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  • 2019/07/25 掲載

日本政府が示した「デジタル社会戦略」を詳説、国際競争「第2幕」での勝ち筋とは?

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政府のIT総合戦略本部は、2019年6月17日、令和元年(2019年)のIT新戦略となる「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を閣議決定した。デジタル技術の恩恵を誰もが享受できるインクルーシブな「デジタル社会」の実現に向けた重点計画をとりまとめたものだ。その要点と注目ポイントを解説する。

執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

執筆:国際大学GLOCOM 客員研究員 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(NTTコミュニケーションズ勤務)。現在、クラウドサービスの開発企画、マーケティング、広報・宣伝に従事。総務省 AIネットワーク社会推進会議(影響評価分科会)構成員 一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) アドバイザー。著書多数。

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「世界最先端デジタル国家創造宣言」とは何か

(Photo/Getty Images)

「世界最先端デジタル国家創造宣言」とは何か

「世界最先端デジタル国家創造宣言」とは?  
 世界最先端デジタル国家創造宣言は、政府のIT戦略である。内閣官房のIT総合戦略室では、「すべての国民がデジタル技術とデータ利活用の恩恵を享受するとともに、安全で安心な暮らしや豊かさを実感できるデジタル社会の実現に向けた、政府全体のデジタル政策をとりまとめたもの」としている。
 日本政府は、政府のIT戦略である世界最先端デジタル国家創造宣言により、国際データ流通網の構築を含めた「データ利活用」と、2019年5月に成立したデジタル手続法を起点とした「デジタル・ガバメント」を両輪で実行しつつ、5Gと交通信号機との連携をはじめとした「社会実装プロジェクトの推進」、インフラからデジタル格差対策までを含む「社会基盤の整備」に取り組むという。

 宣言を推進するための具体的な計画である官民データ活用推進基本計画とともに、日本政府のIT戦略の中心に位置づけられている。年に1度、内容が更新されてることが多い。

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令和元年のIT新戦略(世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画)概要
(出典:内閣府 報道発表)

「Society 5.0時代」にふさわしいデジタル化の条件

 国民の利便性の飛躍的な向上と行政・民間の効率化につなげ、データを新たな資源として活用し、すべての国民が安全・安心してデジタル化の恩恵を享受できるようにする──。この目的のため、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」では、Society 5.0時代にふさわしいデジタル化の条件を下記のとおり定めている。

(1)国民の利便性を向上させる、デジタル化
(2)効率化の追求を目指した、デジタル化
(3)データの資源化と最大活用につながる、デジタル化
(4)安全・安心の追求を前提とした、デジタル化
(5)人にやさしい、デジタル化


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Society 5.0時代にふさわしいデジタル化の条件
(出典:世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画 2019.6)

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 特に注目されるのが、「(3)データの資源化と最大活用につながる、デジタル化」だ。

 機械判読性(machine-readable)と発見可能性(findable)を確保したデジタルデータであれば、企業はデータ分析を行うことで顧客動向を把握した上でプロモーションや最適化を行うことができるといったメリットを紹介している。たとえば、航空会社では、過去データの蓄積・分析によって、運賃のダイナミックプライシングや空港内人員の最適配置を実施している例を紹介している。

 さらに、企業間のデータ共有が進むことで、ダイナミックマップの活用による自動運転やMaaS(Mobility as a Service)産業の創出、スマートシティの構築などの活用シーンを想定している。

 政府では、これらのニーズを踏まえたオープンデータ化や、民間主体のデータ流通環境支援といった取り組みを推進する。

デジタル化の恩恵を享受できるデジタル社会の実現に向けた4つの取り組み

 今回の新IT戦略の基本的な考え方は、「国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できるデジタル社会」の実現だ。

 その条件として、データを新たな資源として活用し、すべての国民が不安なくデジタル化の恩恵を享受できる環境を目指すため、以下の4つの重点取り組みを示している。

重点取り組み(1):世界をけん引する先駆的取り組みの、社会実装プロジェクト
重点取り組み(2):国民生活で便益を実感できる、データ利活用
重点取り組み(3):我が国社会全体を通じた、デジタル・ガバメント
重点取り組み(4):社会基盤の整備


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IT新戦略の全体像
(出典:世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画 2019.6)

 これらの重点取り組みから、筆者が注目している取り組みについて紹介する。

重点取り組み(1):世界をけん引する先駆的取り組みの、社会実装プロジェクト

 国民一人一人がデジタル化の恩恵を実感できるよう、農林水産や健康・医療などをはじめとする広範な分野において、データ連携基盤の構築から「社会実装プロジェクト」を推進している。

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社会実装プロジェクト
(出典:世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画 2019.6)

●スマート農林水産業の実現
 農林水産の分野では、日本の農林水産業の競争力強化のため、あらゆる生産者にとってデータ活用が可能となるスマート農林水産業の実現のための「農業データ連携基盤(WAGR)」を強化している。

 データを活用した農業の推進に向けて、農業に関連する情報の相互運用性・可搬性を確保し、農作業名称や生育調査項目等の個別ガイドライン策定・改訂をはじめとするデータ項目の標準化を行う。

 また、これまでに策定された農業分野でのデータ契約ガイドラインの内容も踏まえ、農業AIサービスの利用に関する契約の考え方や、契約のひな形を内容とするガイドラインを策定する計画だ。

●5Gと交通信号機を連携したトラステッドメッシュネットワークの実現
 先駆的社会インフラ網では、高速大容量・低遅延・多数接続が可能な5Gと交通信号機との連携による「トラステッドメッシュネットワーク」の全国展開が注目される。

 日本全国には、約20万8000の交通信号機があるという。5Gネットワークの基地局に交通信号機を利用できるようになれば、価格を抑え、地域のカバレッジを高めた5Gによるトラステッドメッシュネットワーク環境の早期実現が期待される。これにより、スマートシティやモビリティサービスなどを支える重要な社会インフラになるだろう。

 政府では、交通信号機を活用して5Gネットワークを構築するために必要となる技術的事項を検討・開発するとともに、5Gネットワークの実整備、実運用に必要となる基準の策定に向けた検討を行う予定だ。

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5Gと次世代信号・自動運転との連携による「先駆的社会インフラ網」の整備
(出典:世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画 2019.6)

重点取り組み(2):国民生活で便益を実感できる、データ利活用

 「デジタル時代の新たなIT政策大綱」に基づいて、デジタル時代の国際競争に勝ち抜くための環境整備や、日本発の「情報銀行」などの社会実装促進など、データの安全・安心な利用に向けた取り組みを推進する。

【次ページ】サイバー空間とフィジカル空間が融合する社会で求められるセキュリティ対策

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