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  • 2021/10/11 掲載

汎用人工知能(AGI)は人とどう共存するのか、あるいは人を支配するのか

WBAIシンポジウムレポート

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脳神経科学の成果を基に、人間の脳と同様の認知アーキテクチャの実現を目指すAI開発のアプローチを探る「全脳アーキテクチャ(WBA)」。そこで実現する汎用人工知能(AGI)は、多角的な問題解決能力を自律的に獲得する点で、特定の目的に特化した従来からのAIとは一線を画し、早ければ2030年代と予測されているその登場は、社会に大きなインパクトをもたらすと見込まれている。WBAによるオープンなAGI開発を推進する全脳アーキテクチャ・イニシアティブ(WBAI)は9月、6回目となるシンポジウムを開催。慶應義塾大学 教授の栗原聡氏をモデレータに、東京大学 教授の稲見昌彦氏、慶應義塾大学 教授の大屋雄裕氏、理化学研究所の高橋恒一氏、WBAI代表で東京大学の山川宏氏の4氏が、AGI登場後の未来社会について多様な角度から意見を交わした。

執筆:フリーライター 岡崎勝己

執筆:フリーライター 岡崎勝己


※本記事は第6回 全脳アーキテクチャシンポジウムの内容をもとに再構成したものです。

“AGI×人”でのイノベーションに必要なものは?

 議論の口火を切ったのは、慶應義塾大学 教授の栗原聡氏による次のような問いかけだ。

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慶應義塾大学 教授 栗原聡氏

「AGIが登場しても人や社会が変わらなければ、AGIは世の中を便利にして我々を甘やかすだけだ。そこからのブレイクスルーには、AGIと人との共生により思わぬイノベーションを生み出す創発現象が必要になるだろう。そこで鍵を握るのは何か」

 この問題提起に対して、「考えるべきことの切り口の1つが、人の能力獲得はどう行われるかということ」と応じたのは東京大学 教授の稲見昌彦氏だ。

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東京大学 教授 稲見昌彦氏

 同氏は人工的な6本目の指などによる身体の能力拡張の研究で知られ、過去、時間の流れが遅い仮想空間でのけん玉の練習により、難しい技を現実世界で短期間に習得できることを発見した。

「そこから言えるのは、環境との相互作用が人の身体能力の向上に貢献するということだ。AGIはそこで大いに活用を見込め、人と環境との間へのAGIの介入方法の研究を通じ、人の身体能力の獲得プロセスの解明進むとともに、そのことが創発にも寄与すると考えられる」(稲見氏)

 対して、慶應義塾大学 教授の大屋雄裕氏は法哲学の観点から、現在の倫理観からの抜本的な転換が求められていると訴える。

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慶應義塾大学 教授 大屋雄裕氏

 ただし、そこには難しい問いが山積しているという。


AGIとの共生に向けて改めて問われる倫理観

 現在、人による動物の使役が広く認められているが、であるのなら、AGIが人より高い能力や倫理観を持った時、人がAIに使役される側に回ることも認めるべきとの指摘もその1つだ。

 また、個として分断して存在し、言葉という正確性に欠ける手段で情報を伝達する人間は、ネットワークで結ばれ、データを直接的にやりとりするAGIよりも情報伝達や処理の能力に理屈の上で劣る。

 この考えに立脚すれば、社会の全体最適化のためにはAGIが判断の主体となり、人は下された結果に隷属したほうが合理的との見方もある。

「集団を優先した判断は人権を損なうことも多い。であっても、全体最適の観点からAIの判断を認めるべきなのか。その答えはそう簡単に出ないことは明らかだ」(大屋氏)

 また、歴史を振り返れば、人は個体としての幸福に逆らった自己犠牲に人の尊厳を見出し、それが従来からの社会の“掟”を変える力にもなってきた。同様のことがAIの世界で果たして認められるのかという点で疑問も残るという。

 AGIによる社会の変化は、20世紀半ばからのポストモダニムズからの脱却という見方もできると語るのは、理化学研究所の高橋恒一氏だ。

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理化学研究所 高橋恒一氏

「人権、自由意志、人間性などは近代から現代にいたるまでの根本的価値観だ。貴族や豪傑の時代であった中世から、近代では生産の場が機械化され工場に移り、生産構造が変化し結果的に中間層へ富や権力が移行した。神が死に人間性神話が誕生した。ポストモダンも大きく見れば近代の揺り戻しであり近代の延長だ。だが、AGIの登場や神経科学の発展による脳の意志決定の仕組みの解明などは、人間性神話の基盤をあやうくし、今とはまったく違う価値観を根本とするまったく違う時代に突入する契機となる可能性がある」(高橋氏)

 大屋氏もその論に同意したうえで、「ポストモダンはモダンの延長として、不透明なコミュニケーションの中での人間の共存に向けた動きだが、それが一気に塗り替えられる可能性がある」と述べる。

【次ページ】AI社会では人間の“置き場所”の用意も大切に

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