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  • 2022/01/20 掲載

相次ぐ規制で「中国企業は停滞する」という解釈が危険なワケ、鍵となるVIEスキームとは?

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2021年6月、米ニューヨーク証券市場に上場を果たしたライドシェア大手「滴滴(ディディ)」。しかし、その2日後にアプリの審査が始まり、事実上の営業停止処分を受けた。そして12月、滴滴は上場廃止し、香港市場への再上場を目指すと表明した。いったい滴滴に何が起きていたのか。さらに2021年はアリババを始めとする多くのテック企業に独占禁止法違反による巨額罰金が科せられた。なぜ、中国政府はこれほどテック企業を締め付けるのか。その背景を読み解くとともに、2022年の中国テック企業の動向を探る。

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

執筆:ITジャーナリスト 牧野 武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

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「規制」が目立つ中国テック企業はこれからどうなる?
(Photo/Getty Images)


「滴滴」上場廃止の背景に中国政府の圧力

 2021年6月30日、滴滴は米国ニューヨーク証券取引市場に上場を果たした。初値は公開価格を19%上回り、中国企業としてはアリババに次ぐ大型上場となった。

 ところが7月2日、国家インターネット情報弁公室が、唐突に「国家のデータ安全と公共の利益を守るため」という理由で「滴滴」アプリの安全審査を始めた。さらに7月4日には、審査の結果、個人情報を違法に収集していたとして、アプリを配信停止処分にした。

 これはネットサービス企業にとって、営業停止処分とほぼ同じだ。滴滴の株価は低迷することになり、結局、12月3日にニューヨーク証券市場からの上場廃止の準備に入り、香港証券市場への上場を目指すと発表した。

 これにより、アプリの配信停止処分が解除され、5カ月にわたる営業停止処分が解けることになった。滴滴は、わずか4日で天国から地獄に落とされたことになる。

 2021年はこれだけでなく、アリババを始めとする多くのテック企業に独占禁止法違反による巨額罰金が科せられた。まるで、中国政府が大手テック企業をつぶしにかかっているようにも見える。

 多くの人は、中国政府はなぜこんな愚かなことをするのだろうかと疑問に思うはずだ。経済を牽引し、社会を変えてきたテック企業を叩いて何の得があるのだろうか。むしろ経済を停滞させてしまうことになるのではないかと、誰もが素直に思うはずだ。


中国企業への外資参入を可能にする「VIEスキーム」

 中国政府は、経済環境の正常化を進めている。中国の労働人口=消費人口が減少に転じたことにより、高度成長は終わり安定成長にギアを入れ替える必要がある。そこで、さまざまな社会体制を大急ぎで作り直し、次の安定成長時代に備えているのだ。滴滴の問題もその一環であると考えられている。

 滴滴の上場廃止問題には、複合的な要因が絡んでいて、1つの理由だけに原因を求めることはできない。ただ、中国メディアの多くが指摘しているのが「VIEスキーム」への規制が始まったということだ。VIEスキームとは、Variable Interest Entity(変動持分事業体)のことで、多くの中国テック企業が採用する統治スキームだ。これを中国政府は問題視し、正常化しようとしている。

 どの国であっても、特定産業への外資参入を規制している。多くの場合はインフラ関連と言論機関だ。このような業種で外国人が大株主になると、安全保障上の問題が生じるため、議決権割合に制限をかけているのだ。近年では、フジテレビと東北新社がこの20%制限を超えていたことが発覚してニュースになった。

 中国ではこれに加えて、国内産業を保護する目的で外資参入規制が行われている。このため、トヨタは中国に進出しているが、商務部が定める「外商投資産業指導目録」(ネガティブリスト)の制限類に自動車製造業が指定されているため、100%の子会社を中国に設立できない。そこで、広州汽車と合弁で「広汽豊田」という会社を設立し、トヨタ車の製造や販売を行っている。これは他の海外自動車メーカーも同じだ。

 ネット産業は、このネガティブリストの禁止類に指定されている。収集した個人情報が外国に渡ることを防ぐため、1%でも外資が入ることは許されず、内資100%でなければならない。外国の企業、投資家は中国のネット企業の株式を保有することはできないのだ。

 しかし、多くの読者は、「ソフトバンクはアリババと滴滴の株主になっているではないか」と思うはずだ。この外資が参入できないはずの中国企業に、外資の参入を可能にするのがVIEスキームだ。

【次ページ】VIEスキームの仕組みをさらにわかりやすく解説

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