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  • 2019/04/10

貧困とテクノロジー:AIが貧困者を予測し、3Dプリンタが格安住宅を建てる

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

好業績で快進撃を続ける米IT大手に対して、「経済格差の悪化、住宅価格高騰、物価上昇の元凶」と見る一部世論の反感が募っている。こうした中、多くのIT企業は手頃な価格帯の住宅建設や、収入保証政策であるベーシックインカムの制度化に向けた動きなどを支援する一方、「シリコンバレーのツール」を活用した住宅問題や貧困問題のソリューションを提供するものが現れている。テクノロジーは貧困を解決しうるのかーー。

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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テスト運用段階だが、サンフランシスコ市ではAIがホームレスへの援助の優先度を決めている
(©alfa27 - Fotolia)


約1100万円で建つ3Dプリンタ住宅

 テクノロジー大手が大都市に拠点を構えることによる住宅事情悪化は、一朝一夕には解決できない慢性的・構造的な背景がある。そもそもシリコンバレーやニューヨークなどの進出先は、一般庶民が手軽に入手可能な価格帯の住宅供給が絶対的に不足していたため、高給のエンジニアたちが多数流入することで争奪戦が起きて、価格がつり上がってしまう。

 そうした中、「住む」ことが目的ではなく、「値上がりによるキャピタルゲインを得る」目的の投資家が参入し、さらに住宅価格は高騰する。市場原理で動く売り家の値段や家賃は生活者のニーズから乖離(かいり)して高騰し、住民たちが新規に家を購入したり、家やアパートを借りることが困難となってホームレスになったり、より住宅価格が安く住環境の悪い地域へと転出を迫られることになる。

 このように問題が資本主義の仕組みに深く根差すため、処方箋は「解消」ではなく「緩和」を目指すものにならざるを得ない。その限界を認識した上で、シリコンバレーからはいくつかの興味深い、テクノロジーに基づく提案が出されている。

 まずは3Dプリンタを使用することにより、建設期間が2~3週間未満、コストが100,000ドル(約1100万円)未満で建てることができる夢の低価格住宅だ。



 建設スタートアップのICONが、3月に開催されたテクノロジー系の大規模イベントであるサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)で発表した3Dプリンタ実証住宅は、約60平方メートル(およそ18坪で39帖)と、米国の住宅にしてはこじんまりとしている。

 だが、リビング、ベッドルーム、バスルーム、キッチン、屋根付きのポーチを備えるため、一人暮らしや子供のいないカップルなどには理想的だ。

 3Dプリンタ住宅は建設現場にクレーンのような形をした大型プリンタを持ち込み、コンクリートの層を積み重ねて成形する。ソフトウェアに設計図を読み込ませれば、さまざまな形状の住宅を作り出すことができる。ICON共同創業者のジェイソン・バラード氏は、「従来型の住宅より10倍優れている」と胸を張る。

 米国では珍しくない広い庭がある家の持ち主が、敷地内に賃貸目的で建設することも可能である。住宅価格や家賃のレベルを下げ、新たな経済機会を創造できる。事実、自宅の敷地の空き部分に離れを建設して賃貸ユニットにすることを支援するPoint Digital Financeという企業もある。建設費用を融資した上で、将来の不動産価値の上昇から返済をしてもらう仕組みだ。

 また、上昇する一方の住宅価格と伸び悩む賃金の上げ幅で、多くの低所得層が住居を見つけられない問題をデータによるマッチングで緩和するOneApp Oregonでは、「住宅建設の代わりにソフトウェアで住処を提供する」をうたい文句にしている。

 低所得のため賃貸住宅の入居条件を満たさない人々が、共同で住宅を借りて、家やアパートをシェアできる。このようにして、使用されていない空き家やアパートが有効活用され、クレジットの信用度が低い人も入居ができる。月1,000ドル(約11万円)の家賃を支払うことが無理でも、500ドルなら出せるというような人に向いている。

 カリフォルニア大学バークレー校の住宅イノベーションセンター所長であるキャロル・ガランティ教授は、「庶民に手の届く住宅建設に(テクノロジーによる)イノベーションは欠かせないが、それは実際に起こっている」との見解を示す。

“貧困”になりそうな人をAIが予測する

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 一方、貧困やホームレス化の原因となる不健康や低学歴などの要素を人工知能(AI)に機械学習させ、困窮の原因となりやすい要素の「組み合わせ」を特定して、将来の政策立案に役立てようとする試みも進んでいる。

 このプロジェクトを主導するスタンフォード大学経営大学院のジェフリー・コーエン教授は、「シリコンバレーのツールを用いて歴史的な貧困問題の解消に取り組む」ことを目標に掲げる。

 具体的には、国勢調査・人口動態・雇用統計・賃金データ・ソーシャルメディアから提供されるデータ・グーグルのストリートビューなどビッグデータを用いて、貧困のリスク要素の組み合わせを機械学習で割り出し、貧困(連邦政府の定義では独身で日収31ドル未満、4人家族で63ドル未満)に落ち込む可能性の強い人やグループを予測する。

 このようにしてAIで「薬物中毒と住居を失うリスク」「強力な社会福祉サービスにアクセスを持つ人とそうでない人の住居を失うリスク」など、貧困へのさまざまな道筋を詳細に特定することで、それぞれの文脈において効果的な介入を行うタイミングの提言が行えるとコーエン教授は期待を寄せる。

 さらに、データとマップを重ね合わせることにより、どの地域でどのようなプログラムが必要とされているかを、より正確に知ることができるという。これは、資源の有効な配分やきめ細やかな政策提言につながるとされる。

【次ページ】AIがホームレス支援の優先度を決める

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