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  • 2022/02/04 掲載

テスラ成功物語は「2022年が正念場」、EVシェア急落を招く“4つの弱み”とは

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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既存自動車メーカーによるワクワク感のある商品開発力が衰える中、「随時アップデートされるソフトウェアとしてのクルマ」で消費者の度肝を抜いた、テスラの電気自動車(EV)。名物創業者のイーロン・マスク氏は、「2021年の生産実績の約100万台を、9年後には2000万台に伸ばす」と意気込む。一方、品質評価が低いことや、EV参入が相次ぐ独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車といった大手競合など超えるべき壁が多い。売り上げ・株価とも絶好調の秘訣(ひけつ)を探るととともに、現時点での神通力が新興勢力の攻勢をかわせるのか、強みと弱みに迫る。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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2030年に生産台数2000万台を目標に掲げるが、乗り越えるべき壁が多い
(写真:AFP/アフロ)

“4つの強み”で時価総額は超ド級「トヨタの3倍」

 テスラは、品質や信頼性などファンダメンタルズの面で必ずしも優れた企業ではない。また、昨年の年間生産台数も100万台に満たない約93万台だった。にもかかわらず、同社の時価総額は約1兆ドル(約115兆円)と、超ド級である。製品の品質評価が高く約900万台を生産したトヨタ自動車の約40兆円や、技術で定評があり約890万台を売った独フォルクスワーゲンの約15.6兆円をはるかに上回っている。

 テスラの株価は、2003年の設立から2019年までは鳴かず飛ばずであったが、2020年の1年間だけで前年比743%の驚異的な上昇を見せ、2021年はペースが落ちたものの引き続き右肩上がり。まさに株価が10倍になった銘柄「テンバガー」である。この、一試合で10塁打(テンバガー)を記録する勢いで株価が急騰したのは、同社に対する投資家の期待感が数字の結果として現れたものだ。

 テスラの将来に向けた期待をここまで高めているのは、どのような要素なのだろうか。アナリストたちは、同社の売り上げが2021年とそれ以降の近未来に前年比50%増のペースで伸び続けると見ており、ファンダメンタルズ面でも強化が進んでいることが大きい。だが、それだけではテスラのおばけ時価総額は説明できない。ほかの自動車大手の生産台数、品ぞろえ、品質管理にはまだまだ及ばないレベルであるからだ。

 この謎について米『ビジネスインサイダー』(現『インサイダー』)の上席特派員であるマシュー・ディボード氏が2020年1月の論考で、「テスラはファンダメンタルズに基づいて売買される銘柄ではなく、その物語で価値が決まる企業なのだ」と看破した。同社の時価総額の源泉はまさに、2021年の米『タイム誌』で「今年の人」に選ばれた、マスク最高経営責任者(CEO)のナラティブ(物語)発信力にある。

 テスラの物語は、数々の試練を経ながらも急成長を遂げてきた勝利のストーリーであり、同社の強みが凝縮されている。それは、(1)未来を先取りするビジョン、(2)環境保護の時代精神をリードし、政治をも動かす多動性、(3)コンプライアンス文化や既存の設計・製造様式をあざ笑うかのようなリスクテーキングと攻めの姿勢、(4)経営者の破天荒なキャラ、など相互に深く関連する要素で構成される。

 ディボード氏は、テスラの物語が既存メーカーによる「夢づくり」失敗の空白を埋めるものであると示唆した。事実、既存のメーカーが際立った魅力のあるクルマを消費者に提供できなくなって久しい。つまり、完成度や品質は高いが退屈で、往時の斬新な商品がもたらしたような期待やワクワク感が無い。

 既存メーカーに対するアンチテーゼとしてのテスラは、エキサイトさせてくれる商品に感じる人々の懐かしさや飢餓感という「空白」を埋め、先発メーカーが失ったやんちゃなチャレンジ精神や話題性を武器にしている。

魅力の根源とは、投資家の評価が高いワケ

 たとえば、2021年末に発売予定だったが、リリースが2023年初頭に延期されたピックアップ型のサイバートラック(Cybertruck)。先に「器」の形を発表してしまったことで、デザインへの毀誉褒貶(きよほうへん)があるだけでなく、製造面で困難や問題が生じている可能性がある。

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先鋭的な「あの形」「とがったコンセプト」が魅力のピックアップ型サイバートラック
(Tesla/ZUMA Press/アフロ)

 しかし、「あの形」「とがったコンセプト」こそ、テスラの差別化の魔法であり、すでに300万台以上の注文が寄せられている魅力の根源であるように見える。

 このトラックも同社のセダン同様、ハードウェアとしてではなく、ソフトウェア主体のクルマとして設計されている。テスラのクルマは、同一のハードウェアで生産し、ソフトウェアでグレードを分けるという、器と中身の主従が逆転した奇抜さと新しさ、そして世界的潮流となった環境保護の要求を満たす、社会的ステータスシンボルを体現している。

 こうしたナラティブ力は、「既存企業から失われたフロンティアの夢」を再創造したマスクCEOの魅力に根差すもので、フロンティアナラティブの維持のための宇宙開発や次世代事業とも相互関連している。つまりテスラ物語は、宇宙の無限性をいわば借景にしているマスク氏の化身であり、競合はイメージ面でコピーしにくいのだ。

 事実、子ども用EVバギーとして開発したサイバークワッド(Cyberquad for Kids、価格は1,900ドルでおよそ22万円)に至るまで、「テスラらしさ」があふれている。

 いつも綱渡りでお騒がせなマスクCEOの経営スタイルには批判が多い。しかし、EVがまだ海のものとも山のものともつかない時代にビジネスリスクを一手に引き受けたパイオニア精神や、カウンターナラティブを圧倒する先行者のアドバンテージ、熱烈なファンの「信仰」は、簡単にはマネできない。その競合優位性(moat)こそ、投資家が高く評価するものだろう。

【次ページ】“4つの弱み”が顕在化? 2022年が正念場に

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