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  • 2018/05/18 掲載

足掛け30年、植物工場がようやく「もうかる事業」になれたワケ

国内最大級のプラント製造企業に聞いた

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登場から30年がたち、植物工場で栽培された野菜をスーパーでも見かけることも珍しくなくなった。植物工場に関しては、一時は政府からの補助金もあり、企業の参入が活発だったものの、撤退したところも少なくない。植物工場には欠かせない水耕栽培の草分け的存在であるM式水耕研究所をグループ会社に持ち、国内最大級の植物工場プラント製造会社である三進金属工業 専務の新井宏幸氏は「次世代農法として注目を集めた植物工場ブームは現在3回目に突入しています」と話す。同氏に植物工場が歩んできたこれまで、植物工場と遊休資産活用・障害者雇用の関係、今後の可能性を聞いた。

中森 勇人

中森 勇人


中森勇人(なかもりゆうと)
経済ジャーナリスト・作家/ 三重県知事関東地区サポーター。1964年神戸生まれ。大手金属メーカーに勤務の傍らジャーナリストとして出版執筆を行う。独立後は関西商法の研究を重ね、新聞雑誌、TVなどで独自の意見を発信する。
著書に『SEとして生き抜くワザ』(日本能率協会)、『関西商魂』(SBクリエイティブ)、『選客商売』(TWJ)、心が折れそうなビジネスマンが読む本 (ソフトバンク新書)などがある。
TKC「戦略経営者」、日刊ゲンダイ(ビジネス面)、東京スポーツ(サラリーマン特集)などレギュラー連載多数。儲かるビジネスをテーマに全国で講演活動を展開中。近著は「アイデアは∞関西商法に学ぶ商売繁盛のヒント(TKC出版)。

公式サイト  http://www002.upp.so-net.ne.jp/u_nakamori/

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三進金属工業の大規模多段ラック

「植物工場」30年の光と影

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 植物工場の歴史は30年前にさかのぼる。その進化の過程は3つのステージに分けて考えることができる。

 第一次植物工場ブームは1980年代。1985年に開催されたつくば科学万博で日立製作所が展示した人工光型モデルプラントに代表される。

 同年には千葉県のショッピングモール、ららぽーと船橋ショッピングセンターの食品売り場に植物工場が併設され、売り場の窓から工場見学ができることや目の前で作られた野菜が即売されることなどで話題を集めた。

 当時の光源は高圧ナトリウムランプで、一段棚の平面栽培。産官学の学者が集まり、日本植物工業学会が設立された。この時期は実用に向けての黎明期だといえる。

 第二次植物工場ブームは1990年代。マヨネーズの拡販のため、キユーピーが植物工場のユニット販売を始める。光源は同じく高圧ナトリウムランプだが、栽培ベッドをV字型に配置、底面からの噴霧水耕やFRP成型パネルによる組み立て型にするなどの標準化を行い、日に500株を生産できるシステムとして市場導入を行ってきた。

 1992年には農林水産省も新たな生産体系として植物工場普及を支援。施設費補助事業が立ち上がり、施設数が増加していった。

 翌年には川鉄ライフ(現JFEライフ)が米国から技術導入をした太陽光併用型をシステムとして販売開始。生育に従って株間を広げる自動スペーシングシステムも注目を集めた。

 1998年には前出のキユーピーが福島県白河市の自社工場内に日産5000株の大型プラントを建設。サラダ菜、リーフレタスなど4品目に絞り込み、人員15名で年商を2億とし、採算ベースにのせる取り組みとなった。

 また、このころから蛍光灯利用の多段式が登場し、床面積効率が飛躍的に向上する。日立製作所、日立プラント、三菱電機や中部電力などがこの方式を取り入れるが実用には至らず、ベンチャー企業が開発を手掛けるも多くは撤退を余儀なくされた。

 現在まで継続しているのは1995年に建設された山形県米沢市の安全野菜工場。ここでは品目を焼き肉店直売の株採りサンチュに特化することで現在まで継続運営されている。

 第三次植物工場ブームは2000年代。日産1万株の多段式大型プラントも出現し、2010年には国の成長戦略に植物工場が記載された。

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三進金属工業 専務 新井宏幸氏
 そして現在、経済産業省、農林水産省による千葉大、大阪府立大、愛媛大などを中心に企業が集まり、オープンイノベーション型拠点整備事業が展開され、研究開発が加速。さまざまな支援策が後押しとなり、工場開設が増加する第三次ブームとなっている。

 最近の状況について新井専務は「6~7年前までは植物工場といえば『もうからない商売』の代名詞のようでしたが、天候不順による野菜価格の高騰や安全志向の高まり、LEDの導入によるランニングコストの低減などが後押しとなり採算どころかもうけをもたらす存在になりつつあります。何より計画生産により、約束した野菜がコンスタントに届くという魅力は何物にも代えられません」と語る。

植物工場は「遊休資産活用」の手段としても広まる

 植物工場のほとんどの施設の構成要素は栽培施設と建屋に分かれる。栽培施設は栽培棚やベッド、パネル、溶液制御などの設備に加え光源装置、空調設備、データ収集などの制御装置、冷蔵庫や包装機などの周辺装置、肥料や包装資材などの消耗品で構成される。

 建屋については遊休施設の活用により、初期費用のコスト削減が見込まれるのだという。

 福島県会津若松市にある富士通の植物工場がいい例だ。富士通はリーマンショック以降の半導体の減産により遊休資産にかかる年間数千万円の固定費を減らすため、クリーンルームを有効活用。2013年に新規事業として植物工場ビジネスに参入した。

 システムに自社開発の食・農クラウドAkisai(秋彩)を導入するなど、野菜生産の場としてだけでなく、ソフトの拡販、機能改善の実証工場として位置づけている。

 オリックスの子会社、OAファームでは兵庫県養父市の廃校になった小学校の体育館を改装。2015年3月から蛍光灯を利用と8段×11列の多段式栽培棚を設置し、日産3000株の出荷している。

 ここではフリルレタス、プリーツレタス、サンチュの3種を栽培。阪神間の飲食店の他、オリックス不動産の商業施設を通じて全国に販路を拡大しているのだという。

 多くのプラントに関わってきた新井専務は「遊休設備を活用することで初期費用を大きく抑えることができます。日産5000株クラスの植物工場の場合、建屋の建設と栽培施設にかかる費用はざっと見積もって5~6億円。これに対して既存の建屋を活用すれば2~3億のコストを抑えることも可能ですね」と話す。

【次ページ】障がい者雇用の場としても注目を浴びる植物工場

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