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  • 2020/06/22 掲載

水道料金の「減免」広がる中、値上げする自治体が出る深刻事情

全国で叫ばれる老朽管問題

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新型コロナウイルス感染拡大を受け、水道料金の減免に動く地方自治体が増えている。外出自粛や休業要請で収入に大打撃を受けた住民や事業所の救済策で、4~6カ月間無料という思い切った措置に出たところもある。しかし、全国の水道は耐用年数を過ぎた老朽管の増加に更新が追いつかない状態。料金減免が施設の更新をさらに遅らせる可能性も出ている。立命館大の仲上健一名誉教授(水資源環境政策)は「このままでは自治体の財政負担が大きくなるばかりだ。新型コロナが国難であるのなら、政府が自治体に負担を負わせるべきではない」と指摘する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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岡山県総社市にある県広域水道企業団の総社浄水場。この水を使用している総社市は上水道料金を4カ月分無料としている
(写真:筆者撮影)

三田市、総社市は4カ月分の水道料金を免除

 兵庫県三田市は7月の検針から4カ月分、市民、市内の事業者の水道料金を無料にする。基本料金だけでなく、使用量に応じて徴収される従量料金も免除する。コロナショックをかつてない危機と受け止め、市民や事業所の負担を軽減するのが狙いだ。

 給水人口は約11万人。年間3億円程度の利益を出してきたものの、今回の措置で生じる減収は約8億円に上る。財源には水道事業会計の剰余金などを充てる予定。三田市上水道課は「水道施設の耐震化工事なども計画しているが、計画の先延ばしを視野に入れなければならないだろう」と語った。

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今夏から4カ月分の水道料金を無料とする方針を打ち出した兵庫県三田市の古城浄水場。水道管の更新計画は見直しを視野に入れている
(写真:筆者撮影)

 岡山県総社市は4月の検針から4カ月分の水道料金を免除している。対象は市民と工業用水利用企業。基本料金だけでなく、従量料金も免除しているのは、三田市と同じで、片岡聡一市長からのトップダウンで岡山県内のトップを切って支援策を打ち出した。


 給水人口は約6万8000人。今回の措置で約3億6,000万円の減収が見込まれるが、一般会計からの繰り入れで補う。総社市上水道課は「急いで対処すべき課題だと市長が決断した。行政にでき得る限りの支援をしたい」と話している。

 大阪市は市民や市内の事業所を対象に7月の検針から3カ月分の基本料金を免除する。契約者数が166万件に及ぶだけに、減収額は約50億円を見込んでいる。

 大阪市の水道管総延長5100キロのうち、2018年度末で法定耐用年数の40年を過ぎた老朽管が48%を占めている。政令指定都市の中では最悪で、全国平均の14.8%(2016年度)を大きく上回っている。大阪市水道局は「それでも今は市民を支援する必要がある。やむを得ないと判断した」と述べた。

 このほか、兵庫県小野市、西脇市、三木市、加西市は水道料金を半年分、滋賀県湖南市は4カ月分、三重県御浜町は3カ月分、埼玉県所沢市は2カ月分、青森県青森市、徳島県鳴門市は1カ月分をそれぞれ免除するほか、新潟県新発田市は2カ月分を半額にする。

 基本料金では、兵庫県姫路市が6カ月分、新潟県燕市、埼玉県加須市、岐阜県各務原市、鹿児島県鹿児島市が4カ月分、名古屋市、仙台市、埼玉県川越市、大阪府寝屋川市、沖縄県浦添市が2カ月分、北海道中標津町、遠軽町が飲食店など営業用を2カ月分、岡山市が1カ月分を免除する。堺市は4カ月分を8割減額し、埼玉県志木市は6カ月分を半額にする。

 都道府県単位では、神奈川県が県営水道の料金を一律10%減額したのをはじめ、兵庫県は水道料金減免を始める自治体に対し、県営水道を3カ月間無料で供給する方針を打ち出すなど、支援が全国に広がっている。

水道管の老朽化に更新追いつかず

 水道料金の減免は首長の判断で実施できるだけに、新型コロナで収入を絶たれた住民や事業所を支援するのに取り組みやすく、効果も期待できる。減免に踏み切った自治体は住民から喜ばれているが、日本の水道は高度経済成長期に敷設した水道管が老朽化し、更新時期を迎えている。

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(出典:厚生労働省「最近の水道行政の動向について」から筆者作成)

 厚生労働省によると、法定耐用年数を超えた水道管の割合は2016年度で14.8%。2006年度の6%から大幅に増えている。今後、20年間で更新が必要な水道管は全体の23%に当たる約15万キロに及ぶと見積もられているが、年間に更新できているのは0.7%程度。このままのペースで更新を続けたなら、130年以上かかる計算だ。

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(出典:厚生労働省「最近の水道行政の動向について」から筆者作成)

 日本は地震大国なので、施設の耐震化工事も進めなければならない。だが、耐震化工事の進捗率は2017年度で基幹管路39.3%、浄水施設29.1%、配水池55.2%にすぎない。

 今後、水道管の老朽化に拍車がかかることを考えると、これまで以上の費用を水道事業につぎ込まなければならないが、自治体の財政事情は人口減少による収入減で悪化している。しかも、水道事業者の33%は給水原価が料金より高い原価割れの状態で、事業の維持が危ぶまれている。

 水道料金の減免を一般会計からの繰り入れで実現したケースは別だが、本来水道管の更新など維持管理に使うはずの剰余金を減免の財源にした自治体は、今後の更新計画に大きな影響が避けられない。

【次ページ】埼玉県川口市はこの時期にあえて水道料金値上げへ

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