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  • 2020/11/04 掲載

タクシー会社「全社廃業」も、過疎地で「市民の足」をどう守っていけばいいのか

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深刻な人口減少が続く中、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけ、高知県須崎市でタクシー事業を運営する3社すべてが11月末で廃業することになった。須崎商工会議所が中心となって新しいタクシー会社を設立し、12月から営業を引き継ぐことで、どうにか市民の足は守られたが、過疎地で事業を継続するのは簡単ではない。高知工科大地域連携機構の須賀仁嗣特任教授(公共政策)は「地方の公共交通はビジネスモデルとして破綻している。これからは地域の事情に見合った形で存続できる方策を模索しなければならない」と指摘する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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新会社の須崎しんじょうハイヤーが入る須崎市原町の錦ハイヤー本社
(写真:筆者撮影)

本記事のツイッターなどの掲載時に、掲載当初の一定期間、一部写真の表示が、天地が反転するなど正常になされておりませんでした。本件に関し、ご心労をおかけしました読者ならびに関係の皆さまにお詫び申し上げます。


売り上げが前年の40~50%程度に

 屋根付きの歩道が設けられた通りに人の姿がほとんどない。建物はどれも古く、昭和のたたずまいを感じさせる。有名観光地を抱える地方自治体はGO TOトラベルでにぎわいを取り戻しつつあるが、須崎市の中心部・原町にあるJR須崎駅前通りは、昼時になってもひっそりと静まり返っていた。

 須崎市はニホンカワウソ最後の生息地として知られ、最近はB級グルメの鍋焼きラーメンで観光客の呼び込みに力を入れている。しかし、全国的に知られた観光スポットはない。客待ちしていた錦ハイヤーの運転手は「緊急事態宣言のころよりましだが、人口が減っているところへ新型コロナが追い打ちをかけ、人がまったく動かない」と表情を曇らせた。

 須崎市は高知市の西約30キロ、土佐湾に面した港町で、9月末現在の人口は約2万1000人。ピーク時の1955年に比べると、4割近く減少した。65歳以上が全人口に占める割合を示した高齢化率は、2015年の国勢調査で36.3%。全国平均より10ポイント近く高い。現在はすでに40%を突破したとみられる。

 市内を走る鉄道路線はJR四国の土讃線だけ。路線バスは官民双方が運行しているが、1日当たりの本数は多くて数本しかない。生活するのにマイカーが必需品で、車に乗れない高齢者はタクシーを頼りにしてきた。

 市内のタクシー事業者は、錦ハイヤー、須崎ハイヤー、吾桑ハイヤーの3社。所有車両は3社合計で約30台あるが、新型コロナの感染拡大で売り上げは前年の40~50%程度まで落ち込んでいる。


市民の足を守るため、商議所などが新会社設立へ

 「売り上げが落ち込み、このままではあと2カ月ほどで運転資金が尽きる」。錦ハイヤーから須崎商議所へ相談が持ち込まれ、公共交通が深刻な危機に直面していることが明らかになったのは、5月下旬のことだった。

 須崎商議所が須崎ハイヤー、吾桑ハイヤーの両社から状況を聞き取ったところ、錦ハイヤーと同様に経営が危機的状況に陥っていることが分かった。当時は駅前や車庫で何時間も待機しなければ客が来ないこともあったという。

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須崎市桑田山乙の事務所で予約型乗合タクシーの出発を待つ吾桑ハイヤーの車両
(写真:筆者撮影)

 須崎商議所と須崎市はこのままでは3社とも倒産に追い込まれかねないとして打開策の協議を始めた。須崎市は地方自治体で車両などを保有し、運行を業者に任せる上下分離方式を導入している島根県津和野町を視察して導入を検討した。しかし、3社の運転資金が尽きるまでに間に合わない可能性があることから、新会社設立しか選択肢がなかった。

 新会社は須崎しんじょうハイヤー。須崎商議所と地元農協、個人らが出資する。高知市でコンサルタントをしていた人物を社長に招き、本社をJR須崎駅前の原町にある錦ハイヤー本社に置くことを決めた。3社が11月末で廃業したあと、翌12月1日から営業を始める。須崎市も補助金を交付して支援する。

 須崎商議所の坂井正輝専務理事は「市民の足であるタクシーを1日も止めないようにするためには、この方法が最善と考えた。再就職を希望する運転手らは全員、新会社に受け入れたい」と述べた。

 須崎市は人口約1900人で、過疎化が深刻な多ノ郷北部地区で3月から予約型乗合タクシーの運行を始めていたが、新会社が事業を継続する。須崎市の北川幸一企画政策課長は「多ノ郷北部地区は特に公共交通が弱く、高齢者の割合が市平均より高い。タクシーがなければ生活に困る人が少なくないだけに、どうにかしたかった」と胸をなでおろしていた。

 ただ、新型コロナが終息しても須崎市の人口は減り続ける見込み。どうやって新会社の経営を軌道に乗せるのか、課題は山積している。坂井専務は「新会社は利益を出して事業を継続しなければならない。難しいのはこれから」と見通しを語った。

【次ページ】全国で相次ぐタクシー会社の倒産、廃業

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