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  • 2019/04/25 掲載

自動車販売「CASE」で140万台減、中国市場も急減速した業界のゆくえ

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世界経済の成長は、ここにきてやや落ち着きを見せている。世界の実質GDP成長率を見ると、2018年の3.2%から、2019年~2021年には2.8%に減速する見込みだ。世界経済の大きな原動力になっている自動車産業は今後、どう進展していくのだろうか。IHS Markitで自動車関係に特化したリサーチやコンサルティングを行うHenner Lehne氏に、消費者側の需要の観点から自動車の世界的なニーズや短・中長期的の見通しなどを聞いた。

聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、執筆:井上猛雄

聞き手・構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、執筆:井上猛雄

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IHS MarkitでVice President Global Vehicle ForecastingをつとめるHenner Lehne 氏

2018年を境に経済成長は収束へ、主要各国の景況はどうなる?

 各国の経済状況を見ると、米国は2019年にトレンドを上回る成長率を示す予想だが、2020年から高金利と財政刺激策が縮小し、成長が抑制される。欧州もフランスの暴動やイギリスのBrexit(EU離脱問題)の行方、イタリアやトルコの財政面のリスクなど負の要因がある。日本も経済成長が軟化しており、2019年10月からの消費税の引き上げが景況感を冷やしかねない状況だ。
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主要国の実質GDP成長率の推移。2018年の3.2%から、2019年~2021年には2.8%ペースに減速する見込みだ。トレンドを上回る成長期は収束していく
 新興国の状況を見ると、地域ごとに異なるリスクが表出している。成長が著しかった中国は、米国との経済摩擦により、GDPが減少する見込みだ。一方の人口大国であるインドは、2019年に世界第5位の経済圏に成長する見込みで、海外投資の継続的な投下によって数年間は7%の成長が維持される方向だ。ブラジルの経済回復は依然として停滞しており、ロシアの回復も鈍い。

「中国やインドの成長は貿易に大きなインパクトを与える。中国の成長が減速しているが、我々の調査では織り込み済みです。今後の成長率は5~6%台の間になり、停滞期を迎えるだろう。そのような状況でPMIも減速の傾向を示している」(Henner氏)

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製造業の購買担当者景気指数である「PMI」(Post Merger Integration)の推移も減速していく傾向が表れている
 エネルギーの観点からは、米国の原油生産の供給増が価格を抑制する形だ。1日あたりの世界需要は、2019年の140万バレルから、2020年にかけて150万バレルに増え、アジアと北米がその成長を牽引していくものと見ている。

「いま自動車のエネルギーにはガソリンから水素まで選択肢がある。環境への配慮から、CO2の排出量制限のマイルストーンが影響を与えている。中国でも法規制が進み、自動車はEV化に向かっており、バッテリーコストも徐々に下がってきている」(Henner氏)

 ただし、リチウムイオン電池の現行価格は$197/kWhであり、需給バランスの関係でコストの低下は緩慢になる。2025年以降に全固体電池が登場し、これが普及するころの2035年には$80/kWhまで価格が下がる。そこまでリチウムイオン電池のコストが下がるには時間がかかる。同社では、これが懸念材料の1つと見ているという。

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IHS Markitがベースシナリオとして予測するバッテリー技術とコストの展望。現在主流のリチウムイオン電池の価格は需給バランスの関係でコスト低下が緩慢になる

「いずれにしても、中国は排ガスに対する法規制がEV化の推進要因になっており、EV化によって規制適合を強化し、グローバルでの競争力強化につなげようとしている。一方、出遅れていた欧州もEV化の投資を促進するために、新しいターゲットを設定している」(Henner氏)

各国の政治状況から、自動車業界が受ける深刻な貿易の影響

 自動車業界は政治的な影響も避けられない。NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉、米国通商拡大法第232条および第301条など、トランプ政権が成立して以降、保護主義の懸念が高まり、その行方には不透明感が漂う。

 NAFTA再交渉では、2018年に米国・メキシコ・カナダで新たな協定が締結された。工業製品の原産国規定の見直しのほか、為替条項なども盛り込まれた。

 米国通商拡大法第232条は、米国への輸入が国家安全保障を損なう恐れがある場合に、関税引き上げなどの是正措置を発動する。米国商務省は、鉄鋼製品、アルミ製品、自動車・自動車部品、ウランの4品目を232条に基づく調査対象とし、すでに鉄鋼製品(25%)とアルミ製品(10%)の追加関税を課した。ただしメキシコとカナダについては、NAFTA再交渉で譲歩を迫ることを視野に関税適用を留保している。

「関税導入後に鉄鋼の価格が上がった。しかし米国の製造業の雇用成長は、まだ実現していない。米国市場への依存度によって、第232条による他国の輸入関税の影響は異なるが、特に日本や韓国の自動車メーカーは大きな影響を受けるだろう」(Henner氏)

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第232条関税で受ける各国の影響は、米国市場への依存度により異なってくる。特に影響が大きいのは図の枠外にある日本と韓国の企業だ

 一方、第301条は、米国に対して不当な貿易制限などを行う国に対して、輸入制限など対抗措置を発動するものだ。232条は関税引き上げなど輸入制限が中心だが、301条は輸入制限措置に加え、投資制限や入国制限などの措置も発動できる。

 トランプ政権は第301条で中国をターゲットにしているという。米国の技術情報や知的財産権の移転が、中国政府から不当に請求されていることを根拠に、中国からの輸入品に25%の関税を課すと発表。これに抗する形で、中国も同様の対抗措置を行い、いわば経済戦争の様相を呈している。

「ただし我々のシナリオでは、これ以上の摩擦はないと想定している。中国も米国も自動車の輸入台数が限定されているため、大きなインパクトはないだろう。現在の懸念点は、安全保障の問題で第232条が発動され、さらに摩擦が激化することだ。そうなると状況が厳しくなるが、まだ不透明な状況だ」(Henner氏)

 もう1つ、BREXIT(英EU離脱)の行方も懸念材料だ。先ごろEUとイギリスは2019年10月31日までの延長に合意し、さらにイギリスに最善の結果を模索する期間が与えられた。自動車分野から見たBREXITの影響については、合意の有無で複数のシナリオがあるという。

「1つ目のシナリオは何らかの合意がなされ、貿易条件が緩やかになる最善策だ。2つ目は条件なしにEUから離脱する最悪のハードBREXIT。こうなると自国もEU諸国も影響が出て、誰も得にならない。3つ目は何らかの条件を維持しつつ、離脱するハーフBREXIT。我々は1つ目のシナリオを50%以上と予測しており、経済的なインパクトは最小限に限られるとみている」(Henner氏)

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自動車分野から見たBREXITのシナリオ。合意ありと合意なしのケースでメーカーが受けるインパクトはだいぶ異なる。ちなみに4月に行われたEUとの会合により、スケジュールが半年間ほど延長された

 またBREXITによる日系メーカーの影響については、日産やホンダは生産拠点を移す方針を表明している。逆の側面で、日本の雇用という点ではプラスに働く可能性もあると指摘した。

【次ページ】グローバルの自動車の販売展望は? CASEによる140万台の下げ要因も

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