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  • 2018/09/06 掲載

日本のロボット業界は今、「イノベーションのジレンマ」に陥りかけている

森山和道の「ロボット」基礎講座

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かつて多くの産業分野でプレイヤーの交代が起こってきた。ロボット分野においても、既存の大企業から、生まれたばかりのスタートアップやベンチャー企業へと主要プレイヤーが移る可能性は否定できない。「イノベーションのジレンマ」に直面する大企業は新市場へ乗り出しにくく、ユーザーがロボットへ期待していることも変化しつつあるからだ。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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アマゾンロボティクスに代表される、物流ロボットのイメージ。今、世界はRaaS(Robot as a Service)に向けて動き始めている
(©nao5970 - Fotolia)


「イノベーションのジレンマ」が産業用ロボットの世界でも起こる

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 今回はちょっと抽象的な話をしたい。

 日本は産業用ロボット大国である。中国のロボット産業は爆発的に成長しているが、日本のメーカーの開発・製造能力は高く、優秀である。だが、今後もずっと安泰かというと安心材料ばかりではない----という話は、多くの人たちが指摘している。そこに一つ付け加えておきたい。我々は今、市場が大きく変化する、潮目が変わるところを見ているのかもしれないと感じているからだ。

 クレイトン・クリステンセンの著書『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』は、多くの人が読んだことがあると思う。優良な既存企業が、自らの事業・商品が成功しているがゆえに新興市場への参入が遅れてしまい、自社製品よりも劣ってはいるが新機軸の商品を展開する新興企業に負けてしまい、業界地位を失ってしまうのはなぜか----という話である。

 優秀な既存企業は高機能化によって高付加価値を生み出すような、持続的なイノベーションには強い。既存の顧客もそれに満足する。だが破壊的なイノベーションにはついていけないことが多い。

 『イノベーションのジレンマ』の恐ろしいところは、合理的な正しい判断を積み重ねたゆえに、市場の変化についていけなくなる点だ。大事な点なので繰り返すが、大企業なりには合理的で「正しい」判断を積み重ねた結果、間違ってしまうのである。そして、こういうことがいろいろな市場で何度も繰り返されているのだ。

 同じことが、産業用ロボットの世界でも起こるかもしれない、あるいは起ころうとしているのではないかと筆者は懸念している。

大手が協働ロボット市場を開拓できなかった理由

 たとえば協働ロボット市場もそうだ。安価で導入しやすい協働ロボットの活躍が期待されるのは、自動車や電化製品など既存の製造現場ではないところである。それらは、これまでロボットが使われてきた組み立て現場などに比べると、環境の整備が遅れているし、狭く、ユーザーもロボットに慣れていない。

 つまり、それらの現場にロボットを適用するには手間がかかってしまう。また、そもそも一個一個の現場のサイズが小さく、もうけも少ないため、成功している大企業にとっては参入価値自体が低く見える。細かい話はいろいろあるにしても大ざっぱにいうと、おそらくこれらが既存の大手産業用ロボットメーカーが協働ロボット市場に参入するのが遅れた理由だろう。

 いっぽう、いち早くその市場の価値に気がついたデンマークのユニバーサルロボット社は、現在、協働ロボット市場の6割を握っている。ベンチャーのほうが意思決定は早く、特定の市場にフォーカスできる。最初は市場が小さくても、ベンチャーにとってはちょうどいい場合もある。製品が大手メーカーからすれば、とても工場での生産設備の品質を十分に満たせるようなものでなくても、それでもいいという現場もある。



 大手メーカーも今では協働ロボット市場の開拓に力を入れ始めている。結果論ではあるが、彼らの技術力をもってすれば、もっと早く市場を開拓し、取ることもできたはずのように思える。そうしていれば、今ではもっとさまざまな応用、大きな市場が拓けていたかもしれない。

 同様のことは、他のロボット開発企業にも言える。

 サービスロボット開発に手を出している企業は少なくない。サービスロボット市場では多くのロボットが苦戦しているが、開発メーカーのなかには自社内に製造現場を持っている人たちも多い。彼らがその開発技術を持って、自社現場の改善に取り組み、そこで協働ロボットのような実際に顧客からカネが取れる市場を開拓しつつ、まだまだ未知数のサービスロボット市場の可能性を探索し続けるような未来もあり得たのではないかと思う。だが現実には、そうはいかなかった。

【次ページ】Robot as a Serviceへの対応は十分か、そのロボットはスケーラブルなシステムか

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