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- 2018/03/29 掲載
対アマゾンで急減速、それでも世界一のウォルマートが残す3つの武器
米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。
アマゾン急追に陰り、オンライン売上成長の急減速
ネット販売でアマゾンを急追するウォルマート。だが、アマゾンとの比較ではまだ見劣りがする。米投資企業インフレクション・キャピタル・マネージメントの推計では、2017年の米国におけるeコマース売上額は6,060億ドル(約64兆2,630億円)であったが、115億ドル(約1兆2,195億円)を売り上げたウォルマートは全体の1.9%に過ぎず、2190億ドル(約23兆2,238億円)の売上をたたき出して全体の36.2%を占めるアマゾンにはかなわないと報告されている。
とはいえ、ウォルマートのeコマースの前年比成長は2017年に入ってから、目を見張るものがあった。1~3月期は63%増、4~6月期は60%の伸び、そして7~9月期には50%も増加した。巨大企業のネットビジネスがこれだけ速いペースで成長することは、めったに見られない現象である。
米シティグループのアナリストであるケイト・マクシェーン氏は2017年12月に、「ウォルマートのeコマースは、アマゾンに対する真の挑戦者となりつつある」と絶賛した。
ところが、10~12月期のオンライン販売が前年比23%の増加と、決して悪い数字ではなかったものの、伸びの勢いが一気に落ちた。2月20日に10~12月期の数字が発表されると、「ウォルマートはやはりアマゾンには勝てない」との見方から同社の株価は104ドルから急落し、3月中旬の時点で87ドルと回復していない。
これに追い打ちをかけるように、3月15日には同社のトライ・フニヤ元事業開発部長が、「eコマースの売上の数字を水増しするよう強要され、問題があると上申したところ、解雇された」としてウォルマートに対して訴訟を起こした。真実であれば、「ウォルマートがアマゾンとの競争で健闘している」と市場が信じた物語そのものが崩壊してしまう、重大な「事件」となる。
市場は今のところ、「この訴訟は、弊社に不満を持つ元従業員が偽りの作り話で、会社の評判に傷をつけようとするもの」とするウォルマートの見解を信用しており、株価は大きく反応していない。
では、同社のeコマースの実態はどうなのか。まず、ウォルマートの10~12月期のeコマースや実店舗などを含めた全体の売上は前年比4.1%伸びており、堅調だ。
eコマースの急成長が鈍化したのは、11月下旬から12月下旬の書き入れ時であるホリデーシーズンに、多くの日用品の在庫が切れてしまったこと、そしてアマゾンのように目先の収益を抑えてでも、将来の収益性向上のため、eコマース関連の施設やインフラに対する投資額を増やしたことにある。
このうち、在庫切れはシステム上、またインフラ上の大きな問題をウォルマートが抱えるのではないかとの疑念を高めた。全米22カ所の配送センターなどの基幹インフラやシステムの設計が需要に対応しきれない可能性を示唆しているばかりか、ウォルマートが全力を挙げて推進するオンライン発注と全米5000の実店舗受け取りを組み合わせた「オムニチャネル」の仕組みがうまく機能していない可能性さえ示唆するものである。
アマゾンとの競争でウォルマートが本当に勝てるのかを投資家が懸念するのは当然のことだ。
ウォルマートは、これらのeコマースの問題を「短期的なものにすぎない」として、「2018年全体でeコマースは前年比40%成長させる」と強気だ。また、eコマースで収益を犠牲にした投資をすることはアマゾンと同じ戦略であり、そのことによる成長の減速に対しウォルマートを罰するのは公平ではないとの声もある。
また、ウォルマートのeコマースはアマゾンと比較して、優位な面が多いとする見解も出されている。特に顕著な3要素を以下で掘り下げていく。
【次ページ】世界一のウォルマートが残している3つの武器とは
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