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  • 2019/09/20 掲載

「認知症保険」ブームの理由、認知症リスクと介護費用は驚きの高さ

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9月16日は「敬老の日」だったが、明日9月21日は「世界アルツハイマー・デー」だ。アルツハイマー病は認知症の一種である。日本は2065年には国民の4人に1人が75歳以上になる上、高齢者の3人に1人以上が認知症を発症すると予測されている。仮に発症して認知症高齢者グループホームに入居すると、年金だけではまかないきれないほどの費用がかかる。そんな金銭的なリスクを保障するのが、2016年から登場した「認知症保険」である。

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト 寺尾 淳

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。「週刊現代」「NEXT」「FORBES日本版」等の記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。

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認知症はいつ発症してもおかしくない
(Photo/Getty Images)


“人生100年時代”も、8割以上は認知症を発症

 令和元年版の「高齢社会白書」によると、2018年10月1日現在の日本の高齢化率(65歳以上の人口比率)は28.1%で、2065年には38.4%に達する見通しだ。また、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」の出生中位・死亡中位推計結果によると、2065年の75歳以上の人口比率も25.5%で、日本国民のほぼ4人に1人は「後期高齢者(長寿医療制度加入者)」で占められると推計されている。

 これから日本は「高齢大国」への道を突き進んでいくが、それは同時に「認知症大国」になることを意味する。厚生労働省が2015年1月に策定した「認知症施策推進総合戦略」、通称「新オレンジプラン」によると、2012年に462万人だった日本国内の認知症の人数は、2025年に730万人、2040年に953万人、2060年に1154万人に増加するという。約30年間でおよそ2倍に、半世紀近く後には約2.5倍というペースである。

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日本における認知症の将来推計
 65歳以上の高齢者人口に占める認知症の人数の割合も、2012年の15.0%から2025年に20.6%、2040年に25.4%、2060年に34.3%へと右肩上がりで伸びていく。21世紀後半になると、日本の高齢者の3人に1人は認知症を発症していることになる。

 かつて、作家の有吉佐和子氏が認知症(当時の名称は「老人性痴呆症」)をテーマに『恍惚の人』を著し、200万部近いベストセラーになったのは1972年のことだ。1973年には森繁久弥氏主演で映画化されているが、同年の東京都の調査では「居宅高齢者に占める有病率は4.5%」と報告されている。

 1973年当時の日本人の平均寿命は男性70.70歳、女性76.02歳だった。それが医学の進歩などで、2012年は男性79.94歳、女性86.41歳となっている(厚生労働省「簡易生命表」)。39年の間に男性は9.24歳、女性は10.39歳も長生きできるようになった。平均寿命が約10年伸びた分、認知症を発症した人の数も3倍以上に増えたが、21世紀後半までにさらに倍加する見込みだ。  では、なぜ「高齢大国イコール認知症大国」になるのか? それは疫学統計上、がんを発症する確率が年齢とともに高まるのと同じように、認知症を発症する確率もまた高齢になればなるほど高まっていくからだ。しかも「認知症は完治しない」と言われるように、高齢者が一度発症するとほとんどの場合は「不可逆」で元には戻らず、その症状は時間の経過とともに進行する。

 厚生労働省が所管する国立研究開発法人国立長寿医療研究センターは2012年、認知症の高齢者462万人の年齢層別の人口比を割り出した。それによると、74歳以下の「前期高齢者」では、60代後半が2.9%、70代前半が4.1%とまだ少なかった。しかし、75歳以上の「後期高齢者」になると、70代後半が13.6%、80代前半が21.8%、80代後半が41.4%、90代前半が61.0%と、その発症率はどんどん上がっていき、90代後半では79.5%にも達していた。

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年齢層別の認知症の割合
 このように、高齢になればなるほど認知症を発症するとデータは示している。たとえ今後、がんを完全に制圧するなど誰でも90代後半まで生きられる「人生100年時代」が本当にやって来たとしても、「100歳前後で認知症をまだ発症していない人は2割程度」ということになる。

 人間は、長生きすればするほど、認知症と向き合わなければならなくなる運命にある。たとえ、健康やアンチエイジングに対して神経質でも無頓着でも、三世代同居でも独居高齢者でも、富裕層でもインテリでも、認知症になる確率は残酷なまでに等しい。年齢を重ねるにつれてどんどん確率は上がる。人は、認知症の前では平等である。


認知症介護の準備をしている人は1割程度

 上述の通り、長生きをすればそれだけ認知症発症リスクは上がる。85歳を超えれば4割、90歳を超えれば6割、95歳を超えれば8割だ。だが一方で、自分の親のため、または自分のために認知症介護の資金準備を行っている現役世代は、わずか1割程度しかいないという調査結果がある。

 SOMPOホールディングスが2018年に実施した「『認知症』に関する調査結果」(30~50代男女1042人を対象にしたアンケート調査)によると、自分の親が認知症になった時に備えて資金の準備をしているという回答は10.1%で、10人に1人にすぎなかった。半数を超える50.9%は「必要だが、準備していない」と答えている。

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認知症になった時に備える費用準備の状況
 自分が認知症になった時に備えて準備をしているという回答も11.7%と少ない。回答者の40.9%は「必要だが、準備していない」と回答する。しかも、自分の親が認知症になると「考えたこともない」という回答は25.1%と約4分の1を占めている上、自分が認知症になることを「考えたこともない」という回答も35.6%で3分の1を超えていた。

 別の設問では認知症予防について「意識した取組みはしていない」という回答が33.5%で、自分が認知症になった場合に備えて「何もしていない」人は73.3%を占めていた。

 もし自分の親の認知症介護、自分の認知症介護に迫られたら、どうするのだろう? 認知症の症状や進行具合は百人百様とはいえ、高齢者が認知症の発症によって日常生活に支障を来し、介護を必要する状態に陥ることは決して珍しくはない。

 そして、認知症介護のための費用負担が、高齢者の家族にのしかかってくる。

【次ページ】介護保険だけではまるで足りない

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