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2018年04月05日

連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤 

フェイスブックに創業以来の危機、ザッカーバーグはなぜユーザーの信頼を失ったのか

フェイスブックが2004年の創業以来、最大の危機に陥っている。ユーザーの嗜好や性格の詳細なデータに第三者アプリからアクセス可能な仕様が悪用されたためだ。2018年3月17日の報道から、フェイスブックはその初期対応のマズさにより、逆に火に油を注いできた。フェイスブックがユーザーの信用を失うに至った問題点を明らかにする。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

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ユーザーからの信頼を大きく損ねたフェイスブック。粗末な初期対応が火に油を注ぐ結果となった

(出典:フェイスブック)


後手に回った不十分な対応

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 英ケンブリッジ・アナリティカによるフェイスブックユーザー情報悪用のニュースが3月17日に報道されて以来、同社の対応は後手に回ってきた。

 高まる世論に押し切られる形でマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が複数の米メディアに直接釈明をしたのは発覚から5日間たってからだ。その後、米英の有力高級紙に謝罪の全面広告を掲載したが、遅きに失した感がある。

 米PR企業レビックのリチャード・レビックCEO は、「対応までに5日間もかかったことはショッキングだ。ザッカーバーグ氏が、フェイスブックが直面するチャレンジに立ち向かう能力があるか疑問だ」と手厳しい

 フェイスブックへの信頼の揺らぎは各所に表れている。ロイター通信が3月26日に発表した米国の成人2,237名を対象にした世論調査では、51%が「フェイスブックは信頼できない」と回答した。米調査企業サーベイモンキーの調査では、フェイスブックの好感度が2017年10月の61%から48%へと急落している。また、同社の株価も急落。3月26日には一時、発覚前から累計900億ドル(約9兆4,737億円)の時価総額が失われた。

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(クリックで拡大)

フェイスブックはロビー活動費を急増させていたが、今回の危機を有効に防ぐことができなかった

(出典:ATLAS(データ元はOpenSecrets))

 加えて、米連邦取引委員会(FTC)がフェイスブックのユーザーのプライバシー保護で法令違反がなかったかを捜査中だと発表する一方、米上院の司法委員会と通商科学運輸委員会がザッカーバーグCEOの証言を要請した。

 ユーザーの間で「#DeleteFacebook(フェイスブックを削除せよ)」運動が始まり、米テスラや独コメルツバンクなど自社のフェイスブックページを削除する大企業が現れた。さらに、少なくとも4件以上の訴訟も起こされている。同社にはリスク発生後の対応の失敗で、企業ブランドが毀損(きそん)する二次被害が生じている。

 フェイスブックが2017年に1,150万ドル(約12億1,565万円)という巨額のロビー活動費を使って、政界に働きかけていた事実からすれば、その失敗の大きさが際立つ。

生かされなかった危機対応の教訓

 なぜフェイスブックの一連の対応は火を消すどころか、油を注ぎ自体を悪化させてしまったのだろうか。フェイスブックを含む、近年の急速なソーシャルメディア(SNS)の普及によって危機対応には従来以上のスピード感が要求される中、同社の対応が後手に回ったのは皮肉なことだ。

 一般に危機管理では「危機は必ず起こる」ことを前提として、1.危機を予見して社内や関係会社で共有しておき、2.危機が起きた際には事態がそれ以上悪化しないよう迅速・的確・十分に対応と謝罪を行い、3.ステークホルダーや自社が受ける二次的被害を回避し、4.起きてしまったダメージの復旧を速やかに図り、5.再発を防止する、という5点が重要とされる。

 フェイスブックは創業以来、ユーザー個人情報の取り扱いやセキュリティについて度々強い批判を受けてきたが、プラットフォームのボイコットやCEOの議会証言招致にまで発展することはなかった。ロビー活動費を増やして満足のいく効果があったため、最悪の事態の想定を怠る、油断につながった可能性がある。

 事実、米『ニューヨーク・タイムズ』紙は、ロシアがフェイスブックで増殖させたフェイクニュースを通して2016年の大統領選に影響を与えた疑惑について、社内に「どれくらいの情報を開示するか」で深刻な意見の相違があったことを報じている。その過程で、透明性の重要性を説くセキュリティ担当取締役であるアレックス・スタモス氏の意見が2017年の末までに退けられたのだという。

 今回のケンブリッジ・アナリティカの事案が報じられる数か月前から、フェイスブックは透明性を重要視しない方針を固めていたことになる。「すべては議論の対象となる(Everything is up for debate)」という、オープンさを強調するザッカーバーグCEO自身の言葉に反する決定で、これが初動と対応を混乱させた。

 経営者であるザッカーバーグCEOが発行済み株式の60%を保有する独裁的な権力を持つ状況で、「もの言う従業員」を嫌悪する雰囲気と社風が生まれ、同社をして最悪の事態に備えるリスク管理を怠らせたのではないか。

 さらに、トップによる部下への丸投げという、危機管理の禁じ手も使った。世間の怒りが高まる中、米議会と英議会の説明要求に対して社内弁護士や中堅幹部を送るにとどめ、ザッカーバーグ氏やサンドバーグ氏は表に出なかった。ひたすら口を閉ざして、嵐をやり過ごそうとしたのだ。

 米ニュースサイトの『クォーツ』によれば、フェイスブック経営陣が沈黙を続けた背景に、2020年、あるいはそれ以降に米大統領選挙へ出馬することに興味を示すザッカーバーグCEOと、政界進出の食指を動かすシェリル・サンドバーグ最高執行責任者(COO)を逆風から守る意図があったとされる。

 それが「策士策におぼれる」状況を作り出してしまった。「ザッカーバーグはどこだ」「ザッカーバーグ出てこい」の声は高まるばかりだ。米議会の重鎮であるリチャード・ブルメンソール上院議員(民主党)からは「議会証言に応じないなら、証人喚問する」とまでせきたてられ、メディアでは「フェイスブックは個人情報を必要以上に取って、不正に利用させている」とネガティブ報道によるレピュテーション悪化が起こった。期待が高いほど、落胆も大きい。

 21億人を上回る月間ユーザーを抱え、人々の生活やビジネスにインフラとして入り込んでいるフェイスブックはその需要ゆえに慢心していたのではないか。ユーザーや政治家の間で蓄積されていた、同社のアドテクやプロファイリングの手口に対する不満や怒りを、過小評価していたことが露呈した。

 一連の稚拙な対応は、同社の危機の想定範囲、危機管理マニュアルの整備、シミュレーション訓練が不十分であったことを物語っている。

【次ページ】Webの覇者たちに規制が必要との声も

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