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  • 2020/04/21 掲載

EUのデジタル戦略を解説、米中に対抗するために注目した“データ”とは?

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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欧州連合(EU)の欧州委員会は2020年2月19日、人工知能(AI)などを対象に、今後10年間とさらにその先を見据えた画期的なデジタル戦略を発表しました。この戦略には、EU圏の企業が産業データを共有できる制度を構築することでAI開発での産業データ活用を進める狙いがあります。また、個人データを押さえつつある米国の巨大IT企業や中国企業への対抗措置の意味も持っています。今回は、EUにおける産業データの活用やテクノロジー企業の成長を後押しする、この戦略と方針について解説します。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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米中に対抗するEUのデジタル戦略とは
(Photo/Getty Images)


EUが2月に打ち出したデジタル戦略、その背景

 IDCとSeagateが2018年に発表したレポート「The Digitization of the World From Edge to Core」によると、世界のデジタルデータ量は2018年の33ZBから2025年には175ZBと約5倍になるとされています。リアルタイムデータに着目すると、2017年には全データの15%だったのが、2025年には30%程度になるといいます。

 特に個人データの保有・活用については、現在、米中のIT企業の独壇場になっています。SNSやEC、シェアリングエコノミーなどBtoC市場でのデジタル化の波に乗り遅れたEUとしては、産業分野で失地を回復し、EU圏の企業が米国や中国のデータに依存する事態は避けたい考えなのでしょう。

 EUは人口4億5,000万人を抱え、有力な企業が多いにも関わらず、世界的なIT企業が育っていないという現状があります。「21世紀の石油」と呼ばれるデータを米中企業に奪われれば、EUの損失につながるのではないかという危機感は強いと考えられます。

デジタル戦略のポイントは「産業データの活用」

 EUでは、インターネット普及前の1995年にEU指令に基づくEU加盟国の個人情報保護関連法が制定されました。そして2016年5月にはデジタル化社会に適合した個人データ保護規定である一般データ保護規則(GDPR)が発効され、移行期間を経て2018年5月に適用開始されました。EU規則として加盟国に直接適用されています。

 GDPR以外にも、デジタル・プラットフォーマーの活動に大きな影響を与えうる、さまざまなルール整備がEUでは行われてきました。GDPRが発効された2016年5月に、欧州委員会は「オンライン・プラットフォームと単一デジタル市場:欧州にとっての機会と挑戦」という政策文書を公表し、デジタル・プラットフォーマーに関する法規制の改革を行っています。

 そして2020年2月、発表されたEUのデジタル戦略では、「公正かつ競争がある」経済をさらに発展させ、EU市民にとって役立つテクノロジーを開発し、オープンで民主的な社会を支えることを目的にする、複数の計画が記されています。その中核は、「EUで単一のデータ市場を構築し、AIの分野でもEUの指導的地位を確立すること」にあります。

 前述のように、従来、EUはGAFAなどに個人データを独占されないためにGDPRなどで規制しようとしていました。しかし今回のEUのデジタル戦略からは、こういった企業にただ対抗するのではなく、自らの強みである「産業データ」の活用を目指すという方向転換の姿勢が見えます。

 ドイツのフォルクスワーゲン(VW)やエアバス、シーメンス、フランスのアルストムなど、EUの主要企業の工場にあるロボットや設備、製造された製品には産業データが大量に蓄積されています。こういったデータの活用に着目しているのがポイントの1つです。

データ市場整備とAI開発の加速に向けた取り組み

 今回のデジタル戦略の発表の中で、欧州委員会は加盟27カ国にまたがるデータ市場を整備することを発表しました。また、EUでデータドリブンな企業が成長できるようにするための共通のデータ空間の構築も提案しています。「製造業」「モビリティ」「ヘルスケア」など9つの重要分野ごとに企業などが持つデータを蓄積する場所をつくり、共有できるようにする取り組みを進めるというのです。これによりEUが産業データに軸足を置き、技術革新で次に来る波では先頭に立つことを期待されています。

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欧州委員会が検討する産業データ活用のイメージ
(出典:筆者作成)


 たとえば製造業では、ロボットや製造設備などに集まるデータをAIに学習させることで、工場の稼働率向上や省エネにつなげられます。モビリティ分野では、自動車などのモビリティに集まるデータの活用による自動運転機能の向上などが見込まれます。ヘルスケア分野でデータ共有が進めば、病気予防や難病の治療法確立につながる可能性が高くなります。

 誰がデータを活用できるかだけではなく、共有するデータの内容やヘルスケア分野などにおける個人情報の扱いも重要な論点になります。こういった詳細なルールは加盟国や関係者の意見を聞いた上で詰め、2020年内にも法案をまとめると欧州委員会は述べています。同委員会はAI開発を加速させるため、今後10年は年間200億ユーロの投資を呼び込みたいとも言っています。

 デジタル戦略の中では、AIに関するリスク評価の提案もなされています。モビリティやヘルスケアなど悪用されれば影響が大きい分野では、公的機関によるデータ活用の監などが検討されているのです。2020年5月半ばまでに市民から意見を募り、正式に案をまとめるといいます。

【次ページ】欧州における米中の巨大IT企業の立ち位置

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