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  • 2017/11/06 掲載

海外の著名VCたちは、どのAI分野を「狙い目」と考えているのか?

投資家から探る人工知能業界の動向

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人工知能(AI)のブームが過熱する中で、世界各国のAIスタートアップの動向が注目されている。常に有用な投資先を探しているベンチャーキャピタル(VC)や投資家にとって、一体どのようなAIが注目を集めているのだろうか? 先ごろ東京大学次世代知能科学研究センターの主催により開催されたシンポジウム「AI and Society」の特別セッションでは、「人工知能ベンチャーへの投資」をテーマに、海外の著名なVCや投資家5人が集結し、投資家の視点から現状の分析と未来への期待を語った。

フリーライター 井上 猛雄

フリーライター 井上 猛雄

1962年東京生まれ。東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにロボット、ネットワーク、エンタープライズ分野を中心として、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書に『キカイはどこまで人の代わりができるか?』など。

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「人工知能ベンチャーへの投資」をテーマにしたパネルディスカッションが行われた

テクノロジーとマーケットのフィットが求められている

 各国の著名なベンチャーキャピタル(VC)や投資家が集まり、豪華な顔ぶれとなったこのパネルディスカッションのモデレータを務めたのは、グローバル・ブレインの上前田 直樹氏だ。グローバル・ブレインは、日本を中心とし、北米、韓国、東南アジア、イスラエル、インド、欧州のスタートアップなどに投資しているVCだ。これまでグローバルで11社の人工知能(AI)関連スタートアップに対して水平/垂直型の投資・支援を行っている。

 上前田氏はまず、「ひと口にAIといっても幅広い。今、投資家はAIの最新トレンドをどう捉えているのかという点について議論したい。どういった分野が、AIで人気があるのか?」と、パネリストに問いかけた。

 イスラエル最大のVCであるイェルサレム・ベンチャー・パートナーズ(JVP)は、グローバルでも屈指の規模で、AIやサイバーセキュリティなどの企業に投資している。JVPでパートナーを務めるYoav Tzruya氏は上前田氏の問いに対し、次のように述べた。

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イェルサレム・ベンチャー・パートナーズ パートナー
Yoav Tzruya氏

「今は数年前と状況が変わってきました。大企業も参入し、ディープラーニングがコモディティ化すると、データを持つ企業が有利に働く。コア技術は減る方向にありますが、まだ産業分野あるいは保険分野では、AI主導のスタートアップの支援を考える意味はあるでしょう」(Tzruya氏)

 台湾出身のPhil Chen氏は、スマートフォン端末メーカーとして名を馳せるHTCでプロダクトマネージャを務め、アンドロイド端末の試作や「HTC Vive」の開発を手がけた人物だ。その後、香港ベースのベンチャーファウンドであるホライゾン・ベンチャーズに移籍。同社はグーグル傘下のディープマインドなどに投資して成功した。Chen氏は「ビッグデータ、ビッグコンピューティング、ビッグアプリ(ケーション)という階層構造の中で、上位のビッグアプリ領域でAIスタートアップが動き始めました」と近況を説明する。

「5年前は誰もAIの話題はしておらず、我々もビッグデータ関連でSNSの心理分析などを行う企業に投資していました。しかし現在は、ビッグアプリ領域の企業がAIに転換。彼らは小売などで独自データを持っています。この数年間はコンピュータービジョンや音楽などのシード企業に投資しており、投資は垂直型になり、頭打ちの傾向がみられます」(Chen氏)

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ホライゾン・ベンチャーズ アドバイザー
Phil Chen氏

 プリシード、あるいはシードのAI関連企業に広く投資するゼロスドットAI。同社のマネージングパートナであるTak Lo氏は、「今は90%が垂直型投資です。早期スタートアップのみがターゲットではなく、国や都市の状況も重要。たとえばベトナムでは、AIによって米の病気を特定するなど、農業分野に応用しているが、米国は集約的農業で、作物へのAI適用はうまくいっていない。そのためテクノロジーとマーケットのフィットが求められるようになってきました」と指摘する。

 米国サンフランシスコ州に拠点を置くSRIベンチャーズは、AI・ロボティクス・インターフェース分野に強く、プリシードのスタートアップを中心に投資を行っている。

 その代表を務めるManish Kothari氏は 「AI投資は『強気の段階』に入ってきました。この数年間はAIによる診断や予測が中心でしたが、最近は修理や治療に使えることもわかり、そういう方向にメガシフトを始めている」と述べた。

「そうなるとプラットフォームも変わります。治療分野では、サイバーフィジカルの接点において、物理的なインタラクションが求められます。慢性病などで情報を得るには、パーソナルレベルのAIと最適なインターフェースが必要。この分野に積極的に投資しています」(Kothari氏)

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SRIベンチャーズ 社長
Manish Kothari氏

投資判断にはデータの種類と収集方法も重要視

 続いて上前田氏は「最近ではAIのスタートアップを探す際に、どれもテクノロジー的にほとんどが同じように見えて、その違いが分かりにくくなっている。どうやって企業を判断しているのか?」と質問を投げかけた。

 これに対しJVPのTzruya氏は「たしかにAIとディープラーニングは分かりにくい」と同意しつつ、自身の判断基準について下記のように説明した。

「初期段階では、テクノロジーだけでなく、市場やプロダクトも見て投資しています。ここ数年はコアテクノロジーで画期的なイノベーションはなく、アプリケーションが中心。同じアイデアをファインチューニングする段階に来ている。そういう点では、正しい応用や適用を見極め、その成果をチェックしています。イスラエルにはAI関連で優秀な人材がアカデミアに多いため、彼らのお世話になることもあります」(Tzruya氏)

 一方、ホライゾン・ベンチャーズのChen氏は「AIでは何が価値のドライバーになるのか明確ではありません」と率直に明かした。その上で以下のように指摘する。

「データに価値があるのか、サービスにあるのかも、よくわかっていないのです。どんな業界でもAIが重要なことでは一致してるが、今はバリュードライバーがわからない。しかし、逆にそれが面白く、興味深い点でもあります。AI関連のスタートアップは、テクノロジーのバックグラウンドはあるものの、その製品化に苦労しています。AIの世界にはプロダクト側の人材がいないからです」(Chen氏)

 ゼロスドットAIのLo氏は「技術や専門知識だけでなく、スタートアップが『データについてどう捉えているのか』という点を重視しています。どうやってデータを収集し、ユーザーに対して価値として提供できるのか。創業者がデータの価値化をどう具現化できるのかという点を見ています」と明かした。

 ユーザーに対する価値提供という点で、SRIベンチャーズのKothari氏も同意する。「ユーザーが必要とするものを理解するまでに時間がかかりました。それを理解することがポイントになると思う。また、今我々が注目している点は、アルゴリズムだけではありません。新しいデータや情報を収集できる高速なセンサーが、AIシステムに適用されることを期待しています」と語った。

【次ページ】 シンギュラリティは本当にやってくるのか? そのとき倫理はどうなるのか?

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