• 2022/01/16 掲載

習近平はスターリンの民族政策とは真逆?知の巨人たちによる「覇権国」への考察

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大航海時代以降、現在の世界のおおよその「すみ分け」が行われた。その後、国際社会で重要なポイントは、どの国が「覇権国」なのかということに移っていった。この考え方はいまの国際社会の力学を考えるうえでも非常に重要なポイントになる。「知の巨人」橋爪 大三郎氏と佐藤 優氏が「覇権国」「冷戦」「中国」について鋭く切り込んだ。

執筆:橋爪 大三郎、佐藤 優

執筆:橋爪 大三郎、佐藤 優

橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
1948年生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京大学大学院社会学部究科博士課程単位取得退学。1989-2013年、東京工業大学で勤務。著書に、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『教養としての聖書』(光文社新書)、『死の講義』(ダイヤモンド社)、『中国 vs アメリカ』(河出新書)、『人間にとって教養とはなにか』(SB新書)、共著に、『ふしぎなキリスト教』(講談社現代新書)、『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)などがある。

佐藤 優(さとう・まさる)
1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。1985年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、2009年6月執行猶予付有罪確定。2013年6月、執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『人をつくる読書術』(青春出版社)、『勉強法教養講座「情報分析とは何か」』(角川新書)、『僕らが毎日やっている最強の読み方』(東洋経済新報社)、『調べる技術 書く技術』(SB新書)など、多数の著書がある。

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※本記事は『世界史の分岐点 激変する新世界秩序の読み方』を再構成したものです。

グローバル世界の形成

橋爪氏:さて、地球儀を見ると、旧大陸と新大陸があります。旧大陸とは、昔から人間が住んでいる場所。新大陸は、そこから移民でやってきた人びとが、新しくつくった社会。ここに明確な対比があります。

 植物に、外来植物というものがあります。原産地を離れて、新しい環境に拡がる。何とかタンポポみたいに、単一の植相で広い範囲に分布します。原産地に行ってみると、とても狭い範囲に細々と生育していたりする。植生に多様性があって、ひとつひとつの種の範囲は狭いのです。

 それと似たようなことが、もともとの国と移民のあいだにも成り立つような気がする。ヨーロッパは、ごく狭い地域に、隣と違った言語や人種や文化の人びとがぎっしり住んでいます。その境界を動かすのはなかなか大変です。でも、いったん移民になって新大陸に移動すると、どこに行ってもドイツ人がいたり、アイルランド人がいたり、の状態になります。だから、外来植物の場合と似たところがある。新大陸の常識は旧大陸に通用しないし、旧大陸の常識は新大陸で通用しないのです。

 キリスト教に関して言えば、だいたい地域ごとに、宗派が決まっています。

佐藤氏:そうですね。

橋爪氏:例えば、ドイツは大部分がルター派で、南側に3分の1ぐらいカトリックがいて、スイスの一部とオランダにカルヴァン派がいて、それから、フランスはユグノーがいたけど追っ払われたからカトリックで、でも、信じていない人が多くて、みたいに。場所ごとに、どんな教会があるか決まっているんです。

 ところがアメリカに行ってみると、ちょっと大きい町だと、ワンセットでひと揃いの教会があります。それからヨーロッパにあまない、メソジストとかバプテストとかの教会もある。クエーカーやモルモン教や、もある。アメリカ人が考えるキリスト教と、ヨーロッパ人が考えるキリスト教は、少し違うのですね。

佐藤氏:だいぶ違うと思います。

どの国が「覇権国」なのかが国際社会で重要に

橋爪氏:つぎは、覇権国の話です。

 大航海時代のあと、どの国が覇権国なのかが、国際社会にとって大事になります。そもそも、キリスト教世界には国家があるのですね。強いのと弱いのがあって、いちばん強いのが覇権国である。これは比較的、新しい考え方だと思います。大航海時代を主導したのはスペイン、ポルトガル。スペインが覇権国になりました。つぎに、オランダがそれに挑戦しました。フランスも優位を占めようとした。そのあとオランダとイギリスが争って、イギリスが覇権国になり、そのあとアメリカになった。これが世界史の流れです。覇権国という、国際社会の仕切り役があるというのが、ここ数百年の西欧世界です。

 覇権国は、なぜ覇権国になるかというと、軍事力が強いからです。軍事力は、陸軍力も含みますけれど、この場合、海軍力がかなり大事ですね。海軍力は、通商を制することができるからです。

 アメリカがいま、覇権を握っています。アメリカは歴史上初めて、新大陸で覇権を握った国です。新大陸の国(移民の国)なので、旧大陸の対立から距離をおきたい、という本能をもっています。ドイツとフランスが戦争をしたとする。ドイツ系アメリカ人とフランス系アメリカ人が争うと、アメリカは困ります。中立を保つ。そして、アメリカに対する忠誠を強調する。中立が、アメリカの基本的な外交姿勢だと思います。

 でも、覇権国になると、そうも言っていられなくなった。仕切らなければいけません。第一次大戦では英仏の側に立ち、第二次大戦では、真珠湾攻撃を受けてようやくイギリスの側に立ち、冷戦のときにはソ連に対抗して自由主義陣営を率いた。責任の所在と世界戦略をはっきりさせるという、アメリカとしてはあんまりやりたくないことをやってきたのです。

【次ページ】冷戦とは何だったのか?その背景にあるもの

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