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  • 2021/06/24 掲載

デザイン経営、デザイン思考とは何か? 特許庁CDO補佐官に聞く、9つの実践実例

新連載:デザイン経営の「正体」

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昨今、デザインをビジネスの中核に取り込む「デザイン経営」という言葉を聞く機会が増えてきた。しかし、その意味するところを正確に理解している人はまだそんなに多くないのではないだろうか。一体、デザイン経営とは何なのか。なぜ今この概念に注目が集まっているのか。デザイン経営の「正体」を探る連載として、今回、特許庁のデザイン経営プロジェクトに当初から携わり、現在、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)補佐官として、この概念の普及に務める特許庁審査業務部長 西垣 淳子氏に話を聞いた。

聞き手・構成:編集部 松尾慎司、本橋実紗、執筆:吉田育代、企画協力:福本勲、鍋野敬一郎

聞き手・構成:編集部 松尾慎司、本橋実紗、執筆:吉田育代、企画協力:福本勲、鍋野敬一郎

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特許庁
CDO補佐官(デザイン経営プロジェクト)
西垣 淳子氏


デザイン経営、デザイン思考とは何か

 デザイン経営とはデザインを活用した経営手法のこと。では、ここでいうデザインとは何か。特許庁が経済産業省とともに2018年に発表した「デザイン経営」宣言によれば、デザインは「ブランド構築に資するデザイン」と「イノベーションに資するデザイン」の2つに分類されるという。

 より詳しく言えば、「企業が大切にしている価値、それを実現しようとする意志を表現する営み」に基づいてブランドを構築し、「顧客の潜在的ニーズを基に既存の事業に縛られずに、事業化を構想する営み」を通してイノベーションにつなげていくことだという。

 8年にわたって「デザイン経営」の普及に務めている西垣氏にデザイン経営とは何かを尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「デザイン経営とは、一言で表現するならば、ユーザーの声にもっと耳を傾けようという活動です。ユーザーを中心に考えることで、自分たちが生み出している商品やサービスを使っている人たち、あるいはこれから使ってもらいたいと思っている人たちは一体誰で、その人たちは何を欲しているのか、それを知るところからすべてを始めます。そこで根本的な課題を発見したら、これまでの発想にとらわれずに、それでいて実現可能な解決策を、柔軟に反復・改善を繰り返しながら生み出していくことが大切なのです」(西垣氏)

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【デザイン経営の効果】=【ブランド力向上】+【イノベーション力向上】=【企業競争力の向上】
(出典:経産省・特許庁「『デザイン経営』宣言」)

 従来の経営とデザイン経営は何が違うのか。それは、IT業界でたとえるなら、ウォーターフォール開発とアジャイル開発の違いだ。従来の経営は、社内で策定された企画立案から始まって、製品・サービスの開発、狭義でのデザインプロセスを経て、市場投入とひたすら線形に進む。これは「よいものを作れば売れる」という考えに立脚したプロダクトアウト型と言える。

 しかしデザイン経営では、ユーザーに対する共感と理解、課題の設定、試作、実験というサイクルを何度も行きつ戻りつ完成度を高め、ようやく商品化して市場投入に至る。 そこには「新製品・新商品でも選ばれなければ売れない」という価値基準の転換があり、その中心にあるのが「デザイン思考」なのである。

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デザイン経営とは何かを示した概念図
(出典:特許庁)

なぜ今? デザイン経営が重要視される理由

 ただ、デザイン経営やデザイン思考という考え方は、最近生まれたものではない。「デザイン思考」という言葉が用いられた初期の文献となるピーター・ロウ氏の『デザインの思考過程』が刊行されたのは、1987年のことだ。なぜ今、その考え方が重要視されているのだろうか。デザイン経営が注目され始めた背景に、21世紀以降の市場の大きな変化があると西垣氏は語る。

「大量生産を前提としたモノの豊かさが飽和して、ユーザーの求めるニーズが心の豊かさへシフトしています。何か自分に新しい価値を与えてくれるものであったり、共感できる価値や企業コンセプトで選択するといった方向に変化が起こっており、実際にこれらの変化を十分に捉えている企業が伸びています。そして、提供される価値を比較して消費者が選択するようになると、企業側から見ると、それまでの競合でないところが競合相手となってきています」(西垣氏)


 西垣氏は、例として自動車を挙げた。運転そのものを楽しんでいる人もいるが、移動ができればいいと考える人たちもいる。後者の場合、自動車メーカーは配車サービスとも競合することになる。

「ものとしての自動車を提供するという価値観のままでは、顧客側の変化を十分に捉え切れていません。ユーザーが変わる中で経営も変わらなければいけないときの経営手法として、視点を顧客側に置くという『デザイン思考』が受け入れられつつあるのだと思います」(西垣氏)

 デザイン経営を十分に理解している企業の代表例として、西垣氏はアップルを挙げる。アップルの製品は機能もデザインも優れているが、購買者がアップルというブランド価値に満足していることもよく知られている。購入する店舗、製品のパッケージにもブランド価値が確立されており、それは購買時点のみならず利用期間も続く。同氏は、日本企業もこうしたブランド価値を、デザイン経営を通じて構築していくべきだと主張する。

【次ページ】デザイン経営は何からすべきか、9つの入り口とは

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