築、80年代のゲーム筐体の形で実機化し主要店舗で展示しました。オフラインも同じく3D表示なのですが、こちらはホログラム技術で実現しています。

コーチのクリスマスキャンペーン「THE ARCADE」。主要店舗にはホログラム技術を用いた80年代風のゲーム筐体が展示された

 オンラインコンテンツは北米でも展開されました。手掛けたコンテンツが海外で展開されるのはキャリア史上初めてだったのですが、海外での活動を目的に今年5月、北米にグローバルエージェンシー[scream louder] Inc.を立ち上げたばかりだったので、記念すべき仕事になりました。

 当社の企画すべてに不可欠なのがソーシャルメディアです。見て頂いた通りSNSサービス上でプロモーションを行うわけではなく、幾つものメディアを組み合わせて構築するプロジェクトにソーシャルメディアを含みます。当社の特徴として、最低限の数値は手堅く確保した上で、「当たり~大当たり」になる伸び代を用意します。その伸び代を、思いつく限りの伏線を張りまくることで確保するのですが、その伏線を担うのが多くの場合ソーシャルメディアです。

佐渡島氏:デジタルだと、「どのくらいシェアされた」など結果が数字で出てくるので大変ですよね。

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ナカヤマン。氏:そうですね。ただ実際のところKPI(主要業績評価指標)を決定した状態でオリエンされることは少ないですね。最終的にはクライアントと議論して決定することですが、企画に応じたKPIをこちらから提案ケースは少なくありません。

佐渡島氏:どのようにKPIを設定するんですか。

ナカヤマン。氏:プロモーションは基本的には課題解決なので、提示された課題によって変わります。ただ大事なのは「計測できること」から選択するようなものではないということです。デジタルにおいても課題解決の本質的な効果指標が計測可能とは限らない。つまり効果指標の近似値が評価指標になることはあって当然。それを前提にレポートを構築していかないとクライアントの資産になっていかない。

【次ページ】ヒットする作品が持つ「余白」にSNSがハマることも 偶然に頼るか、伏線を張るか

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