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  • 2020/07/19 掲載

植物の「ヤバい」生存競争、動物に食べられる宿命を背負いつつ生き残る術とは

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自力で動くことも話すこともできない植物たちは、一見、争いごともなく平和そうだ。しかし、『植物のすさまじい生存競争』を上梓した、植物学者の田中 修氏は語る。「植物は30数億年前に海の中でその祖先が誕生して以来、現在のように世界中の陸地で生育できるようになるまでには、さまざまなイノベーションを起こし、5つの熾烈な生存競争に打ち勝ってきたのです」。めまぐるしい社会の変化に対応できるイノベーション創出力が求められている現代、我々人間も植物に学ぶべきところがあるのかもしれない。植物のイノベーションや生存競争とはどんなものか、田中氏に解説してもらった。

植物学者/甲南大学特別客員教授・名誉教授 田中 修

植物学者/甲南大学特別客員教授・名誉教授 田中 修

1947 年、京都府生まれ。京都大学農学部卒業、京都大学農学研究科博士課程修了。その後、スミソニアン研究所博士研究員、甲南大学理工学部教授 などを経て、現在、甲南大学特別客員教授・名誉教授。著書に『植物はすごい』『雑草のはなし』(ともに中公新書)、『植物はなぜ毒があるのか』(幻冬舎新書)、『日本の花を愛おしむ』(中央公論新社)、『植物のかしこい生き方』(SB 新書)、『植物はおいしい』(ちくま新書)、『植物の生きる「しくみ」にまつわる66 題』『植物学「超」入門』『葉っぱのふしぎ』(サイエンス・アイ新書)などがある。

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植物の「生存競争」に学ぶことは多い
(Photo/Getty Images)

はじめに

 植物たちは、動きまわることなく、静かに暮らしています。日々の生活に追われ、動きまわる私たち人間から見ると、その暮らしぶりは「のんびりしている」という印象があるかもしれません。

 しかし、それはとんでもない誤解です。植物たちは、芽をだした場所で生き続け、子孫を残さなければなりません。そのためには「ものすごい」、あるいは「すさまじい」と表現できるような「戦い」をせざるを得ないのです。植物たちはそんな5つの戦いをしています。

 1つ目は、枯れ滅びないための戦いです。植物たちは、生きていくための条件が満たされれば、暮らしていけます。そのような場所に生きていれば、容易に枯れたり、滅びたりすることはありません。

 でも、他の植物がその場所に侵入してくれば、自分たちの暮らしが脅かされます。自分たちの静かな暮らしを守るために、侵入してきた植物と戦わねばなりません。あるいは、自分が新しい生育地を獲得するため、離れた場所にタネが移動すると、そこですでに育っている植物たちと戦わなければなりません。

 2つ目は、厳しい気候からからだを守るための戦いです。生育する場所が獲得できたとしても、夏には、暑さはもちろんですが、紫外線や灼熱の太陽の強い光に耐えねばなりません。冬には、寒さと戦わねばなりません。

 3つ目は、食べられる宿命との戦いです。動物は植物を食べて生きています。そのため、植物には「食べられる」という宿命があります。植物たちが生き抜いていくためには、動物に食べ尽くされないための戦いをしなければならないのです。

 4つ目は、ハチやチョウなどの虫を誘うための戦いです。多くの植物たちは、花を咲かせると、ハチやチョウなどに花粉を運んでもらって、次の世代を生きる子孫であるタネをつくります。そのために、他の種類の植物と競いあって、ハチやチョウなどを花に誘い込む戦いをしなければなりません。

 5つ目は、生き残るための戦いです。植物の生涯とは、「タネが発芽し、根が土に生え、水や養分を吸収する。緑の葉っぱがでて、それが光合成をして栄養をつくる。やがて、きれいな花が咲き、タネができる」と思われがちです。しかし、すべての植物が、このようにして生き残っているわけではありません。工夫を凝らし、これ以外の方法で生き残りを図っているものもいます。

 ここでは植物たちが生き続け、子孫を残すために逃れることができないこれらの戦いを紹介していきます。

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植物も、枯れずに成長し、花を咲かせ、タネを残すために戦って生きている
(Photo/Getty Images)

枯れ滅びないための戦い

 植物の芽が地上にでてくると、葉っぱを展開しながら、芽生えが成長します。やがて、花が咲き、果実が実り、タネができます。これが、多くの植物たちの生涯です。植物たちは、その生涯をまっとうすることを望んでいるはずです。

 しかし、自然は、植物たちがその思いを何ごともなくまっとうできるほど、甘くはありません。それぞれの植物が、枯れずに、無事に成長し、花を咲かせ、タネを残すために、自分の与えられた場所で、まわりの環境と戦って生きているのです。

 枯れないために必要なのは、主に、「光を受ける力」「生育する場所を確保する力」「水や養分を吸収する力」の3つです。

 植物が、生命を維持し成長していくためには、栄養が必要です。そのため、植物たちは、栄養をつくるために、根から吸った水と、葉っぱから吸収した空気中の二酸化炭素を材料に、太陽の光を利用して、葉っぱでブドウ糖やデンプンをつくるの枯れ滅びないです。この反応は、「光合成」といわれます。この反応を行うためには、光を受ける力が必要です。そのため、植物たちは、光を奪い合う戦いをしなければなりません。

 植物たちが枯れ滅びずに成長するために、もう1つ確保しなければならないのは、生育するための場所です。根を張りめぐらせ、水や養分を吸収するための土地を確保する力をもたなければならないのです。

 生育する場所が確保できると、次に、植物たちには、水や養分を吸収するために、根を強く張りめぐらせる力が必要になってきます。

厳しい気候からからだを守る戦い

 「植物は動きまわることができない」といわれますが、もし植物たちが話せれば、「自分たちは、動きまわることができないのではなく、動きまわる必要がないのだ」というはずです。

 これは、動きまわることができない植物たちの「負け惜しみ」のように思われるかもしれません。しかし、その意味は、動物が動きまわる理由を考えれば、よくわかります。

 動物が動きまわる理由としてまずあげられるのは、「食べものを探すため」です。でも、植物たちは、光合成によって自分で食べものをつくるので、食べものを探す必要がありません。

 動物が動きまわる2つ目の理由は、「子どもをつくる相手を探すため」です。でも、植物たちは、動き回らず、色や香り、蜜で、花粉を運ぶ虫を花に誘い、子孫であるタネをつくることができます。

 動物が動きまわる3つ目の理由は、「からだを守るため」です。これには、いろいろな局面があります。たとえば、植物たちは、動きまわることなく、紫外線からからだを守り、暑さや寒さをしのがなければなりません。そのために、植物たちは、どのような仕組みをもち、どのような工夫を凝らしているのでしょうか?

 これらを考えると、動きまわらずに、生存競争に打ち勝って生きている植物たちが秘めた「力」が浮かびあがり、それらに支えられた「知恵と工夫に満ちた植物たちの生き方」が見えてくるはずです。

【次ページ】「食べられる宿命」との戦い

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