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  • 2018/09/11 掲載

物流ベンチャーのGROUND、アマゾンの弱点を突く「ロボット×AI」プラットフォーム戦略

森山和道の「ロボット」基礎講座

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物流倉庫用のロボット「Butler(バトラー)」を国内展開しているGROUND社。同社が推進するオリジナルコンセプト「Intelligent Logistics(インテリジェント・ロジスティクス)」の中核はロボットとAIの活用にある。同社のプラットフォーム戦略を知ることは、今後のユーザー目線でのロボット活用のあり方を考えることそのものである。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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ロボットや設備ハードウェアではなく、AIとオペレーションによって巨大なアマゾンと闘うことを選んだGROUND。その戦略に迫る


物流プラットフォーム・ベンチャー、GROUNDとは

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「DPL市川」内で稼働中の「Butler」。左側の棚下部にあるグレイとオレンジ色のロボット

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 Eコマース向け物流ベンチャーのGROUNDが、ロボットソリューション、物流オペレーションの研究・開発を行うR&Dセンター『playGROUND(プレイグラウンド)』を設立した。

 GROUNDは2015年4月に設立された会社で、BITS Pilani大学の学生二人によって2011年に設立されたインド・GreyOrange社が開発した物流倉庫用のロボット「Butler(バトラー)」を、2016年から国内展開していることで知られている。

 「Butler」は専用の可搬式棚を持ち上げてピックアップ/棚入れ作業者のいるステーションまで運んでくるタイプの自動搬送ロボットだ。Butlerを使ったシステムは2017年1月にニトリに導入されたのち、展開が続いている。

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Butlerと物流施設の稼働を可視化する、Butlerのインターフェース。各ステーションやロボットの稼働状況が一目でわかる。

 GROUNDがこれまでに契約したButlerは合計226台。ニトリの西日本通販発送センターに79台、大和ハウス工業「DPL市川」に39台、来年春以降には機械工具卸売商社大手のトラスコ中山の物流センター「プラネット埼玉」に73台、それ以外に非公開の施設がある。

 今回は『playGROUND』を見せてもらい、GROUND代表取締役社長の宮田啓友氏と、同プロジェクトマネジメント室室長の池上裕亮氏に話を伺った。

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GROUND 代表取締役社長 宮田啓友氏

 『playGROUND』は、大和ハウス工業が千葉県市川市に2016年に開発したマルチテナント型物流施設「DPL市川」の「Intelligent Logistics Center PROTO」内にある。筆者が訪問した2018年8月末には、『playGROUND』には倉庫を想定した棚が置かれており、自律型協働ロボットと人を組み合わせたピッキングソリューションの開発・検証が行われている最中だった。

 棚には100円ショップなどで購入したという日用品が、棚からはみ出すなど、わざと無造作に置かれていた。実際の倉庫に近い状況を想定してテストを行っているからだと池上氏が教えてくれた。場所が物流倉庫なので、廃棄になった商品なども転用して使っているそうだ。

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GROUND プロジェクトマネジメント室室長 池上裕亮氏

 GROUND社は2018年8月23日に中国のロボット企業 HIT ROBOT GROUP(HRG)との協業を発表している。2社で中国における物流技術の共同実証や物流プラットフォームの構築を目指す。『playGROUND』でテスト中だったのもHRG製のロボットだった。

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『playGROUND』で検証中のHRG製のAMR

 サイズは高さ127.5㎝、幅47.1㎝(土台部分)、奥行は48.5㎝。GROUND用にデザインされたもので、棚の間を自律移動し、ピッキングする人をサポートする。

 ロボットにはタブレットと棚が二つ設けられており、人は棚に指定された物品を入れていく。走行速度は最大1.5m/秒、ペイロードは最大60kg。連続稼働時間は8時間。充電時間は2時間。ロボットは人間一人あたり3台程度を配置し、人はあまり歩き回らなくてもいいようにする。ロボットそれぞれの動きはAIで管理される。

 なお、今回見せてもらったロボットはあくまでプロトタイプで、スペックは変わる可能性が高い。

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横のクリアランスが少ない狭い場所でも問題なく通過できる

物流ロボットは2種類、GTPとAMR

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人のそばで一緒に働くロボットがAMRタイプ

 「物流ロボットには大きく分けて、人のところまで荷物を持って来る『GTP(Goods-to-Person)』と、人と一緒に働く『AMR(Autonomous Mobile Robot)』の2種類がある」と宮田氏は語る。

 『playGROUND』でテスト中だったロボットはAMRタイプだ。Amazon RoboticsのKiva Systems(現Amazon Robotics)や、GROUNDが国内展開している「Butler」、中国の「Geek+」、オカムラ(旧・岡村製作所)が扱っているノルウェーの「オートストア」などはGTPタイプである。

 GTPタイプは大きな省人化効果を発揮するロボットシステムだが、メリットを出すためにはある程度の規模を必要とするし、倉庫内レイアウトの変更やオペレーション再構築が必要で、初期投資も大きくなる。

 いっぽう、AMRタイプのロボットは従来型の既存の倉庫に入れて、初期費用を抑えながら既存のオペレーションを生かして効率化・省人化を進めるためのソリューションという位置付けだ。投資対効果で使い分けることになる。

 池上氏は「完全無人化は難しい。無人化よりも協業型で、もっと人が働きやすい環境を求められることもある。クライアントさんが求める事業環境によって変わって来ると思う」と語る。どんなふうに顧客事業にフィットしたかたちでオペレーションを展開していけるかが重要だという。



 GROUNDというとButlerのイメージが強かったが、宮田氏らは、今後はAMRタイプ、いわゆる協働ロボット型の活用が物流分野でも大きく伸びると見ている。生産性は2、3倍程度にとどまるものの、数台から使い始められ、手軽かつ簡単に導入できるからだ。

 もちろん、GTPタイプとAMRタイプは互いに食い合うわけではなく、需要波動によって使い分けられるものだ。需要波動が大きいものはAMRと人、ある程度安定的に売れるものはGTPタイプを使う。自動倉庫なども同じだ。「重要なことはバランス。いかに細かく組み合わせていくのかが大事です」(宮田氏)。

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2種類の物流ロボット、GTPとAMRの棲み分け概念図
(提供:GROUND)


 GROUNDではAMR型ロボットを「Butler」、そして2013年に創業された米国のベンチャーSoft Robotics社のピッキング用ソリューション「SuperPick」に続くハードウェアとして、2020年3月までに国内市場への提供を目指している。

 取材に伺った時間はすでに業務終了時間に近かったが、「playGROUND」の外の「Intelligent Logistics Center PROTO」の実際の倉庫では、まだButlerが稼働していた。

アマゾンのKiva買収に始まる物流ロボット開発競争と、GROUND創業

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GROUND 代表取締役社長 宮田啓友氏

 GROUNDはロボットや設備ハードウェアで勝負する企業ではなく、あくまでAIとオペレーションによって「物流プラットフォーム」の提供を目指す会社だ。同社が「Intelligent Logistics(インテリジェント・ロジスティクス)」と呼んで提唱しているオリジナルコンセプトを実現するため、物流領域におけるプラットフォーム構築を目指している。ロボットはそのための要素技術の一つだ。

 ロボットと並ぶ中核技術が、自社開発しているAI物流ソフトウェア『DyAS(ディアス)』である。在庫・リソースなどを分析・解析して最適配分を計算。物流オペレーションを最適化するソフトウェアである。GROUNDの従業員数は40名弱(2018年8月現在)。うち、13名がエンジニアだ。

 宮田氏はアスクルと楽天、それぞれで物流事業の責任者を経たのち、2015年4月にGROUNDを創業した。ここでいったん、宮田氏の経歴と重ね合わせつつ、近年の物流ロボット業界の流れをおさらいしておこう。中心はアマゾンである。

 宮田氏は楽天時代の2010年に、アマゾンが2012年に7億7500万ドルで買収する前のKiva Systems(2003年創業)のロボットを見るために、アメリカのボストンに拠点を置いていた物流受託会社 Quiet Logistics社を訪問していた。

 アマゾン買収前は、Kivaのロボットは21社に提供されていた。そのうちの一つがQuiet Logistics社で、同社は物流倉庫を管理する独自のウェアハウス・マネジメント・ソフトウェアとロボットを使って事業を行っていた。Quiet Logistics社では200台のKivaロボットが3種類のブランドを混在させて扱っていた。宮田氏は「これはすごい、日本でも普及するに違いない」と考えたと当時を振り返る。



 その後、2012年にアマゾンは破格の金額でKivaを買収。当時、Kivaの市場価格は50億円程度だと考えられていたそうなので、それと比較すると、7億7500万ドルという金額がいかに破格かわかる。

 アマゾンがKivaを買収したことで何が起こったかというと、Kivaのユーザーには、契約を更新しないことと、将来的に現在動いているロボットも使えなくなるという通達がなされた。つまりその結果、Kivaユーザーはロボットを使うのを諦めて元どおり人手でやるか、自分たちで新しいロボットを作るかしかなくなってしまったのである。

 ちなみにQuiet Logistics社の創業者のブルース・ウェルティ(Bruce Welty)氏と、Kivaの創業者ミック・マウンツ(Mick Mountz)氏とは以前からの友人で、ウェルティ氏はKivaへの出資者の一人でもあったそうだ。そうしてQuiet Logistics社は、ロボットを使って差別化した物流受託サービスを提供してきた。

 ところが、アマゾンの買収によって、それができなくなってしまったわけだ。なお関係者によると、アマゾン買収後3カ月間は何の通知もなく、その後いきなり、ロボットの供給を止める、さらに2019年にはソフトウェアの供給も止めるという通達が来たそうである。

 有用なロボットの恐ろしいところは「ポイント・オブ・ノーリターン」だということだ。つまり一度使い始めると、もう「ロボットを使わない」という選択肢はなくなってしまう。ブルース・ウェルティ氏はLocus Roboticsという物流ロボットを使う新しい会社を立ち上げた。

 宮田氏は「彼(ウェルティ氏)は4年近くKivaを使い倒して、ロボットの良いところも悪いところも現場で使って知っていた。なので、もっと良いものが作れると判断したわけです」と解説する。宮田氏は当時、同社のロボットを世界で一緒に拡販していかないかと誘われたそうである。



 その後の経緯は諸般の事情により省略するが、2015年に宮田氏は独自にGROUNDを創業するに至ったという次第だ。ご存じのとおり、eコマースは今もなお成長中だが、物流受託業のコストの多くを構成する人件費が高騰しており、人手も圧倒的に不足している。

 テクノロジーによる問題解決が必要であり、アマゾンその他は物流に多大な投資を続けている。Kivaのロボットもすでに10万台が稼働しており、おおよそ130カ所あるとされているアマゾンの物流施設の、ほぼ全てで使われている。最新物流施設ではなんと、おおよそ6000台のロボットが使われているという。日本では考えられない規模だ。「我々が2017年にニトリに導入したのは、約80台。規模もスピード感もまったく違います」(宮田氏)

 アマゾンがKivaを運用している様子を動画で見るだけでも、オペレーションのレベルの差がわかるという。ちなみにアマゾンのロボットは製造から検品、そして出荷に至るまで、完全に無人化された状況で製造されているそうだ。日本は大幅に後れを取っている。

 なお、宮田氏がButlerに目をつけた最初のきっかけは、本当にたまたまだったそうだ。偶然、MITの学生たちとランチをとる機会があったときにインドでGreyOrangeを立ち上げたばかりの関係メンバーがいたのだという。程なくGreyOrange側とSkypeで話をし、インドに0泊で出向いた。最初に見たときから出来栄えがよかったという。



【次ページ】アマゾン唯一の弱点は?GROUNDが狙う“勝ち筋”

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