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  • 2021/09/02 掲載

スーパーマーケットの軒並み「減収減益」で示された、店舗小売の厳しすぎる現実

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中国のスーパーマーケットが軒並み減収減益となり、苦しい経営を迫られている。近因としては、ご近所同士でまとめ買いができるECビジネス「社区団購」の広がりがあるが、その背景には「新小売」の台頭がある。現在の苦境が一時的な落ち込みではなく、構造的に問題があることは明白だ。スーパー側も宅配サービスに対応するなど対策はしているが、宅配事業の黒字化にこぎ着けている企業は少なく、生き残る処方箋を誰も示せていない。中国の小売業は、もはや一部の集客力のあるブランドを除いて、店舗小売だけでは生き残っていけない時代に突入した。

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

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中国のスーパーマーケットの危機的状況が示す、これからの小売業の在り方とは
(写真:新華社/アフロ)


主要スーパーは散々たる結果に

 中国のスーパーマーケット各社が発表した2021年第1四半期の財務報告書が、関係者らに衝撃を与えている。ほとんどのスーパーが大幅な減収減益となったのだ。

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上場しているチェーンスーパーマーケット各社の2021年第1四半期の営業収入の前年比。ほとんどのスーパーが減収になっている
(出典:各社財務報告書より作成)

 特に減益幅が著しかったのは、業界トップの「永輝」(ヨンホイ)でマイナス98.51%、大潤発(RTマート)でマイナス49.6%と、赤字転落にはなってはいないものの、完全に危険水域に入っている。比較対象になっている2020年Q1は新型コロナによる外出自粛の影響でスーパーは好調だったこともあるが、それを考慮してもあまりにも大きな下落ぶりだ。

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各社の純利益の前年比は深刻だ。赤字になったのは「人人楽」のみだったが、各社とも赤字ぎりぎり。中国のスーパーにとって春節がある第1四半期は、利益の出る「書き入れ時」だけに経営にも影響を与えている
(出典:各社財務報告書より作成)

 この業績不振は、一時的なものではなく、構造的なものと見られている。遠因は2016年にアリババが提唱した「新小売」(ニューリテール)による業態の大きな変化があり、近因には2021年にテック企業が相次いで参入した、まとめ買いECビジネス「社区団購」(シャーチートワンゴウ)に市場を蚕食されていることがある。


新小売の本当のスゴさはどこか

 新小売は、中国メディアですら「デジタルを活かした新しい販売スタイル」程度の意味で使うことがあるが、2016年、アリババ主催のカンファレンスで創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)氏が初めてこの言葉を使った時、定義は次のようなものだった。「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して新小売となる。すべての小売業は新小売になっていく」。

 これは凄みのある発言だった。店舗小売も生き残っていくことはできないが、オンライン小売も生き残っていけないと指摘している。当時のアリババの主力事業は、オンライン小売のEC「淘宝網」(タオバオ)だった。アリババですら、そのままの業態では生き残っていけないという宣言をしたのだ。

 この新小売は新しい概念ではない。1990年代の終わりに、米アマゾンがオンライン書店として成長すると、既存の店舗型書店が圧迫されるようになり、「クリック&モルタル」という言葉が使われるようになった。クリック=オンライン書店、モルタル=店舗型書店を融合させ、両方のいいとこ取りをするという考え方だ。しかし、当時は書店が電話やウェブで受けた注文を宅配便で発送する以上のことは誰もやらなかった。

 ジャック・マー氏の新小売は考え方としては新しくはないものの、それまでと圧倒的に違ったのは、翌年に新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を展開し、具体的な現実解を示したということだ。

 フーマフレッシュでは、買い方は「店頭/スマホ注文」の2通り、受け取り方は「店頭受け取り/宅配」の2通りが選べ、2×2で組み合わせて、自由なスタイルで購入ができるようになっている。仕事帰りの地下鉄で注文し、帰宅時間に合わせて宅配してもらう。店頭に行って、重たい酒や食用油は宅配してもらうが、つまみの食材は持ち帰り、自宅で調理をする。休日に出掛ける時に、自宅からスマホで注文し、車で店頭に立ち寄って受け取り、そのままキャンプ場に向かうなど、さまざまな利用法ができる。


 ここで重要なのは、買い物行動のステルス化だ。日常生活の中で「買い物に行く」という行動をわざわざとってもらうのではなく、日常生活の導線に買い物ができるポイントを配置していく。これにより、「買い物に行く」という行動を起こしてもらう必要がなくなり、購入のハードルが下がる。消費者と商品を接触させる機会は無限に広がり、日常生活の導線に適切な商品を配置することで、コンバージョンを無限にあげていくことができるのではないか。そういう仮説に基づいている。

 この「人が商品を探す」から「商品が人を探す」に転換させることが、アリババの新小売の本質だ。これを実現するためには、モバイル、データテクノロジー、AI、IoTといった技術が必須になる。だからこそ、アリババは自分たちに優位性があると見て、表面的には白菜や豚肉を売る新小売スーパービジネスを始めた。

【次ページ】既存スーパーが犯した最大の過ち

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