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  • 2018/05/09 掲載

マイクログリッドとは何か?テスラも取り組む分散型エネルギー発電の基礎

フロスト&サリバン連載 ~ICTとの融合で特定の産業がどう変化するか~

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100年以上にわたり、発電事業は大規模な電力会社の独壇場であった。しかし近年、環境意識の高い消費者の増加や、再生可能エネルギー技術の急速な普及、災害時の電力安定供給の需要増加などのトレンドに伴い、「分散型エネルギー発電」や「マイクログリッド」が脚光を浴びつつある。ここでは分散型エネルギー発電を取り巻く市場動向やマイクログリッドの基礎、それを支える「電力貯蔵システム」と「分散型電源管理システム」というキーテクノロジー、ならびにテスラなどでの導入事例を紹介する。

フロスト&サリバン ジャパン 伊藤 祐

フロスト&サリバン ジャパン 伊藤 祐

フロスト&サリバンジャパン 成長戦略シニアマネージャー。日本、シンガポール、フィリピン、タイ、イギリス等において、ビジネスプロセスリエンジニアリングやERPシステム導入、海外展開戦略策定やM&A実行支援、スマートシティのグローバルトレンド調査等のプロジェクトに携わる。慶應義塾大学にて経済学士取得。

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分散型エネルギー発電はエネルギー問題解決の切り札となるか
(画像提供:フロスト&サリバン)



分散型エネルギー発電とは?マイクログリッドとは?

 分散型エネルギー発電とは、従来の中央集中型エネルギー発電に対して、比較的小規模で、さまざまな地域に分散するエネルギー発電方法の総称である。分散型エネルギー発電に使われる設備の規模は活用形態によって異なるが、一般的には、家庭用単独発電用の数kW級から単位地域発電用の数十MW級までと定義する。後者の単位地域発電システムは「マイクログリッド」(microgrid)とも呼ばれる。

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単位地域発電用のシステムは「マイクログリッド」と呼ばれる
(出典:フロスト&サリバン)


 マイクログリッドの特徴は主に3つ。1つ目は広範囲の電力網との接続および切断が可能で、切断後でも継続的に稼働可能である「モジュール式」であること。2つ目は通常、電力を必要とする地域の近くに配置されること。3つ目は、小型水力、バイオマス、バイオガス、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーを主に利用することだ。特にこの「モジュール式」は、従来の集中型エネルギー発電とは対照的なアプローチとなるため、注目すべきだ。

 マイクログリッドの特徴は下記の5つにまとめられる。

(1)安定性
災害などの緊急時には独立して機能するため、安定性が高い。

(2)低予算
大規模な電力会社にとって、島や郊外などの孤立した地域を既存の広範な送電網と接続するにはコストパフォーマンスが悪い。その代わりに、分散型エネルギー発電はより規模が小さくて、投資に必要な予算がより低いため、地元の行政機関(市や町など)による導入が可能である。

(3)電力ロスが少ない
集中型エネルギー発電は大型発電所から遠くにいる消費者まで送電しており、送電距離が長ければ長いほど生じる電力ロスも大きくなる。それに対して、マイクログリッドでは発電場所と供給場所が近いため、送電時に生じる電力ロスがより少ない。

(4)意思決定しやすい
大規模な設備投資が不要なので、設備のスタート、運用など多くの面で意思決定がしやすい。

(5)環境にやさしい
再生可能エネルギーを主に利用しているため、環境にやさしい。

 こうした特徴があるため、マイクログリッドとそれを配置して発電する分散型エネルギー発電は、近年注目を浴びている。

分散型エネルギー発電の4つのメリット

 では、分散型エネルギー発電はどのようなインパクトをもたらすのだろうか。「商業および産業」「軍事」「医療」「遠隔地」の4つに分けて考えてみよう。

(1)商業および産業:
 分散型エネルギー発電の導入によって電力供給の安定化を目指すことができる。特に、ラインの一時停止が大きな損失につながる重厚長大型産業にとって、災害時にも電力が安定して供給される仕組みがあるのは大きなメリットだ。

(2)軍事:
 必要なインフラ規模が小さい、かつ短時間で設置することが可能なため、アクセスしにくい地域にある基地(海外基地など)に導入しやすい。特に、戦場に近い基地では、現地の政府が制御する送電網に頼る必要がないため、現地政府の干渉や送電インフラの加害による停電を防ぐことも可能である。

(3)医療:
 医療現場にとっては、ごく短時間の停電でも、文字通り患者の命取りになる可能性がある。分散型エネルギー発電を通じ、大規模な災害が起きたときもマイクログリッドによって電力供給されることは非常に有益である。

(4)遠隔地:
 必要なインフラ規模が小さいため、分散型エネルギー発電は、現在の送電網ではアクセスしにくい島しょ地域などに導入しやすい。今まで不安定な電力供給に苦しんでいた地域を、分散型エネルギー発電により救うことができる。

分散型エネルギー市場は今後どうなるのか

 2016年度の全世界の分散型エネルギーの設置容量は約491.5GWだった。2016年の推定世界市場規模は約653億9,000万ドルであり、総売上の60%以上が分散型太陽発電とディーゼル発電で占められている。さらに、2017年から2021年の間の分散型エネルギー発電の累積市場規模は4,399億ドルと推定され、CAGR(年平均成長率)に直すと約15%の成長が見込まれている。

 特に、アジアパシフィック地域における市場成長が著しい。中国の分散型太陽発電市場を見れば、2016年の推定世界市場規模は215億ドルに上っている。中国のほかに、日本、韓国とインドもアジアパシフィック地域における主要なマーケットとなっている。

【次ページ】テスラにおけるマイクログリッド事例

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