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  • 2021/04/28 掲載

業界の妄信を否定、ロボットのリカーリングビジネスを確立したイクシスの方法論

森山和道の「ロボット」基礎講座

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ロボット開発者たちの多くは、ロボットを主役にしたがる。だが本当に主役にすべきはサービスであり、ロボットはそのための道具だ。これからのロボット活用が考えられる現場は、当然のことながらすべて人が作業を行う前提で作られて回っている。そこにロボットを入れるためには、人の側にも環境の側にもロボットに歩み寄ってもらう必要があるが、一足飛びには行かない。しかしある程度ステップを踏むことを厭わなければ、現場側からロボットが求められるようなやり方も可能になるという。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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イクシスの点検支援技術

使えるロボットを作れば使ってもらえる「わけではない」

 ちょっとおかしな話だが「ロボットが普及した社会の様子、その風景を想像せよ」と言われたら、だいたいの人が同じような風景を思い描くのではないだろうか。つまり、ロボットが普及した社会の「ゴール」自体は、実は多くの人のあいだで漠然と共有されている。だが実際にロボットが普及するためには一定のステップを踏む必要があるし、そのステップが、開発者側とユーザー、ひいては社会全体で共有されている必要がある。

 多くのロボット関係者は「使えるロボットを作れば使ってもらえる」という考え方に立っているが、そうではない。ロボット活用のゴールのビジョンだけが共有されているのでは不十分であり、プロセスを考える必要がある──。こう強調するのは、ロボットを使ったインフラの維持管理ソリューションを展開している「イクシス」の代表取締役Co-CEO兼CTOの山崎文敬氏だ。山崎氏は以前から「すごいロボットを持っていけば現場が受け入れてもらえるわけではない。現場視点が重要だ」と語っている。同社の取り組みは、ロボットサービスを考える上で多くの人に示唆を与えてくれると思うので、ご紹介したい。

建設・土木分野のデジタル活用ニーズに乗る

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イクシス
代表取締役 Co-CEO兼CTO
山崎文敬氏

 1998年にロボットベンチャーとして山崎氏が創業したイクシスは、2018年9月に社名を「イクシスリサーチ」から「イクシス」へと変更して増資。共同代表として狩野高志氏を加え、営業戦略を強化した。それまでの20年間は主にメーカーとしてロボットハードウェアを販売していたが、現在、第二創業として、建築や土木領域でのデジタル化のすべてをロボット+AIでサポートするサービス業の会社へと転身しようとしている会社である。

 イクシスのソリューションはこうだ。まず、カメラやセンサー類を搭載したロボットを使って構造物を3次元化する。取得データを元に建築土木業界で使われているBIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling/Management)形式に変換し、いわゆる「デジタルツイン」を作る。実物をスキャンするので図面にはなかった建物の傷や損傷なども丸ごと三次元データとして表現されるので、オーナーはどこにどんな傷があるのかをデスクトップ上で把握し、それに合わせて補修計画を立てることができる。

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i-Constructionにおけるイクシスのソリューション。三次元計測を行いBIM/CIMに変換。ICT活用工事や維持管理に活用できるようにする
(イクシス提供)

 どなたももう耳タコだと思うが、建設・土木の領域も他と同様で、高齢化と人手不足が本当に深刻化している。生産性向上や3K脱却も必須だ。そのため国土交通省も「i-Construction」、すなわちICTを活用した情報化施工による生産性の向上を2016年から本格的に推進しており、今後は多くの施工が3次元データを使って施工管理しようという流れになっている(詳細は国交省の生産性革命プロジェクト 参照)。ここにロボットを使った定量的なデータ取得やAIを使った品質管理を使おうというわけだ。

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橋梁の3次元点群にひび割れ画像を重畳した画像
(イクシスのプレスリリースから)

 イクシスでは特に事務所内で行う必要があるデータ整理作業の自動化に注力している。そのためのデータを現場で均一かつ漏れなく高品質に取得するための道具がロボットである、という立ち位置で開発し、機材の販売・レンタルを行っている。そのためのメーカーからサービス業への転換を決心したのが2018年だったと山崎氏は振り返る。後述するが、同社のリカーリングビジネスの売上はすでに4割に達しているという。

メーカーからサービスの会社に、中小企業からスタートアップへ

 今でも、昔のイクシスのような小規模メーカーのロボットベンチャーは少なくない。現在流行のスタートアップ志向よりは、そのほうが性に合っていると考える創業者も多い。多くが技術者出身で、初期メンバーも技術者が多いからだ。イクシスでも、受託開発をこなして作って売るだけで黒字で回っていたこともあり「エンジニアの多くは実直な会社であることを好んでいた」という。同社のロボットは福島第一原発の現場にも導入されるなど、やりがいも感じていた。

 それがなぜ事業転換したのか。イクシスではインフラ業界のためのロボットを長らく開発していたので、そのためのノウハウは蓄積されていた。だが他社との競争を考えると、ロボットを作ること以上に「きれいな現場データを網羅的に取ってくる」ことのほうが意味のあるノウハウではないのかと気づいたのだと山崎氏は語る。

 もちろん、事業転換は順風満帆ではなかった。当時のイクシスの従業員は12人。外部資金を入れるため、会社の体制をきちんと仕組み化する必要もあった。しかし、小規模ベンチャーのままでは、いずれは大手に飲み込まれる。ロボットだけでの差別化は難しいからだ。そこでi-Constructionで求められる定量的な施工の品質管理を追い風とし、ロボットを使ったデータ収集とその処理を武器として、仕掛けることにした。

【次ページ】「徐々に現場のロボット化を進める」リカーリングビジネスで利益を上げるイクシス

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