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  • 2021/12/08 掲載

レノボやJ&J事例にみる、サプライチェーンの「レジリエンス」と「コスト効率」の両立

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コロナによるビジネスへの阻害に対し、今「レジリエンス(回復力、しなやかさ)」が注目を集めている。一方で、企業はレジリエントであることとコスト効率の両極に引っ張られ、両立させることが困難とも感じているようだ。ガートナー VPアナリストのカマラ・ラーマン氏が「Gartner Supply Chain Symposium/Xpo 2021」でレノボやジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)などの事例を引き合いに語った。

執筆:米国在住ジャーナリスト 土方 細秩子

執筆:米国在住ジャーナリスト 土方 細秩子

米国在住のジャーナリスト。同志社大学卒、ボストン大学コミュニケーション学科修士課程修了。テレビ番組制作を経て1990年代からさまざまな雑誌に寄稿。得意分野は自動車関連だが、米国の社会、経済、政治、文化、スポーツ芸能など幅広くカバー。フランス在住経験があり、欧州の社会、生活にも明るい。カーマニアで、大型バイクの免許も保有。愛車は1973年モデルのBMW2002。

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サプライチェーンにおけるレジリエンスとコストは両立しうるのか?
(Photo/Getty Images)

※本記事は9月13日~15日開催「Gartner Supply Chain Symposium/Xpo 2021」の内容をもとに再構成したものです。

地産地消がもたらしたサプライチェーンの混乱

 企業は過去数十年にわたり効率化に注力してきた。その結果、専門性の助長が激化し、最も効率性の高い企業が市場を席巻することになった。

 消費者が全世界に存在するようになり、製造工程も分散して消費者により近い場所で行われるようになった。その結果、原材料などの輸入への依存度が高まった。それに伴い生産能力の制約も生じる。

 今日、多くのサプライチェーンに遅延が生じ、製造工程のすべてのTierにおいて能力不足が起きている。中でも重要なのは投資に対するリターンだ。特に競合のある業界、これまで効率性のあるモデルに基づいてハイリターンを生み出してきた企業にとって、これは大きな課題となる。

 過去に多くの企業が中国に進出し、西洋の技術ノウハウと安い中国の労働力を活かして製品を生み出してきた。それにより企業同士の競争もより激しいものとなった。

 このモデルが機能しなくなった時、企業や国家が歴史的なハイレベルのサプライチェーンや経済的なインテグレーションから後退することになる。ここで企業が懸念するのは、顧客がよりレジリエントなネットワークに追随するのか、あるいはより低価格な競合に流れていくのかという点だ。

 ここ数年で見られるナショナリズムの増大も、グローバルトレーニングポリシーに影響を与えている。これまで比較的低価格の労働力を提供してきた国の成長による労働コストの増大は、サプライチェーンのあらゆる部分に影響を及ぼしている。そして過去18カ月に我々が経験したかつてないほどのサプライチェーンの分断も問題だ。


レジリエンスへの投資は長期コストを削減

 企業はさらなる低コストを求め、新たな市場に参入していくべきなのか。しかしここで提案されているのは意思決定は直接的な製造コストによってのみ決定されるべきではない、という点だ。

 カスタマーエクスペリエンスという観点から考えると、レジリエンスへの投資は実際には長期的にコストを削減し、成長を保護することが可能だ。

 まず、カスタマーエクスペリエンスとそこに到達するための適切なコスト構造に焦点を当ててみる。ガートナーの最新の年次調査、2020年後半に行われたものによると、レジリエンスは69%の企業でコストと矛盾すると見なされていた。

 過去のネットワークは、コスト効率を重視して設計されていたとの回答が60%である。つまりレジリエンスは無料ではないと感じており、それらの投資がもたらすものの価値を定量化することができずに投資することをためらうという結果だ。

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レジリエンスはコストと両立しないとみる向きが多い

 しかし、業界リーダーの見方は少し異なる。彼らの見解は、すべての戦略に適合する1つの主流となる方法は存在しないと考えている。さまざまな地域や製品ラインでの個々のニーズと投資を適切に追跡し、効率的な成長セグメントから着手し、垂直統合を行うことで成長につなげることができる。以下は米大手日用品メーカーのコルゲート・パーモリーブ(Colgate-Palmolive)社が用いている3つのセグメントである。

(1)効率的成長
 まず垂直統合だが、特に産業分野のグローバルメーカーにとって、世界中のプレーヤーと競争するためには、スケールを構築する必要がある。内部的には適切なコスト構造を実現し、エンジニアリング価値を決定する。

(2)段階的成長
 垂直統合後は、倹約工学(Frugal Innovation)が中心になる。これには、ロボットなどのブラインドテクノロジーが含まれ、従業員のタスクをより迅速にする。したがって、これは低コストの製造場所で使用して、地元の労働力を増強することができる。

(3)破壊的成長
 コアソーシングと製造を妨げることなく、地域ソーシングがグローバルネットワークに追加されているチャイナプラス戦略のようなものであり、セグメントとしての効率的な成長である。

 段階的成長とは、需要と供給の課題に基づいて、運用の俊敏性を高めることを意味する。ここでの目標は、需要に応じて変化する顧客のニーズに柔軟に対応することである。最も難しいのは、ネットワークの可視性を取得することだ。最も洗練されたものでは、多層サプライヤーとの拡張ネットワークを指す。

 次に訪れる破壊的成長は、革新的テクノロジーにより起こされることが多い。レノボやジョンソン・エンド・ジョンソンなどの企業は非常に機密性の高い新製品の独自のネットワークを有する。また、主要な委託製造業者との戦略的パートナーシップがあり、そこから破壊的成長がもたらされる可能性がある。

 市場アクセスのコストも、破壊的成長の要因のひとつだ。たとえばEVではベンチャー企業が大手メーカーと競争し、しばしば勝利を納めることがある。サプライチーム間での情報伝達のデジタル化、デザインのシンプル化も大きな影響をもたらす。

 ポイントは、ローカルで提供されるコストとオペレーションの迅速化を最適化し、顧客の期待に応えていくということだ。スケールとネットワークの透明化がこれに大きく寄与する。

【次ページ】3層からなるレジリエンスフレームワーク

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