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  • 2020/10/06 掲載

当選でGAFAに追い風?逆風?なぜバイデンのIT政策はこれほどあいまいなのか

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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民主党オバマ政権(2009~2017年)、共和党トランプ政権(2017年~)の下で、米テック大手は我が世の春を謳歌(おうか)し、その時価総額は空前の規模にまで膨らんだ。11月の大統領選挙で民主党のバイデン候補が勝利すれば、この流れは大きく変わるのだろうか?だが翻ってバイデン候補のこれまでのテック政策についての発言を振り返ると、あいまいで具体性を伴わない発言が多い。今後の米テクノロジーの発展を占う上でも重要な、同氏のテック政策感を掘り下げていく。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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バイデン氏のIT政策の実態はいつ明らかになるか
(Photo/Getty Images)


優先度が低いバイデンのIT政策、5Gも補助的役割

 バイデン候補の政策や方針に関しては、経済や外交分野でかなり詳細が明らかになってきた一方で、IT政策に関しては不明な点が多い。

 まず、バイデン候補にはテクノロジー政策に関して助言する専任の顧問がいない。これは、バイデン氏にとってのITの政策優先順序が低いことを示していると、一部の米メディアは解釈している。

 たとえば、熾烈(しれつ)さを増す中国との人工知能(AI)開発競争について、バイデン候補は「米国も投資を増やすべきだ」と述べるものの、明確な道筋や優先度を示していない。これは、同氏が77歳と高齢であり、ITへの理解度や熱意が低いことが関係している可能性がある。

 バイデン氏はテクノロジー領域と重複する部分もある知的財産権(IP、主にハリウッド映画の海賊版対策)には通じているが、5Gを含むブロードバンド接続に関しては理解度が低いとの見方もある。事実、バイデン候補の政策において、5Gやブロードバンド接続は独立したカテゴリーとして扱われるのではなく、へき地政策や貧困政策、教育政策など他分野の目標の達成手段として扱われているのが特徴だ。

 たとえば、バイデン氏にとって高速ブロードバンド接続は過疎地政策の一部であり、補助的な役割を持つものとして次のように位置づけられているにすぎない。

「高速ブロードバンド接続は21世紀型経済に必要不可欠であり、その整備により仕事や事業所があらゆる場所で展開できるようになる。(へき地という理由で)ブロードバンド接続のアクセスがないことで経済的不利益を被る層があってはならないし、逆に(過疎地での)アクセスを増やして不平等を解消すべきだ。」

 マイクロソフトの調べでは、米国はブロードバンド後進国であり、1億6200万人がいまだに高速ブロードバンド接続の恩恵に浴することができず、3300万人はインターネット接続すらない。

 こうした中、トランプ政権はすでに、高速ブロードバンド接続を2兆ドル規模のインフラ投資の一部として掲げ、204億ドルをへき地や低所得層のブロードバンド接続に投じる計画を明らかにしており、バイデン陣営もほぼ同内容で200億ドルをブロードバンド建設に費やすと表明している。この面で、「バイデン政権」の政策はトランプ政権の方向性を踏襲する可能性が大きい。

 ただし、バイデン候補はコロナ禍で対面授業の代わりにリモート授業が主流になる中、ブロードバンド接続へのアクセスを持たない低所得層の子供が圧倒的に不利な立場に立たされていることに鑑み、「コロナ禍対策パッケージ」としてブロードバンド接続に優先的に取り組む可能性があると指摘されている。これは、トランプ大統領にはない発想だ。


トランプ政権と共通する、巨大テックへの厳しい姿勢

 バイデン候補とトランプ大統領のIT政策の共通点はほかにもある。たとえば、現在のインターネットの興隆に寄与した米通信品位法230条においては、フェイスブック、ツイッター、グーグルなどのサイト運営者が問題のあるコンテンツの投稿に責任を負う必要がない。だが、テック企業がその免責にあぐらをかいて、適切なコンテンツの投稿監視(モデレート)を怠っているとの批判が絶えない。

 トランプ大統領は5月、これらの運営企業が保守派言論を不当にモデレートしているとして、通信品位法230条の免責保護を見直すよう求める大統領令に署名した。驚くべきことに、動機は違えども、バイデン候補も通信品位法230条の免責を見直すように求めている。

 バイデン氏は1月に、『ニューヨーク・タイムズ』紙の編集者たちを前に演説し、「たとえば御紙が誤った報道をすれば、免責は認められず訴えられるだろう。だが、彼(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者)には、その免責が与えられているのだ。フェイスブックはうそだとわかっている情報を広めている。フェイスブックや他のプラットフォームに対する通信品位法230条の免責は、直ちに取り去られ、無効化されなければならない」と強い口調で述べている。

 これは、通信品位法230条の廃止ではなく改革を求める民主党主流派の見解とは異なっており、トランプ大統領や、民主党左派で同党大統領予選候補でもあったバーニー・サンダース氏と政策の方向性を同じくすることからも、注目される。

 一方、バイデン氏は米上院司法委員会の委員長を務めていた1990年代に、連邦捜査局(FBI)などの法執行機関が通信傍受をしやすくする法案を提出しており、反テロ法関連では通信の暗号化に強く反対していた。これは、現在バー司法長官が追求する反暗号化の方向性や、法執行機関の通信傍受の要求と同じ趣旨だ。ここでもまた、バイデン氏とトランプ氏のIT政策には共通点が見られる。

目立つテック政策全般の不明瞭さ

 しかし、これら一部の立場を明確にした分野を除き、バイデン氏のテック政策観は全般的にあいまいで、具体性を伴わない発言しか行っていない。見方を変えれば、当選後の政策余地を確保するため、当たり障りのないことしか言わないのかもしれない。他方、IT大手に対する厳しい発言は少なく、分割規制に関してはトランプ政権との連続性の方が大きくなるのではないかと思わせる。

 たとえば、プラットフォームが取得したデータのプライバシー保護については、「欧州のような標準が米国にも必要だ」と述べているが、それがEU一般データ保護規則(GDPR)のような徹底したものを指すのかは不明だ。副大統領候補のハリス氏も「消費者のプライバシー保護が必要だ」と述べているが、それがGDPR型のものか、ハリス氏の地元カリフォルニア州型のGDPRよりも弱い規制なのか、詳細はわからない。

 こうしたあいまいさについて米メディアは、「本来は2020年の大統領選の争点の1つとなるはずであった規制分割問題が、コロナ禍によってかすんでしまったことが大きい」と分析する。事実、ITは予備選段階ではホットなイシューであったため、もしコロナがなければ、本選の重要な争点となったはずで、より明確な立場を選挙戦中に表明しなければならなかっただろうとの見立てである。

 トランプ政権は現在、フェイスブックやグーグルなどのテック大手を独占禁止法違反の疑いで調査しているが、結論は出ていない。そのため、オバマ・トランプ歴代政権に受け継がれてきた現行のIT企業優遇政策に変更があるとすれば、トランプ政権第2期あるいは「バイデン政権」誕生後である。だが、規制分割に関するバイデン氏の明確な考えは、現時点では示されていないのが実情だ。

【次ページ】GAFA関係者がバイデン陣営に続々参戦、方針に影響か?

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