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  • 2018/05/24 掲載

「取引先のLGBT差別」はどうすればいい?ダイバーシティの問いは続く

東京レインボープライド2018企業・団体ブースレポート

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4月28日から5月6日までの日程で開催された「東京レインボープライド2018」。参加人数は15万2000人、協賛団体/企業は213と過去最大規模を記録した。出展企業の中でも数/規模、そして展示内容で目立っていたのが、外資系企業と生命保険/損害保険関連企業である。本稿では、PwC ジャパングループ(以下、PwC)、楽天グループ、日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)、ライフネット生命、AIG、東京海上日動、日本司法書士連合会(以下、日司連)、連合の取り組みを紹介するとともに、各社の思い入れや迷い、LGBT支援の今後のあり方を考察してみたい。

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト。明治学院大学国際学部卒業後、週刊誌記者などを経て、2001年よりIT専門出版社に入社。「Windows Server World」「Computerworld」編集部にてエンタープライズITに関する取材/執筆に携わる。2013年6月に独立し、ITジャーナリストとして始動。専門分野はセキュリティとビッグデータ。

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「東京レインボープライド2018」。5月6日のパレードには7,000人が参加した。
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シルバーウッド:VRでLGBT当事者の日常を体験する

 今回の出展企業の中で、特に来場者の関心を引いていたのは、「LGBT当事者側の日常」を仮想現実(VR)で体験するデモンストレーションを行っていたシルバーウッドだ。

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シルバーウッドのブース。「LGBT当事者側の日常」を仮想現実(VR)で体験するデモを披露した。

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 同社は薄板軽量形鋼造の構造設計や高齢者住宅・施設を運営する建築系企業だが、2017年2月からVRコンテンツの制作を手掛けている。きっかけは、認知症の症状を実際に体験するコンテンツを作成したことだ。

 「VRの活用方法を検討した結果、マイノリティ理解やハラスメント研修といった企業の研修用コンテンツに可能性があると考えた。VRを使ってワーキングマザーの立場やハラスメントの被害当事者の状況を体験すれば、話を聞いたり本を読んだりするよりも理解が深まると考えた」と、同社担当者は説明する。

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カミングアウトしていない当事者は、職場での昼休みに繰り広げられる雑談でもウソをつき続けなければならない。

 今回展示したのは、「カミングアウトしていない女性同性愛者の日常コンテンツ」だ。日常の会話で、当事者(同性愛者)がどのように感じるかを理解する内容になっている。たとえば、職場でカミングアウトをしていない人にとっては、「いつ頃結婚したい?」「どんな異性が好み?」といった日常会話も苦痛になる。東京レインボープライドで披露されたコンテンツにはこうした会話も収録されていた。



 同社担当者は、「当事者ではない人に、身近にLGBTがいることに気がついてほしい。LGBTを含むマイノリティがカミングアウトをしても、普通に働ける環境を一緒に考えてほしいとの意味を込めて作った」と説明する。

 シルバーウッドは社員250名で、VRに携わっているのは8名。コンテンツのシナリオ作成も自社で行う。VR事業部にはLGBTの当事者もいるので、当事者の立場に立ったシナリオ作成ができる。VR事業としての売上げは非公開だが、「当初の想定よりも問い合わせが多くて驚いている」(担当者)とのことだ。

PwC:取引先のLGBT差別にどう対応するのか

 一方、外資系企業の出展で目立ったのは、コンサルティングファームだ。PwC、アクセンチュア、EY Japan、デロイト トーマツ グループなどがブースを構えた。その目的は、自社のダイバーシティへの取り組みを紹介すること。だがそれだけではない。優秀な人材の獲得も視野に入れている。

 たとえば、PwCでは、ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂)の取り組みとして「2+1のアプローチ」を実践している。これは「Gender(性別の違い)」「Valuing Differences(国籍や文化の違いから価値を見いだすこと)」にプラスし、各国の状況に応じたダイバーシティの領域を設定して取り組むというものだ。日本ではこの「+1」に関し、「Disability(障がい者支援)」「Work Style Transformation(働き方改革)」「LGBT支援」に焦点を当てて活動をしている。

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PwCのブース。今後の課題は「顧客にどこまで理解を求めるか」だと語った。

 日本法人でLGBT支援活動の中心になったのが、PwCコンサルティング合同会社でマネージャを務める東田真樹氏である。当事者でもある同氏は自らが旗振り役となって、役員向けの説明会や人事部向けの研修、eラーニングの受講促進、ガイドブックの配布など実現してきた。現在同社は、法律上の婚姻関係がない事実婚や同性婚についても会社から結婚祝い金を支給し、結婚休暇を付与しているという。

 こうした取り組みについて東田氏は、「外資系企業という背景もあり、LGBT支援には歴史があった。社内にLGBTを差別する土壌はまったくない」としつつ、現在進行形の課題として、「顧客にどこまで理解を求めるか」があると語る。

 社内ではLGBT当事者であることが業務上のマイナスにならなくても、顧客先にもLGBTに対する理解を求めるかどうかの議論があるという。「たとえば、顧客から『ゲイの担当者は外してくれ』と言われたら、取引停止になるリスクがあっても、『それは(差別だから)受け入れられません』と言えるのか。逆にそのような顧客の言いなりになることは、『LGBT差別に加担しているのではないか』という議論がある」(東田氏)

 なお、こうした課題は、社内で議論の的になるのが常だ。東田氏は、「コンサルティング集団なので、ディスカッションから最適解を見いだすのは得意。『その人に仕事の能力があれば、セクシュアリティを問わないのが当たり前』という価値観を浸透させていきたい」と語った。

楽天グループ:死亡保険金受取人、ローンにも対応

 PwCのように、出展企業の中には、同性パートナーも配偶者として認める制度を設けている企業も多い。その1社が楽天だ。同社は同性パートナーに対しても、配偶者を持つ従業員を対象とした福利厚生を受けられるよう、適用範囲を拡大している。

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楽天の2016年6月に発足した社内有志によるLGBTネットワークと連携して、社内のLGBT当事者とその支援者に対して情報共有やサポート体制を提供しているという。

 同社のグループ企業でも、LGBTを対象にしたサービスを提供している。たとえば、楽天生命は、同社が求める一定の書類を提出すれば、同性パートナーを死亡保険金受取人として指定できる。

 また、楽天銀行では同性パートナー向けの住宅ローンを提供している。これは、リクルートの「スーモカウンター新築マンション」を通して新築マンションを購入する人が対象になるが、「パートナーの収入合算をベースに1本のローンを組める」メリットは大きいとのことだ。

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日本アイ・ビー・エム:多様性が変革の源泉

 東京レインボープライドに初回から出展しており、今回が7回目となるIBMは、昨年同様に自社のLBGTを含むダイバーシティ支援に関する取り組みを紹介した。

 米国IBMでは1960年代後半からLGBT支援の取り組み(運動)があったが、日本法人で具体的に活動が立ち上がったのは2003年。日本法人の人事部が米国本社から言われて進めたのがはじまりだ。

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日本アイ・ビー・エムはパレードにも参加した。

 日本で活動の中心となったのは、当事者である担当社員だ。「もともとIBMは『多様性が変革の源泉』をモットーにしている。すべての人が働きやすい職場環境には、よい人材が集まる。企業の競争力を高めるためにも(LGBTの支援といった)活動は必須」(担当社員)だという。

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 ちなみに展示内容は、「Watsonの先進性をアピールする」ことを目的にした「AIによる性格診断」。いくつかの質問に答えて性格診断をし、その性格に基づいた職種を紹介する。ただし、出展用にカスタマイズされたもので、「本格的なソリューションではない」とのことだ。

【次ページ】セクシュアリティは「人権問題」

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