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  • 2019/06/27 掲載

「LiDAR」とは何か、自動運転で注目の光センサー技術をわかりやすく解説

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遠い将来のことだと思われていた、自動車の自動運転が現実的な段階に入ってきた。その実現を支える技術として注目を集めているのが、光センサー技術「LiDAR」だ。自動車メーカーを中心にLiDARの需要は急激に高まり、その市場は2025年には約3,330億円規模に達すると予測されている。本稿では、LiDARの基礎知識から自動運転における重要性や今後の課題、自動運転以外における活用の可能性などを紹介する。

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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自動運転の実現に期待がかかるLiDAR。その技術を解説する
(Photo/Getty Images)


「LiDAR」とはそもそも何か?

 LiDARとは「Light Detection and Ranging」の略であり、「ライダー」と読む。

 LiDARは、レーザー光を走査しながら対象物に照射してその散乱や反射光を観測することで、対象物までの距離を計測したり対象物の性質を特定したりする、光センサー技術のことである。

 LiDARが大きく発展したのは、1990年代と言われる。LiDARを人工衛星や航空機に搭載し、地形や建造物、森林構造などを測定する測量技術として活用したのだ。地上を移動しながら行う地道な測量手段に比べて、人工衛星や航空機からLiDARを用いて行われる測量は、時間と費用の面で大きなアドバンテージを持つ。レーザーの波長を工夫することで、深度20メートルまでの海底地形を測定することも可能だ。

 最近では、小型軽量タイプのLiDARも開発され、無人航空機であるドローンに搭載して測量を行うことが可能となった。ドローン搭載型LiDARは、航空機よりも手軽かつ低高度を飛ぶことができるため、LiDARによる測量をより身近なものとした。また、災害発生時の土砂崩れなどを迅速かつ安全に把握し、人命救助や復興などに役立っている。

 そして、LiDARの活躍が、今後さらに期待されているのが、自動車の自動運転である。

自動運転のレベル分け、LiDARが関係するのは?

 自動運転とLiDARの関係を説明する前に、自動運転のレベル分けを説明しよう。詳しくは表をご覧いただきたい。
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「自動車自動運転の自動化システムのレベル分類とその定義」(2018年2月1日制定/公益社団法人自動車技術会)を著者が平易に読みくだしたもの
 自動車における自動運転は、自動運転システムの達成度によって、レベル0からレベル5までの6段階にレベル分けされている。

 レベル0は、自動運転ではない状態。つまり人が運転している状態を指す。

 レベル1では、アクセル/ブレーキ操作とハンドリング操作のどちらかをシステムが行う状態である。レベル2では、アクセル、ブレーキ、ハンドリングを統合的にシステムが行う状態を指す。ただし、いずれもドライバーの運転を補助するものであって、安全確認などの責任はドライバーが持つ。

 現在、自動ブレーキや車線逸脱防止機能、居眠り防止機能など、ADAS(先進運転支援システム)を備えた自動車がすでに実用化されているが、これらはレベル1~レベル2に当たる。

 自動運転と呼ばれるのは、レベル3以降だ。

 レベル3以降は、危険回避を含めた自動車運転のすべてを自動運転システムが行う。ただし、レベル3では、ドライバーは自動運転システムでは対処できない事態に備えて、手動運転に切り替え、対応ができる状態であることが必要だ。

 レベル4とレベル5では、危険回避も含めた自動車運転の全操作を自動運転システムが担う。どこでも走行が可能なのはレベル5であり、レベル4では自動運転が可能な道路、敷地、天候等の条件が付帯する。

 ちなみに、安倍内閣が東京オリンピック/パラリンピックが開催される2020年までに実現すると公約したのは、レベル3の自動運転である。

LiDARが自動運転で果たす役割

 人間が自動車運転する時、最も大切なセンサーは「眼」である。人間は、道路の幅や車線数、カーブ、勾配などの環境、先行車、対向車、自転車や歩行者といった道路を共有する存在、信号や道路標識といった自動車運転に必要なレギュレーションを視覚で捉える。それらの情報を脳で判断し、適切な運転操作を行う。

 これをセンサーで代替するのは簡単なことではない。たとえば、トヨタ自動車が開発中の自動運転車両(LEXUS GSベース)のセンサー構成は以下のようになっている。

TOYOTA 自動運転試験車両における各ハードウェアの機能と役割
名称 機能/役割
前方、後方、側方LiDAR 車両を取り囲むように複数配置。
周辺の障害物を検出(高分解能)。
カメラ 白線を検出。
周辺の障害物の色、形状を認識・検出。
前方 ミリ波レーダー 遠方の障害物を検出(環境ロバスト性:環境的な外因に影響されにくい性質)。
側方 ミリ波レーダー 車両を取り囲むように複数配置。
周辺の障害物を検出(環境ロバスト性)。
GPS+IMU(慣性計測装置) 地図情報と白線情報を照合させるための位置、姿勢情報を得る。
自動運転ECU(エンジンコントロールユニット) センサの認識結果、自己位置推定結果から、自車両が進むべき経路を演算。各アクチュエータの指令値を演算。
各アクチュエータ制御ECU 自動運転ECUからの指令値を実現するため、各アクチュエータを制御、駆動。

(引用:『Toyota technical review 2017/05』)


 自動運転車におけるセンサーは、LiDARやカメラ、ミリ波レーダーの3つが主流だ。これに、遠赤外線カメラや超音波ソナーが加わることもある。

 トヨタ自動車の自動運転試験車両の例では、LiDAR、カメラ、ミリ波レーダーのそれぞれが車両周囲にある障害物を検出している。つまり、機能がかぶっているのだが、なぜ複数使われているのだろうか。

 その理由は、各センサーにはそれぞれ得意、不得意があるからだ。

LiDAR、ミリ波レーダ、カメラの役割の違いとは

 たとえば、カメラからは白線や標識、ほかの車両、周囲の環境など、運転に必要な情報のほとんどを検出することが可能だ。しかし、対象物に対する距離を検出することは難しい。また、暗闇や極端に明るい光、悪天候などには弱い。

 ミリ波レーダーは、ミリ波と呼ばれる周波数30GHz~300GHzの電波を発射し、その反射波を測定する装置である。雨や霧も通過できるため悪天候にも強く、周囲を走る他車両との相対速度を簡単に検出できるというメリットを持つ。反面、方位分解能があまり高くなく、樹木など電波の反射率が低い物体を検出できない。

 LiDARは、方位分解能(測定する方向に並んだ2つ以上の対象物を識別する能力)が高く、周囲にある障害物の距離や位置関係も精度良く検出できる。周囲の車両、周辺環境はもちろん、白線や標識、樹木などの電波反射率が低い物体も検出可能だ。カメラやミリ波レーダーなどに比べて、高い性能を誇るLiDARだが、一方で雨などの悪天候下では検出精度が下がってしまう。

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LiDAR、ミリ波レーダ、カメラの役割
(出典:『Toyota technical review 2017/05』を参考に編集部作成)

 現在の技術では、1種類だけで自動運転に必要なすべての外部情報を検出可能なセンサーは存在しない。そのため、ミリ波レーダー、カメラ、LiDARといった複数のセンサーから検出された情報を統合的に判断している。これを「センサーフュージョン」という。

 ミリ波レーダーやカメラは比較的安価であり、すでに市販車にADASとして搭載されているものもある。しかし、レベル3の自動運転を実現するためには、より精度と検出性能が高いLiDARが必要となるのだ。

【次ページ】各センサーの特長や拡大するLiDAR市場の見通し、自動運転以外の活用も

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