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- 2021/09/16 掲載
ラインビルダーとは何かをわかりやすく図解、委託するメリット・大手企業まるごと解説
株式会社d-strategy,inc 代表取締役CEO、東京国際大学 データサイエンス研究所 特任准教授
日立製作所、デロイトトーマツコンサルティング、野村総合研究所、産業革新投資機構 JIC-ベンチャーグロースインベストメンツを経て現職。2024年4月より東京国際大学データサイエンス研究所の特任准教授としてサプライチェーン×データサイエンスの教育・研究に従事。加えて、株式会社d-strategy,inc代表取締役CEOとして下記の企業支援を実施(https://dstrategyinc.com/)。
(1)企業のDX・ソリューション戦略・新規事業支援
(2)スタートアップの経営・事業戦略・事業開発支援
(3)大企業・CVCのオープンイノベーション・スタートアップ連携支援
(4)コンサルティングファーム・ソリューション会社向け後方支援
専門は生成AIを用いた経営変革(Generative DX戦略)、デジタル技術を活用したビジネスモデル変革(プラットフォーム・リカーリング・ソリューションビジネスなど)、デザイン思考を用いた事業創出(社会課題起点)、インダストリー4.0・製造業IoT/DX、産業DX(建設・物流・農業など)、次世代モビリティ(空飛ぶクルマ、自動運転など)、スマートシティ・スーパーシティ、サステナビリティ(インダストリー5.0)、データ共有ネットワーク(IDSA、GAIA-X、Catena-Xなど)、ロボティクス・ロボットSIer、デジタルツイン・産業メタバース、エコシステムマネジメント、イノベーション創出・スタートアップ連携、ルール形成・標準化、デジタル地方事業創生など。
近著に『メタ産業革命~メタバース×デジタルツインでビジネスが変わる~』(日経BP)、『製造業プラットフォーム戦略』(日経BP)、『日本型プラットフォームビジネス』(日本経済新聞出版社/共著)。経済産業省『サプライチェーン強靭化・高度化を通じた、我が国とASEAN一体となった成長の実現研究会』委員(2022)、経済産業省『デジタル時代のグローバルサプライチェーン高度化研究会/グローバルサプライチェーンデータ共有・連携WG』委員(2022)、Webメディア ビジネス+ITでの連載『デジタル産業構造論』(月1回)、日経産業新聞連載『戦略フォーサイト ものづくりDX』(2022年2月-3月)など。
【問い合わせ:masahito.komiya@dstrategyinc.com】
ラインビルダーとは?
ラインビルダーとは、製造ラインの構想から、エンジニアリング、機器の選定、据付、試運転、従業員の教育、機器のメンテナンスまでをフルターンキー(一括請負)で実施してくれる企業を指す。自社の中に製造ラインの設計や生産ノウハウを持たない企業であっても、ラインビルダーに委託すれば、これら工程をまるごと引き受けてくれるのだ。一方、フルターンキーという形で請け負うのではなく、一部の領域・工程を担う存在として、生産設備SIerがある。企業が生産設備などついて外部企業を活用する際、大きく分けてラインビルダーと生産設備SIerに分かれることになる。
それでは、なぜラインビルダーに注目が集まるようになってきたのか。それは近年、インダストリー4.0をはじめとする、モノづくりのデジタル化が大きく関係している。すでに欧米や中国、さらには新興国では、モノづくりのデジタル化が進むにつれ、高度な製造ラインの構想・導入において、外部企業であるラインビルダーに相談することが一般的になってきているのだ。
このように、グローバルではラインビルダーの活用が進む一方、日本においては、「ライン設計・生産」の領域は国内企業が内製で蓄積してきた強みでもあるため、ラインビルダーのような外部企業の活用はあまり一般的ではなかった。
世界におけるラインビルダーの動向を紐解きながら、日本にけるラインビルダー活用の在り方を考えたい。
欧米企業の「ラインビルダー」活用が進む理由
なぜ欧米企業においてラインビルダーの活用が進んでいるのだろうか。欧米自動車メーカーとしては、ラインビルダーを活用することによるコア技術の流出よりも、「ラインビルダーを活用しないリスク」の方が重要であると捉えている。自社で生産技術・リソースを抱えている間に陳腐化してしまうリスクを抱えるのであれば、ラインビルダーを通じて先端の技術を取り入れ、その分のリソースをほかの競争領域に集中投下して差別化を図ることがより戦略的であるとの判断である。
もちろん、すべての工程でラインビルダーを活用しているわけではなく、自社で賄う競争領域とラインビルダーなどを活用する非競争領域を棲み分けたうえで、コアとなる工程は社内を中心に磨き上げている。
特に、ラインビルダー活用をはじめ、競争領域と、非競争領域の棲み分けをうまく行っているのが欧米企業であると言える。
世界のラインビルダー主要企業を紹介
ラインビルダー活用が拡がる中、欧米では広範な標準ラインメニューを持つ総合系のラインビルダーが誕生している。主なラインビルダーとしては、先述したドイツの「デュル(Durr)」をはじめ、日立製作所が買収した米国の「JRオートメーション(JR Automation)」、米国の「ATSオートメーション」、自動車メーカーのFIATグループ傘下のイタリアの「コマウ(Comau)」などである。
驚くべきは、これら企業の顧客カバレッジの広さである。たとえば、ドイツの塗装工程に強いラインビルダーであるデュルの自動車領域における顧客カバレッジとしては、ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン、アウディ、FCA、GM、フォード、ボルボ、テスラなど、広く欧米系の大手企業を押さえている。
日本のラインビルダー主要企業を紹介
一方で、従来日本においては、製造業企業の内部生産技術が強く、自社内生産技術部門が構想・設計などを行い、開発範囲を定義した上で、ある程度決められたスコープを生産設備SIerに依頼をするというケースが多かった。その結果として、先述の平田機工といった一部メガラインビルダーを除き、特定の領域での零細~中堅の生産設備SIer企業が多く存在している構図となっている。日本においては、日本企業とともにGMやダイソンなどのグローバル企業のラインも担っている熊本県本社の平田機工が代表的企業である。
それでは日本企業は、どのようにラインビルダーを位置付け、活用していけば良いのだろうか。ここからは、ラインビルダーを活用するメリット、ラインビルダーが製造業に与えるインパクトを解説する。
インパクト(1):製造ノウハウを「買える」ようになった
製造業企業はラインビルダーを活用することで、グローバル標準の先端製造ラインを導入することができる。中国を含む新興国企業の急速なキャッチアップの背景には、これらラインビルダーの存在が大きい。ラインビルダーは、あらゆる企業のライン開発を行い、その経験から得たノウハウを基に開発工程の標準メニューを作り出している。そして、そのメニューをベースに他社へ横展開を行っているのだ。
たとえば、後述するドイツ大手ラインビルダーの「独デュル(Durr)」は、塗装ラインや組立ライン、搬送ライン、検査ラインなどを標準メニューとして有している。そのため、デュルに依頼をすれば、グローバルで標準的に活用されている製造ラインを導入することが可能である。
同じように、ラインビルダーの作り出した標準メニューを活用することで、現段階でノウハウを持たない新興国企業も製造ラインのノウハウを調達することができるのだ。
このように欧米などの先進国企業から中国を含む新興国企業へ技術・ノウハウが移転する流れがこれまでは主であったが、近年は逆の流れも生まれている。
たとえば、豊富な投資予算や、既存製造ラインやオペレーションのレガシー(遺産)がないことを背景に先端的なライン技術開発が中国・新興国で行われ、その技術・ノウハウを先進国企業が調達するといった動きもでてきているのだ。
【次ページ】ラインビルダーが業界に与えるインパクト(2)(3)、日本企業が考えるべき変革とは?まるごと解説
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