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  • 2021/07/26 掲載

東京五輪の交通規制は適切か? 現場で見た「問題点」と「評価点」

連載:MaaS時代の明日の都市

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東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が始まった。当初の予定から1年延期されたうえに、一部を除き無観客開催となるなど、新型コロナウイルスの影響を受けて異例の内容となったが、交通対策はどうなっているのか。規制措置が行われる現場で筆者が感じた問題点と評価点をレポートする。

モビリティジャーナリスト 森口 将之

モビリティジャーナリスト 森口 将之

1962年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、出版社編集部を経て1993年にフリーランスジャーナリストとして独立。国内外の交通事情・都市事情を取材し、雑誌・テレビ、ラジオ・インターネット・講演などで発表。2011年には株式会社モビリシティを設立し、モビリティやまちづくりの問題解決のためのリサーチ、コンサルティングを担当する。著書に『MaaSが地方を変える 地域交通を持続可能にする方法』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『富山から拡がる交通革命』『パリ流環境社会への挑戦』など。

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交通規制措置が行われている首都圏各所、どのような光景が見られたか。
次ページで詳細をレポート
(写真:筆者撮影)


首都高速1,000円上乗せは無観客と無関係

 2020年3月に1年延期が決まった東京2020大会。しかしコロナ禍は一向に収束する兆しを見せず、開幕直前になって多くの競技が無観客で行われることになった。

 よって、首都圏などの鉄道路線で計画されていた深夜運行は中止となった。しかし道路では、首都高速道路の通行料金1,000円上乗せ、会場周辺の道路の通行止めや車線規制などが、予定どおり実施されている。

 ちなみに首都高速の1,000円上乗せは全車ではなく、トラックやバスなど料金区分で中型車以上の車両、緑ナンバーの営業用車両は除外される。さらに時間帯は6~22時に限られており、深夜0~4時は逆にETC利用であれば全車5割引きになる。

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交通規制の一環として、首都高速道路では通行料金の1,000円上乗せが行われている
(写真:筆者撮影)

 つまり物流には影響はなく、深夜利用とすればむしろ割引きになるのだが、「無観客なのになぜ1,000円上乗せなのか」という不満の声も聞かれる。しかしこれらの措置はそもそも、関係者の輸送を円滑に行うためであり、後で説明するように、観客の有無は関係ない。

 これまでも東京都心で行われるスポーツの試合を観に行く人は、ほとんど電車を使っていた。駐車場代が高いし、終了後などに渋滞するからだ。地方から来た人も、飛行機や新幹線などで東京にやって来て、宿泊施設を拠点とするはずなので、やはり多くは公共交通での移動がメインになるはずだ。

 こうした状況を考えれば、東京2020大会の観客の多くがマイカーで移動するというのは、首都圏で日常的に生活している人であれば信じられないと思うはず。首都圏で50年以上暮らしてきた筆者も、なんでこんな不満が出るのか正直わからない。


 それに、一連の交通規制は1年以上前から決まっていたことだ。筆者は2019年12月、自動車専門のWebメディア「MOTA」に、期間中の道路交通について書いたことがあるので、その時の内容を振り返ってみる。

 当時、すでに大会公式ウェブサイトには交通マネジメントの説明があり、一般道路では大会前の交通量の10%減、競技会場が集中したり混雑が予想されたりする16地区および首都高速道路では30%減を目指すという目標を掲げていた。

 この時点で、首都高速は選手や大会関係者の移動ルートに設定されている。個人的にはこの判断を評価していた。

交通規制は2年前から考えられていた

 大都市の中心部に高速道路が走り回っているのは、先進国では異例の光景だ。もちろん景観面など好ましくないこともある。でも料金所があり、交差点がなく、歩行者や自転車が通らない首都高速は、交通のコントロールがしやすい関係者の移動ルートとしては理想的だと思ったのだ。

 同年夏、つまり今から2年前には、大会開催を想定した実験も行われた。首都高速の一部の入り口閉鎖や料金所ゲート制限、環状7号線内側の一般道路の通行制限など、本番さながらの大規模な規制が実施されたのだ。並行して、働き方を変えてもらうなどのお願いもしていた。

 しかし当時はまだコロナ禍前で、テレワークなど夢のまた夢という状況。仕事があるから会社に行くというより、会社に行くことが仕事と考えるような人が多い国では希望どおりの結果は得られず、目標の30%にほど遠い約7%減にとどまった。

 この結果を見て、首都高速では東京2020大会期間中に通行料金を1,000円上乗せすることを決定した。当時も批判の声はあったが、それほど目立っていなかった。なので1年半以上たった今になって、非難が集中したことに驚いた。

 数年前、大型台風の上陸に備えて首都圏の鉄道が計画運休を発表したとき、情報機器であるスマートフォンを手に持ちつつ駅にやってきて「知らなかった」と文句を言う人がニュースで紹介されたときのことを思い出した。コロナ禍でデジタル化が叫ばれても、残念ながら日本の情報リテラシーのレベルは変わっていないようだ。

【次ページ】規制措置が行われる現場で見た問題点

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