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  • 2020/06/15 掲載

なぜインターネットと「理性的」に付き合えないのか。専門家が語るSNSの構造的問題点

東京経済大 佐々木裕一 教授インタビュー

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1990年代から現在までの約四半世紀、我々の社会・生活を最も変えたテクノロジーが「インターネット」だ。情報収集に限っても、SNSやWebメディアによって人びとがリーチできる範囲は圧倒的に広がった。しかしその爆発的な情報量に警鐘を鳴らすのが、2018年『ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』(テレコム社会科学賞受賞)を著した東京経済大 佐々木裕一 教授だ。直近ではSNSでの誹謗中傷も大きな問題となる中、同氏に2000年からこれまでのインターネットメディアの変遷と、その負の側面を聞いた。

執筆:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

執筆:ビジネス+IT編集部 渡邉聡一郎

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東京経済大学
コミュニケーション学部
佐々木裕一 教授
一橋大学社会学部卒業。フランス高等商業学院(HEC)に給費留学、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科で修士号(97年)、博士号(09年)取得。電通、アーサーD.リトル、NTTデータ経営研究所で大手顧客企業の全社戦略立案、スタートアップ企業への投資などを経験し大学教員に。『ツイッターの心理学 情報環境と利用者行動』でもテレコム社会科学奨励賞受賞。

ソーシャルメディア四半世紀、日本のメディアの興亡は

──2018年、「ソーシャルメディア四半世紀:情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ」という骨太の書籍を出されました。以下が書籍の構成ですが、これまでのインターネットメディアの大まかな流れを教えていただけますか?
  • ◇目次
  • 第1部 2001年 思想を持ったスモールメディア
  • 第2部 2005年 ユーザーサイト・アズ・ア・ビッグビジネス
  • 第3部 2010年 ユーザーサイトの黄金期=メディアとしての衰退前夜
  • 第4部 2015年 メディアから仕組みへの助走
  • 第5部 結論、そして2018年の風景から情報ネットワーク社会を設計する

佐々木氏:古くは1970年代の紙メディア「ロッキング・オン」から始め、1990年代半ばから2018年までのインターネットメディアの大きな流れを、経営学や経済学、社会学、認知科学の知見も交えながら通時的に記したのが本書です。2001年から数年ごとにメディア企業の代表たちに取材を行い、文中に挿入されているインタビューは「病的なまでの情報量」とよく言われます。

 「第1部」の2000年前後は、ユーザーが参加して誰でも発信できるようになったという、インターネットメディアの特色が発露した時代です。主たるコンテンツはユーザーが書いていて、紙の雑誌の編集者・ライターなどが中心にその流れを牽引していました。ただビジネスモデルはなくて、まだまだユーザーが発信するメディアなんてマイノリティー扱いされていました。

 当時の主役は2ちゃんねる。日本でのUGM(User Generated Media。一般ユーザーが作ったコンテンツを主とするメディア)は、2003年くらいまでブログよりも圧倒的に「掲示板」が強かったと言えます。

 「第2部」の2005年になると「Web2.0」「UGM/CGM:Consumer Generated Media」という言葉も出てくるようになり、ユーザーが発信するコンテンツは人の関心を集められることに皆が気づき始めました。ここにビジネスチャンスを感じ、それまでメディア以外の形でインターネットビジネスをやってきた人が、本気で参入し始めた時期です。

 とはいえ収益が10億円を超えていた企業は、2005年ごろはカカクコム(価格.com)ぐらいでした。2007年ごろのSNSの成長期になると、グリーやミクシィらが急激に売上を伸ばしていきます。

 「第3部」の2010年前後は、日本のインターネットメディアにとっての黄金期です。もちろん流通している情報量は今の方が多いのですが、“一定以上の質と量のバランスが取れたメディアサイト”という点で言えば、この時期が一番良かったように考えます。この時期のUGMの主役はミクシィですね。

 2005年ごろにサービスを開始した企業が上場し始めた時期で、それに伴い上場企業の成長責任として「収益源が広告だけではダメだ」という意見がよく聞かれるようになります。

 その収益化で最も成功したのがソーシャルゲームです。彼らはメディア企業とは言えませんが。まだまだ当時はガラケーの時代ですが、アバター課金やバーチャルアイテム課金で成功した企業が数社、日本でも出てきました。

 そして第4部の2015年になると、先進的な企業が広告以外のビジネスモデルを作り始めた一方で、アドテクノロジーが急速に発達し、広告だけでも十分な収益を上げられるという認識が広がりました。スマートフォンの普及でスキマ時間にメディア接触する人も増えてきて、メディア事業者の数もそれに伴って増えました。

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 その結果、提供される情報の質は悪化し、WELQ(ウェルク)に代表されるような「書かれていることはウソでも良いからとにかくアクセスを集めれば良い」というメディアが現れ、そしてさすがに淘汰(とうた)されていきました。

 当時のUGMの主役は、売上規模で言えば、国産ではカカクコム(価格.com、食べログ)や、アイスタイル(@cosme)、クックパッドだと思います。ただし海外発のグローバルサービスが国内でもスマホアプリとして使われるようになりました。国産か海外産か微妙なところですが、LINEもこの時期に広がりました。以上がだいたい、2016年ぐらいまでの話です。

無限にスクロールしてしまう“負”の面と、それへの規制

──ありがとうございます。では書籍が刊行された2018年以降、現在にかけてのインターネットメディア・SNSのトレンドをどう見ていますか。

佐々木氏:第一に、「規制」が進みました。データ保護規制が世界で次々と成立し、これまでよりもさらにセンシティブにデータを取り扱わなければならなくなりました。それと関係してインターネット広告分野では、特にサードパーティーCookieの規制がとても激しくなってきました。日本でもヤフーや楽天などのデジタルプラットフォーマーに対する監視を強めていますね。この流れはしばらく続くと見ています。

 もう1つは、現代のインターネット「アーキテクチャ(設計)」の負の側面について指摘する声が増えてきたこと。その負の側面とは“LNEいじめ”“SNSでの出会いによる事件”など報道でよく報じられる事件の土台にあるものです。

 「スマホでタイムライン形式のものを見ている限りでは、人はおそらくまともな判断ができていない」という、人の認知能力の限界に関わる論点です。私は2018年当時も警鐘を鳴らしていましたが、この1、2年でその議論が活発化してきたように映ります。

 たとえば、元グーグルのトリスタン・ハリス氏が創設した「Center for Humane Technology」という、主にスマホでのSNS利用に警鐘を鳴らすNPOの活動が本格化してきました。

 また2019年夏にはジョシュ・ホーリー米上院議員が、SNS中毒防止法案(Social Media Addiction Reduction Technology Act)を議会に提出しています。人が無制限にスクロールしてしまうような「アーキテクチャ(設計)」そのものを批判し、そのような画面を採用してはいけないという法案です。

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 このように、人とインターネットとの現在の関係をネガティブにとらえて、それを改善しなくてはならないと主張する人たちが出てきているのが直近の変化です。「イノベーションを阻害するので規制は良くない」とする立場も分かるのですが、あまりにも(SNSのアーキテクチャによる弊害が)目に余るので私はこの流れに賛同しますね。

 ローレンス・レッシグという法学者は『CODE―インターネットの合法・違法・プライバシー』(2001,翔泳社)という本で「アーキテクチャが一番怖いのは、それに人が慣れてしまって、最初に感じた違和感を忘れてしまうこと」と主張しています。最初に違和感を覚えたとしても、それが当たり前になって習慣化させられてしまう。後はそれによって行動は規定されるのみです。

 現に、スマホがあれば現代人は何となく手に取っているわけです。5分に1度よりも高い頻度で手に取る人が世界の22%というデータもあります。そして手に取った後にアプリに通知が来ていれば開いてしまうし、ニュースフィードやタイムラインに流れるコンテンツを1、2回スクロールするだけでやめられる人はめったにいない。

──現在、SNSでの誹謗中傷が大きな問題になっていますが、先生はこの問題についてどう考えられていますか?

佐々木氏:木村花さんの自殺で特に問題視されるようになったリアリティー番組は、テレビ局の制作費が減った中で生まれてきた苦肉の策という面もあります。それを知らずに、そこで演じられる性格・役割を実社会のものであるとみなす誤解が誹謗中傷を促進している面もあると思います。

 けれども先ほどアーキテクチャはいじめの問題の「土台にある」と言ったように、冷静な判断ができない情報環境に利用者が置かれているのでそういうことは起きやすいし、タイムライン上でそのようなことを言っている人が多いという感覚を持つので、「勝ち馬に乗る」ように誹謗中傷に便乗して投稿する人、人のツイートをリツイートする人もどんどん出てくる。その数が増えてしまうと被害者のショックは大きくなる。やり過ごすのはとても難しいと言えます。

【次ページ】現在のメディア・SNSが抱える4つの課題、「シェア」ボタンを廃止すべき理由

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