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  • 2018/11/16 掲載

三菱電機、裁量労働制の“悲劇” 大手企業の働き方改革は「八方塞がり」だ

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三菱電機が裁量労働制を全廃していたことが明らかとなった。過重労働など労務管理上のトラブルが相次いだことが原因とされているが、ビジネスモデルや業務プロセスの抜本的な見直しを行わないまま、安易に裁量労働制を強化すれば、こうした事態に陥ることは目に見えている。日本では「働き方改革」が国をあげてのテーマとなっているが、見かけ上、勤務形態を変えても実態は何も変わらない。働き方改革というのは、経営の問題そのものであり、改革にはそれなりの覚悟が必要となることを認識すべきだろう。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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三菱電機が裁量労働制を断念せざるを得なかった理由は、日本企業の仕組みそのものにある

社名公表のリスクを考えた可能性が高い

 三菱電機ではこれまで約1万人の社員に裁量労働制を適用していたが、制度を全廃したことが明らかとなった。裁量労働制で働いていた社員にトラブルが続出したことが廃止に至った原因とみられている。

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 同社では、違法残業に関して労働基準監督署から是正勧告を受けたり、裁量労働制の社員が過労自殺するといった事例が相次ぎ、厚生労働省による調査を受けていた。企業名公表のリスクなどを考え、労務管理を徹底するため制度の廃止に踏み切った可能性が高い。

 従来は、労働基準法に違反し、かつ送検された企業だけが社名公表の対象だったが、2017年以降は方針が大きく変わり、一定要件を満たした企業については送検されていなくても公表されることになった。

 大手企業の場合、社名が公表されることの影響は大きい。同社に限らず、裁量労働制について再考を迫られているところは多いだろう。

 本来、裁量労働制というのは、労働時間と成果が直接関係しない職種に適用されるべきものである。現実には、極めて高い成果を上げる社員の労働時間はそれなりに長いと考えられるが、いずれにせよ自らの責任で業務を完結でき、それにふさわしい報酬をもらっている社員が対象となるはずだ。

 しかし日本企業において、純粋に成果だけで評価される業務に従事している社員は少ない。多くの職場では、労働集約的な性質を色濃く残しており、長時間働かないと業務をこなせないというのが現実である。こうした職場にやみくもに裁量労働制を適用すれば、労働時間が際限なく伸びることは容易に想像ができる。

 日本の組織には、戦略が軽視され個別戦術ばかりが重視される、全体最適化が進まず部分最適化だけが行われる、といった欠陥があることは以前から指摘されてきた。働き方改革をめぐる一連の混乱は、日本型組織の欠点が顕在化した典型例といってよいだろう。

日本は労働動員型経済になっている

 働き方改革の本質は生産性の向上にある。だが日本の職場では、生産性という概念が誤解されているケースも多く、これが働き方改革を阻む要因となっている。

 生産性は生産量を総労働量で割って求めることができる。生産量としては比較検討がしやすいよう、企業が生み出す付加価値を用いることが多く、マクロ的に考えればGDP(国内総生産)がこれに該当する。総労働量は総労働時間もしくは就業者数を使うのが一般的だ。

 日本ではアベノミクスがスタートした2013年から2017年にかけて200万人も就業者が増えた。率にすると3.2%の増加だが、これは高齢者や専業主婦などが労働市場に出てきたことが最大の要因である。だが同じ期間で実質GDPは4%しか増えていない。3.2%も就業者を増やして、4%しか成長しなかったのだから、労働生産性の向上はごくわずかということになる。

 理論上、労働者の賃金は生産性に比例するので、日本の従業員の実質賃金はほとんど上昇していない可能性が高く、現実のデータもそれを裏付けている。

 数年にわたって労働生産性が上昇していない場合、企業のビジネスモデルはほとんど変わっていないとみてよいだろう。つまり日本全体として同じビジネスモデルを維持したまま、労働投入量を増やすことで何とか経済を回すという、いわば労働動員型経済に陥っていることが分かる。

 本来であれば、資本集約型あるいは知識集約型にビジネスモデルを転換し、より少ない従業員数で同じ付加価値を得られるよう体質転換しなければならないが、そこまでには至っていないというのが現実だろう。

【次ページ】なぜ経団連は裁量労働制に「前のめり」なのか

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