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  • 2019/03/27 掲載

会社をダメにする「場当たり的」なリーダーはなぜ生まれるのか

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会社や上司が「場当たり的」だ。そう感じたことがない会社員は少ないのではないか。方針がコロコロ変わる。根拠不明な数値目標を挙げる。「社員の自主性」を口実に、下にすべてを丸投げする。なぜこんなことになるのか。『「場当たり的」が会社を潰す』(新潮社)の著者で、数多くの企業の研修に携わってきた北澤孝太郎氏が、「場当たり的」を発生させるメカニズムと対応策を鮮やかに解明&解説する。

東京工業大学大学院 特任教授 北澤孝太郎

東京工業大学大学院 特任教授 北澤孝太郎

1962年生まれ。東京工業大学大学院特任教授。レジェンダ・コーポレーション取締役。神戸大学経営学部卒業後、リクルートに入社。日本テレコム(現ソフトバンク)執行役員法人営業本部長などを経て現職。著書に『営業部はバカなのか』など。

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「場当たり的」な営業は、戦略と戦術がよく練られていないために起こる
(©polkadot - Fotolia)

「場当たり的」とは何か

 よく考えられた戦略がない状態でとりあえず行動を起こすために方向性を決めること。それによって成果のあがりそうにない戦術が非論理的に提示されることを「場当たり的」とこの記事では定義します。

 戦略と戦術の違いを野球で説明してみましょう。同点で9回裏ノーアウト満塁。1点もやれない場面。自チームの投手の球には勢いがあり、スタミナがまだ残っている。そのため、「次のバッターは、内野ゴロを打たせないで、三振で仕留める」という方針をベンチが立てたとします。

 これがこの時点でのチームの戦略です。

 この戦略に基づいてバッテリーは戦術を考えます。「1球目、内角をえぐるようなストレートでバッターをのけ反らせておいて、2球目は外角のスライダーで……」という具合に、やることを具体的にして順番をつけたものが戦術です。

 ただし、戦術は、状況によって変化させねばなりません。もしも相手に手の内が読まれていると仮定した場合、当初の予定通りの配球にすると、フォアボールで押し出しの危険性が出てきます。三振は取れなくなります。戦略には一貫性が求められますが、戦術は臨機応変である必要があるとも言えるでしょう。

 戦略そのものが論理的に構築されたものではなく、曖昧なままで、それ自体が状況にあわせて、ころころ変化してしまうとどうでしょう。当然、戦術も定まりません。プレイヤーたちは、何をどこまですればよいのかがわからず、やることに焦点が定まらないのではないでしょうか。

 その結果、組織としては思い通りの結果を得られません。それに関わる人たちは、成長感も味わえず、場合によっては徒労感さえ感じてしまうに違いありません。

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「戦略」という名の「場当たり的」な対応が溢れかえっている
(©polkadot - Fotolia)

 「場当たり的」にならないためには、「強い思い」が必要です。その思いを実現していくには、その構造、仕組みをしっかり考えたうえで、「戦略」を練り、それをしっかり「戦術」に落とし込んで何度もトライアンドエラーするべきです。

 会社でいえば、「強い思い」は「大目標」とでも言うべきものです。会社内のすべての行動は、この「強い思い」を実現するためのものでなければなりません。強い思いを実現するための大きな方向性が「戦略」です。

 その戦略の成功の可能性を高めるために「戦術」は存在しています。多くの社員が日々の仕事において実行に関わっているというのは、「戦術」です。たとえば「業界シェアナンバー1を維持し、利益を上げ続ける」という「強い思い」の会社があるとします。当然、会社の企画、営業、サービスはその「ナンバー1」を維持することに資するものでなければなりません。

 しかし、一方で各部署や個人は毎日「業界シェアナンバー1」を目指して、それに自分自身が合点のいくもののみを選択して行動するわけではないでしょう。その大目標の実現のために、経営者や上司が考えた戦術を実行し、戦略を成功させるために、具体的な行動を取らなければなりません。それは「1日100件訪問」の場合もあれば「古くからの顧客への手厚いサービス」の場合もあるでしょうし、「ナンバー2の会社の顧客の奪取」かもしれません。

 このように文字にすると、当然のように思われるかもしれないのですが、実際の会社では「強い思い(大目標)」と「日々の課題、行動目的」、あるいは「戦略」と「戦術」とが混同されていることが珍しくないのです。

 個々の社員レベルで考えれば、日々の仕事は「戦術」に則ったものです。その「戦術」は上司が部下に示したものです。部署全体の「戦略」は多くの場合、その上司(部長など)が示すことになるでしょう。ですから、社員から見れば「戦略」は部長が打ち立てるもの、というのが実感かもしれません。

 いずれにせよ「戦術」は「戦略」に規定され、「戦略」は「強い思い(大目標)」に規定されるという関係にある。この構造を理解しておく必要があります。しかし、こうした理解がないと、「強い思い」と「戦略」と「戦術」との関係が整理されないまま、方針が打ち出されるのです。

根拠なき戦略

 実際に、筆者は研修の打ち合わせの現場において、そういう「戦略(もどき)」を多く目にしてきました。

 先日、ある大手企業の役員、本部長研修の前に打ち合わせに行き、各事業部の今期の戦略を事前に見せて頂いたときのことです。そこに並んでいたのは、それぞれの部署の「戦略」なるものでしたが、いずれも私には「戦略」の名に値するものには思えなかったのです。「場当たり的」なのです。早速、私はその役員、本部長らに話を聞いてみました。まずはA本部長です。彼は担当部署の今期の「戦略」として「売上対前年度8%アップ」を掲げていました。

私:「本部長、この本部の第一の戦略は、売上対前年度8%アップを掲げておられます。つまりこれがこの本部の大きな目標ということなのでしょうが、根拠はなんでしょうか」

A本部長:「根拠?そんなものはありませんよ。しいて言うなら、前年が5%アップという目標を掲げていたにもかかわらず、3%ダウンに終わったのです。当然、挽回してそれを超える目標を掲げなければなりません。このままでは、当部も危うくなりますからね。売上を上げることが第一優先です」

私:「なるほど。では、それを成し遂げるための戦術はなんでしょうか」

A本部長:「今、それを考えるように部下に指示を出しているところです」

私:「本部長ご自身は、戦術は考えられないのですか。もし、的確なものが上がって来なければどうされるのですか」

A本部長:「そのときは私が出しますが、私はあくまでとりまとめ役です。部下に考えさせて、実行させるのが本部運営には一番いいのです。結果はみんなの責任という意識になりますから」

私:「では、昨年3%ダウンに終わった原因は、なんだとお考えですか」

A本部長:「それも今分析させています。なかなか難しい状況があるようです。ただ、私が感じるのは、訪問数が圧倒的に不足しているということです。先日の本部会議でもそのことを指摘し、1日3件の訪問、それを評価に反映させると宣言したところです」

 ここまで聞いて、私は恐ろしさすら感じ、これ以上の質問は無駄だと判断しました。A本部長のどこが問題なのでしょうか。

 まず、そもそも「8%アップ」は戦略ではありません。単なる目標数値を戦略と称しているのです。しかも昨年3%ダウンに終わったのにもかかわらず、原因を自らつかんでいません。つかもうともしていません。そのダウンは不可避のものだった可能性だってあるのです。

 それなのに、「挽回する」という方針と、数値目標だけを決め、その方策は部下に丸投げしています。さらに、自分の役割を自分で決め、責任を部下に押し付けている。

 しかも、恐ろしいことに、何の根拠も持たず自分の直感で、業績の悪かった一因は、訪問不足だと決めつけ、評価にまで反映させると、半ば強制的に実行を促しています。

 この半端ない当てずっぽう感、武器なしで強制的に戦わせる超無責任感は何でしょうか。本部会議の場で思いついたような「場当たり的」なやり方を支持するのは、大問題です。この記事を読んでいる方の中で、「いいじゃないか、訪問数は業績に直結する」「部下に方法を考えさせるなんてなかなかの人物だ」なんて共感された方がいるならば、すでにものすごく「場当たり的」な人になってしまっています。とてもこれからの組織を任せられるような人ではありません。

【次ページ】組織内の力学だけ見る役員

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