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  • 2018/07/03 掲載

北朝鮮は「最後のフロンティア」、手にするのはトランプか、習近平か

連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤 

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米国のドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員が6月12日にシンガポールで史上初の米朝首脳会談を行い、朝鮮半島の「完全なる非核化」で合意した。かつての仇敵が手を取り合う国際政治環境の激変の中、北朝鮮に対する経済制裁解除をにらみ、米国と中国が経済的・地政学的な暗闘を繰り広げている。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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米朝首脳会談後、中国に近づく金正恩。その動向に注目が集まる
(写真:ロイター/アフロ)


北朝鮮は「最後のフロンティア」

 米朝融和の最も楽観的なシナリオは、米国が北朝鮮に対して求める完全かつ不可逆な非核化が履行され、その見返りとして日米や中韓が北朝鮮の経済発展に手を貸すというものだ。

 金正恩体制下の北朝鮮は、核兵器や中長距離ミサイル開発と経済開発を同時に行うことをうたう「並進路線」をとってきた。しかし実際には軍事がすべてに優先する「先軍政治」が幅を利かせており、2017年の推計では国内総生産(GDP)の最大22%を国防に費やしている。この負担が減る意味は大きい。

 また、米国にとっても16億ドル(約1760億円)規模とされる在韓米軍駐留費の削減につながり、増加する財政赤字を削減する小さな一助となるだろう(実際には、米国の在韓米軍関係支出は、韓国版「思いやり予算」により、半額の8億ドルと推定される)。

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韓国銀行の推計によれば、国際経済制裁の強化にもかかわらず、北朝鮮経済は強靭な成長を見せる。(出典: Statista

 4月に核開発の目標達成を宣言した北朝鮮は、経済開発に軸足を移すと見られる。米朝融和が順調に進めば北朝鮮に対する制裁が解除され、経済活動が活発になる。

 さらに、北朝鮮が従来軍事費に回してきた国家予算を経済開発に充てられるため、資本主義国は「最後のフロンティア」の北朝鮮に熱い視線を送る。現在の経済制裁下でも年率4%前後の成長を誇る北朝鮮は、潜在的な重要市場なのだ。

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アジア太平洋地域に展開する米軍の兵力一覧。在韓米軍は在日米軍に次ぐ規模を誇り、対北朝鮮・対中国戦略の要となっていることがわかる。
(出典:Creed Politico

 ポンペオ米国務長官は5月13日、「北朝鮮が核兵器を放棄すれば制裁を解除し、米企業が北朝鮮の農業、栽培技術、電力網やインフラ開発に手を貸せるよう計らう」と表明した。

 これは、中国への対抗策である。さかのぼって5月7日から8日にかけて訪中した金委員長が習近平中国国家主席に対して、(1)計画中の平壌「江南経済開発区」、(2)西海岸の南浦港、(3)中朝国境地帯の新義州と黄金坪および威化島、(4)東海岸の清津港のインフラ開発と経済協力を要請したことを受けて、同様のプロジェクトに参画する意思を表明したものだ。

 トランプ大統領やポンペオ国務長官は、「北朝鮮国民のために、韓国と肩を並べるような経済繁栄を実現できる」と表明している。

 北朝鮮が現在、米国や国際連合などから合わせて10件近くの個別の経済制裁を受けているにもかかわらず、米中という2つの超大国に投資計画を競わせることができるのは、レアメタルやレアアースなどの地下資源を豊富に持つ北朝鮮の強みなのだ。

中韓との通商を増やしたいのが本音?

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 中国はすでに、北朝鮮に対する制裁の緩和を示唆しており、米中の「制裁解除合戦」が進んでいる。事実、米朝サミット直後の6月に3度目の訪中を果たした金委員長に対して習主席は制裁解除を念頭に、「北朝鮮が経済改革を遂行する決断を下したことは喜ばしい」と絶賛した。

 さらに習主席は、「国際情勢や地域情勢にどんな変化が起ころうとも、中国共産党と中国政府が中朝関係を固める立場と決意は不変である」と述べ、北朝鮮の経済開発の主導としての役割を果たす決意を示唆した。

 このように北朝鮮の米中に対する態度を比較すると、北朝鮮が非核化合意に基づいて経済を開放したとしても、米国や日本が大きな役割を果たすことはないように見える。

 北朝鮮の金桂冠第一外務次官はポンペオ国務長官の提案を受けて、「われわれは自国の経済建設に米国の援助を期待していないし、将来においてそうした取引をすることもない」と述べているからだ。

 では、北朝鮮の資金源として、どの国がアテにされているのだろうか。トランプ大統領は、「北朝鮮が非核化を受け入れた後の経済支援は、日本や韓国あるいは中国などの周辺諸国が行い、米国が多く支出することはない」と述べている。

 一方、対北朝鮮の経済建設投資とは別に諸外国の支援が期待されるのが非核化にかかる費用で、英投資顧問会社ユライゾン・SLJキャピタルは総額が2兆ドル(約216兆円)に上ると推計している。日本の安倍総理は相応の負担支出に前向きな姿勢を表明している。

 こうして日本や米国などが非核化の費用負担をすることが予想されるにもかかわらず、北朝鮮が受け入れる投資は中国や韓国からのマネーが中心になるとの見方が強い。2013年から米AP通信の平壌支局長を務めるエリック・タルマジ氏は、「金委員長は、米国に経済制裁を解除させて、米国ではなく中国や韓国との通商を増大させたいのだ」との見解を示した。

 その理由としてタルマジ支局長は、「北朝鮮が融和的態度をとって支援を受け入れることは、必然的に現体制を破壊する可能性のある外部の者や体制の変革を叫ぶ者との接触の機会を増やし、さらに政権が敷く統制と規制の緩和を余儀なくされることだ。これらはすべて、ほぼ独裁体制を敷いている金正恩にとっては警戒すべき脅威となる」と分析した。

【次ページ】北朝鮮はすでに「一帯一路」の中か

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