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  • 2018/07/26 掲載

ロイバント・サイエンシズとはいかなる企業か?なぜ「失敗した薬」で儲けられるのか

ソフトバンクが11億ドル出資、大手製薬との提携相次ぐ

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ロイバント・サイエンシズ(Roivant Sciences)は、独特のビジネスモデルにより、創業後わずか3年でソフトバンク・ビジョン・ファンドから11億ドルもの資金調達に成功した企業だ。同社は他の製薬会社が臨床試験に失敗した新薬候補を譲り受け、データ分析などの新たな手法によって、異なる効能を見つけ出す手法を採用する。遺伝子治療、脳神経、皮膚など複数の疾患領域で「アンメット・メディカル・ニーズ(いまだ満たされない医療ニーズ)」を満たすことを狙う。ロイバントについて、スペインの医療系ベンチャーに所属する著者が解説する。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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薬の開発には膨大なコストと時間がかかる
(©FotolEdhar - Fotolia)

90%の臨床試験は失敗し、回収不能なコストを生む

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 新薬の開発には膨大なコストと時間がかかる。1種類の薬が開発され、市場で発売されるまでにおよそ26億ドル以上かかるという調査がある。26億ドルというのは、2003年から145%の増加の結果であり、製薬会社への負担は年々大きくなっている。

 コストが肥大化する主な要因は、臨床試験を通して新薬の有効性や安全性が確認できず、試験が失敗してしまうことにある。およそ90%の臨床試験が失敗に終わり、無駄になった研究が残る。

 臨床試験は大きく分けて3つの局面からなる。

 第I相試験(フェーズ1)では20~100人の健常者に対して新薬を投与し、安全性を確認する。およそ1年半かかり、1億6,900万ドル程のコストがかかる。

 次に、第II相試験(フェーズ2)では数百人規模の健常者および患者に対し、安全性・有効性の検証を行う。2年半、4億ドルの期間・予算が見込まれる。

 そして、第III相試験(フェーズ3)では数千人に及ぶ大規模な試験を行う。5億3,600万ドルの予算、2年半の期間を要する。各局面で最適な被験者を見つけ、その安全性・有効性を科学的に検証するのは、簡単ではない。

 膨大な予算を投じて臨床試験を行い、第III相試験において有効性が確認できなかった場合、それまでに行われた第Ⅰ相試験、第二相試験にかかったコストは回収できない。新薬開発のコストが増し、研究開発が滞る。

 そこで、新薬開発に要するコストを最適化する革新的な試みを行うのがロイバント・サイエンシズ(Roivant Sciences)だ。臨床試験が失敗に終わった新薬候補の情報を他社から譲り受け、元の手法とは異なる新しいアプローチで研究開発を行い、安全性・有効性のある応用方法を見いだす。

「アンメット・メディカル・ニーズ」に応える意義

 ロイバント・サイエンシズの独特の手法は投資家からの注目を集めた。2014年の創業からわずか3年でソフトバンク・ビジョン・ファンドなどから11億ドルの資金調達に成功した。バイオ企業においては史上最大の出資額となっている。ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、血液検査によってガンの早期発見を目指すGuardant Healthや感染症向けの製薬企業Vir biotechnologyと共に、複数の製薬企業を投資ポートフォリオに加えることとなった。

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ロイバント・サイエンシズのビジネスモデル

 ロイバント・サイエンシズを含めてソフトバンク・ビジョン・ファンドが投資する製薬企業は、いまだに治療法が見つかっていない疾患に対する需要「アンメット・メディカル・ニーズ」に応えようとしている。治療法の発見による社会的意義が大きいのはもちろん、新薬開発に成功した場合の大きな経済的リターンも期待できる。また、データ分析などの最新技術を活用し、複数の疾患領域に応用可能なビジネスに投資しているのも特徴と言える。

 孫正義社長は、人工知能が人間の知能を超える「シンギュラリティ」をビジョンとして語っている。製薬企業の投資に関しても、膨大なデータを収集して、人間には見つけられなかった新たな治療法を人工知能の力によって見つける可能性を見いだしているのかもしれない。

 ロイバント・サイエンシズに目をつけていたのはソフトバンクだけではない。武田薬品工業はソフトバンク・ビジョン・ファンドがRoivantに資金調達する前の2016年時点で、女性疾患および前立腺がんに対する治療法の提供を目的とするバイオ医薬品会社Myovant Sciencesをロイバント・サイエンシズと設立している。

 このとき、武田薬品工業は同社の臨床第3相試験を実施中または開始予定(当時)のrelugolix(一般名、開発コード:TAK-385)の独占的権利をMyovant社に供与した。また、RVT-602(TAK-448)の全世界における独占的権利もMyovantに供与した。

【次ページ】ロイバント・サイエンシズのビジネスモデル

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