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  • 2020/12/11 掲載

マルチクラウドとは何か?ガートナーが解説するAWS・Azure・GCPらの差別化戦略とクラウド活用術

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変化へのより柔軟な対応に向け、クラウド活用が企業の間で加速しつつある。ガートナー ジャパンのリサーチ&アドバイザリ部門でディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストを務める亦賀忠明氏によれば、マルチクラウドなどへの対応を模索する企業も増えているのだという。しかし、そこでの取り組むを概観すると、国内ではいまだ既存のシステム要件を踏襲した外部への「丸投げ」が大半を占める。これではせっかくクラウドを利用しつつも、その真価を発揮させることは難しいのが現実だ。亦賀氏がクラウドサービスの最新トレンドを織り込みつつ、具体的な道筋を提示する。

クラウドを原動力にモード1からモード2へ脱却

 新型コロナにより経営環境の変化がさらに加速する中、企業にはキャッチアップに向けたより高い変化対応力が求められている。「Gartner IT Symposium/Xpo 2020」に登壇したガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門 ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストの亦賀忠明氏は、「そのためには10年先を見据えたシステム基盤の抜本的な見直しが急務だ」と強調し、次のように続ける。

「そこで鍵を握る技術、一度作ったシステムを使い続ける“モード1”から、継続的かつ短期間での見直しを前提とする“モード2”への脱却を可能とするクラウドだ。これにより、CI(継続的インテグレーション)/CD(継続的デリバリー)、DevOpsなどのフレームワークが下支えとなり、巨大なシステムの迅速かつ安価な、しかもユーザー満足度が高い形での持続的な運用が実現される」(亦賀氏)

 その推進に向けた動きは国内でも金融業界などですでに顕在化。ふくおかフィナンシャルグループでは、勘定系システムのDBの信頼性と処理能力を高めるためにCloud Spannerの利用に着手。また、第一生命もMicrosoft Azureを自社のクラウド基盤に採用。そこでの知見を基に、マイクロソフトは金融機関向けリファレンス・アーキテクチャーを開発し、提供を開始している。

 ただし、日本ではいまだ「頭でっかちで体が利用に付いていかない」(亦賀氏)企業が大半だという。

「確かにオンプレは減っている。だが、我々の調査ではクラウド導入率は最も高いSaaSでも31%。IaaS、PaaSなどを含めて平均では2割にも届かない(図1)。しかも、ユーザー企業でも8割が、いまだクラウドのメリットやリスクなどの基本事項を確認したり、利用を外部に丸投げしたりといった段階にとどまるのが実態だ」(亦賀氏)

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日本におけるクラウドの導入状況
(出典:ガートナー)


マルチクラウドとは何か?

 この数年で、ガートナーには複数クラウドを使い分ける「マルチクラウド」に関する問い合わせも増えている。マルチクラウドとは、複数社のパブリック・クラウドを組み合わせて使用すること。2020年現在、マルチクラウドには(1)計画的マルチクラウド、(2)自然発生的マルチクラウド、(3)発展的マルチクラウド、(4)先端的マルチクラウドが存在しているという。

計画的マルチクラウド

主にシングル・クラウドへのロックインに関する懸念を解消したいというニーズから生まれたものであり、組織的 なガバナンスを必要とする。開発者よりもIT部門がガバナンスを効かせたい場合に議論される。

自然発生的マルチクラウド

気付いたら企業内で複数のパブリック・クラウドを使っていたという、いわゆるシャドーITの状態になっているもの である。このようなケースではガバナンスは効いておらず、社内はクラウドのカオス状態となっているが、「確かに、 当社はマルチクラウドになっている」といった会話が交わされることが多い。

発展的マルチクラウド

シングル・クラウドにおけるコストや技術的課題などを継続的改善の考え方によって解決しようとするものである。たとえば、クラウド・ネイティブ企業が最初にAmazon Web Services (AWS) を使い、その後必要に応じてGoogle Cloud Platform (GCP) やMicrosoft Azureといったほかのクラウドと連携させ、サービス基盤を発展的に作り替えるというケースがこれに当てはまる。

先端的マルチクラウド

コンテナやGoogle Kubernetes Engine (GKE) クラスタをAWSの上で動かすといったものであり、2020年現在、日本国内でもクラウド・ネイティブ企業における先行事例が確認できる。

 だが、亦賀氏によればマルチクラウドでもクラウドの正しい理解が欠けているケースが数多くみられるという。

「最も多い誤解が、クラウドを従来型のアウトソーシングや仮想ホスティングの延長として捉えていること。クラウドの本質は、モード2のためのサービス部品の集合だ。この認識を欠くことで、多くの企業でマルチクラウドの検討が空回りしている。すでに先進企業とそうでない企業のクラウド活用のギャップは10年以上に相当するまで拡大している」(亦賀氏)

AWS、マイクロソフト、グーグル、オラクルらの差別化戦略

 一方で、クラウド利用にてこずる日本企業を尻目に、大手クラウドベンダーによるクラウド競争は新たなターニングポイントを迎えている。

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クラウド競争は新たなターニング・ポイントを迎えている
(出典:ガートナー)


 それに基づき、各社は差別化に向けた独自策をここにきて相次ぎ打ち出している。

 まず、AWSで注目されるのが、クラウドのインフラやサービス、API、ツールのほぼすべてをオンプレミス環境に拡張するためのアプライアンス製品「AWS Outposts」と、A5サイズのエッジコンピューティング/ストレージデバイス「AWS Snowcone」だ。これらによって、データ保護の点で採用を断念していた企業でのクラウド利用や、ドローン向けの高速処理といった新たなクラウド活用が可能となる。

「ここで見誤ってはならないのは、Outpostsはハイブリッド環境の推進を意図したものではないことだ。狙いはあくまで、モード2によるシステム基盤のさらなる使い勝手の向上だ」(亦賀氏)

 Microsoft Azureもマルチクラウドやエッジ連携に注力。その一環として、Azure上のリソースの管理機能をオンプレミスやマルチクラウド、エッジなどに拡大する「Azure Arc」の開発を進めている最中だ。

 Google Cloudでは、コンテナ化されたアプリのクラウドとオンプレミスを問わない実行を可能にするプラットフォーム「Anthos」を発表。先進のクラウド技術をオンプレミスに適用することでのモード2のハイブリッドの強化とともに、業界に特化したリファレンス・アーキテクチャーを他社と共同で提案するなど、クラウド内のモード1の強化を同時に推し進めている。

 オラクルは野村総合研究所と手を組み、Oracle Cloud環境を顧客環境に構築する取り組みを国内で開始した。また、VMwareは5Gサービスや、AIなどの大量ワークロードを、CPUからNVIDIA DPU(Data Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、Specialized NICなどにオフロードするハイブリッドクラウドの新アーキテクチャー「Project Monterey」を発表。

「ハードとソフトの組み合わせにより現在のパブリッククラウドの技術群との差別化を目指すProject Montereyは、クラウドの競争の在り方を大きく変える可能性を秘めている」(亦賀氏)

【次ページ】クラウド時代に求められる「スタイル・チェンジ」とは?

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