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  • 2022/07/11 掲載

5分でわかる「2022年版エネルギー白書」、原油価格上昇の影響もまとめて解説

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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資源エネルギー庁は2022年6月、エネルギー政策基本法に基づく年次報告である「2022年版 エネルギー白書を公開しました。本白書の発行は今年で19回目となります。本記事では250ページ超におよぶ「2022年版 エネルギー白書」の中から、「第1部 エネルギーをめぐる状況と主な対策」の中の、「第2章 カーボンニュートラル実現に向けた課題と対応」「第3章 エネルギーを巡る不確実性への対応」の内容を基に、カーボンニュートラルに向けた課題と対応、エネルギーを巡る不確実性への対応について考察します。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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「エネルギー白書」を基に、カーボンニュートラルに向けた課題、エネルギーを巡る不確実性への対応について考える
(Photo/Getty Images)


エネルギー情勢(1):なぜ価格は高騰している?

 現在、世界的にエネルギー価格が高騰しています。ロシア・ウクライナ問題がエネルギー価格の高騰の原因として語られることもありますが、ロシア軍によるウクライナ侵略以前から世界のエネルギーを巡る需給状況は厳しさを増していました。それはいくつかの複合的な要因によってもたらされていると考えられます。

 たとえば、2014年頃の原油価格下落や、脱炭素の流れを受けた化石資源投資の低迷により燃料供給力が世界的に低迷していたこと。さらに新型コロナによって2020年に大きく停滞した世界経済が2021年に回復に向かう中で、新興国を中心に天然ガスをはじめとしたエネルギー需要が大きく増加したこと。

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上流開発投資額と上流開発企業の投資額の推移
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第132-2-1)

 また、2021年夏には天候不順や災害などにより、欧州各国で風力発電が期待通りに動かなかったことや、北欧や南米で水不足による水力発電量が低下したこと、米国で寒波や熱波による需要増大に供給力が追いつかなかったことに伴い、これを埋めるために天然ガスなどの需要が世界中で大きく伸びたことなどが挙げられます。

 これらが複合的に作用し、2021年には各国でエネルギー需給が逼迫し、電力価格が高騰したり、停電に至る例も見られました。2022年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻は、こうした厳しい状況に追い打ちをかけ、世界のエネルギーを巡る情勢をさらなる混迷に向かわせています。

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2021年の主な大規模停電・需給ひっ迫状況
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第132-2-4)

エネルギー情勢(2):新型コロナの影響まとめ

 コロナ禍における世界的な行動制限や渡航制限に伴ってガソリンや航空燃料などの急激な需要減が生じています。

 2020年のエネルギー需要はコロナ前の2019年に比べて減少し、日本では単年度で見れば2008年9月のリーマンショックによる落ち込みを超える大きな下落幅となっています。

 一方、2020年後半以降は、ワクチン接種の拡大や各国政府による経済刺激策を通じた経済活動の拡大により世界のエネルギー需要は急激な回復を見せています。

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世界全体の電力需要における新型コロナの影響
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第131-1-2)

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前年度からの日本の最終エネルギー消費の変化
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第131-2-1)

 部門別の最終エネルギー消費について、2019年度と2020年度を比べると、産業部門のうち7割を占める製造業分野で約10%、業務他(第3次産業)で約5%、運輸で約10%の減少が生じましたが、家庭部門では逆に約5%の増加となりました。これは、緊急事態宣言に伴う外出や消費の自粛により交通需要などが落ち込む一方、テレワークやオンライン授業の広がりで在宅時間が長くなり、自宅でより多くのエネルギーを使うようになったことが影響したと見られます。

 また、2020年度の運輸部門の最終エネルギー消費は2019年度比で約10%減少しましたが、その内訳を見ると、旅客部門では約15%減少する一方で、貨物部門では約5%減にとどまるなど、影響度合いは異なりました。

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各部門におけるエネルギー利用の変化
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第131-2-2)

 このようにコロナ禍では人の移動が制限されたことがエネルギー利用状況に影響を与えていることが分かります。

エネルギー情勢(3):ロシア・ウクライナ問題の影響まとめ

 ロシアのウクライナ侵略が各国のエネルギー情勢に与える影響は各国の原油・天然ガス・石炭のロシアへの依存度によって大きく異なります。資源別のロシア依存度を見ると、各資源ともに欧州各国では依存度が高いことが分かります。

 ドイツが天然ガスの4割以上をロシアに依存し、原油・石炭もロシアが輸入シェア1位となっているほか、オランダが原油のほぼ全量をロシア依存しているなど、エネルギー安全保障上のリスクが高い状況になっていました。

 欧州各国が自国で一次エネルギーを賄うことができていないことに加え、特に天然ガスについてはロシアからの輸入にパイプラインを使っていたことが、ロシア依存度を高めてきたと考えられます。

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主要国におけるロシア産・原油・天然ガス・石炭の依存率(2020年)
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第132-3-1)

脱炭素の潮流(1):カーボンニュートラルを表明した国・地域

 ここ数年、世界的に脱炭素化に向けた動きが加速しています。英国で開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)が終了した2021年11月時点で、154カ国・1地域が2050年などの年限を区切ったカーボンニュートラルの実現を表明しています。これらの国の世界全体に占めるCO2排出量は79%、世界全体に占めるGDPの割合は90%となっており、これらの国・地域の取り組みの影響は大きいと考えます。

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年限付きのカーボンニュートラルを表明した国・地域
(出典:2022年版エネルギー白書(資源エネルギー庁)第121-1-1)

 なお、COP26ではパリ協定に基づく「市場メカニズム」の実施指針が長年の交渉の末に合意され、パリ協定のルールブックが完成したり、インドが2070年カーボンニュートラルを宣言したりするなど、脱炭素に向けた国際的なルール作りや機運の醸成に進展が見られました。

【次ページ】脱炭素の潮流:加速するESG投資、TCFD適用、米国・日本・中国・EUの政策動向まとめ、まるごと解説

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