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  • 2018/04/05 掲載

酒税法改正で「まぜものビール」解禁。キリンやアサヒは本場ベルギーに勝てるか?

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4月1日、酒税法が改正・施行された。今回の大きな改正点は今まで発泡酒扱いされていた「まぜものビール」の公認。麦芽使用比率が50%以上なら、副原料にハーブやフルーツや海産物のエキスを使っても「ビール」と認められるようになった。大手メーカーは新製品を続々発売し、全国の地ビール醸造元にとっても地元の特産品の味が加わったビールを企画できるチャンス。長期低落傾向のビールが復活するきっかけになるかと思えば、「まぜものビール大国」ベルギー産という手ごわいライバルも日本に上陸してくる。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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今回の法改正がビール業界に与える影響とは?
(©projectio - Fotolia)

酒税法「日本版ビール純粋令」が緩和される

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 4月1日に酒税法が改正・施行された。今回の改正の大きな変更点は「ビールの原料」にある。

 従来の酒税法では、原料に次のもの以外を使っている発酵アルコール飲料は「ビール」とは認められないことになっていた。

「麦、ホップ、米、トウモロコシ(コーンスターチ)、コウリャン、馬鈴薯(ジャガイモ)、でんぷん、糖類またはカラメル」

 これはドイツの「ビール純粋令」がお手本である。「オクトーバーフェスト」が開催されるビール好きの“聖地”のミュンヘンを都とするバイエルン公国が1516年に発令し、現在も欧州連合の伝統文化への配慮でドイツ国内での生産に限って受け継がれている。

 日本では従来、ビールの副原料としてたとえばレモン果汁を一滴でも混ぜたら、それはビールではなく「発泡酒」扱いにされた。

 発泡酒はビールよりも酒税の税率は安くなる(2026年度に一本化される予定)が、その分、販売店で高い値段をつけて売るのが難しくなる。「ビール」と認められることはそれだけで“カテゴリーブランド”を得たことを意味し、発泡酒や「第三のビール」とは違うものであると消費者にアピールできる国税庁の“お墨付き”である。

 名の通った銘柄でも、海外では清涼飲料水に毛が生えた程度の値段で売られているビールがある。それでも日本に輸入されたり、日本でライセンス生産されると、国産ビール並みかそれ以上の高い値段がついて訪日外国人が目をむくのは、税制がらみのそんなカラクリがある。

 もし、その銘柄が日本にしかないカテゴリーの「発泡酒」として扱われたら、そのイメージが障害になって高めの値段はつけられず、輸入業者やライセンス生産先は思うように利益を出せない。本社の経営陣もブランド戦略上、日本でビールであってビールでない存在にされるのは避けたいはずだ。

 そんな制度が4月1日を境に、変わった。日本で「ビール」と認められるための条件が、この日から規制緩和されたからだ。

 麦芽比率の条件は、従来の67%(3分の2)以上が50%(半分)以上に引き下げられる。そして副原料として「果実」「香味料」が追加される。香味料は「麦芽の5%以内」という重量制限はあるものの、中身はスパイスだけでなく幅広く適用され、たとえば蜂蜜、野菜やゴマのエキス、コーヒーなどでもよい。

 バナナやワサビや味噌を混ぜようとビールとして認められる。シーフード由来の「磯の香りがするビール」でも自由につくれる。現在でもトウガラシを加えた「チリビール」が発泡酒扱いで市販されているが、4月1日からは晴れてビールに出世した。

 酒税法の「日本版ビール純粋令」が規制緩和されることで今年、奇想天外なものも含めて多彩な個性の「まぜものビール」が登場する「ビールの百花斉放」が起きそうだ。新し物好きのビール党も期待しているだろう。

「ビール暗黒時代」に救世主が現れるか?

 日本では、「ビール」の類の生産量、消費量は長期低落傾向にある。

 毎年1月にビール大手5社(アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー、オリオン)が発表する課税出荷数量によると、ビール、発泡酒、第三のビール合計のビール系飲料全体で2013年は4億3357万ケースだったのが、2017年は4億407万ケースへ、4年で6.8%減少した(1ケース=大瓶20本)。

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ビール系飲料の課税出荷数量

 マイナス成長は最近始まったわけではなく、2005年から13年連続で減少したが、特に直近2年間の減少率は2016年が2.4%、2017年が2.6%と、さらにひどくなっている。

 ビール大手5社の「ビール」「発泡酒」「第三のビール」の各ジャンルに、東京商工リサーチが9月に発表している「地ビールメーカー動向調査」から「地ビール」のデータを加えて対前年比伸び率を見てみると、2017年は全てのジャンルがマイナスに沈んでしまった。第三のビールは2013年、ビールと発泡酒は2015年を最後にマイナスになったまま浮上できず、地ビールも2013年と2015年は2ケタ成長と好調だったが、2017年はついにマイナス成長に転落してしまった。

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ビール系飲料各ジャンル出荷量の対前年比増減率

 2017年のビール系全体の出荷量はピークの1994年の約3割減で、ビールの業界地図を塗り替えた歴史的ヒット商品「アサヒ・スーパードライ」が登場した前年、1986年の水準まで落ち込んでしまった。統計上では生産も消費も輪をかけて悪化し、まさに「ビール暗黒時代」と言えそうな様相を呈している。

 時計の針が32年前まで戻された要因は、2017年6月にスーパーなどでビール系飲料の安売り規制が強化されたことだった。店頭の販売価格が上がったため消費者の「ビール離れ」に拍車がかかり、チューハイなどへの購買シフトが進んだ。2018年に入ると外食店舗で提供される業務用ビールの4月からの値上げも発表された。それにより居酒屋などでもビール離れが起きるのではないかと懸念されている。

 それだけに今回の酒税法改正はうまくいけば「ビール暗黒時代の救世主」になるのではないと、ビール業界の期待は大きい。各社の経営トップは「今年こそチャンス」と口を揃える。それに向けて「まぜものビール」の新製品発売の動きも始まっている。

【次ページ】「まぜものビール」の本場ベルギーは待ってましたと日本へ大攻勢

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