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  • 2022/08/15 掲載

開始1年で約135億円コスト減の効果、ルノーグループの凄すぎるサプライチェーン改革

【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース

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ここ数年、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などの影響により製品供給が滞るなど、サプライチェーン上の問題が企業経営に影響を及ぼしています。これまで以上に、企業にはサプライチェーンに関わる情報の可視化や効率化が求められているのです。今回は、サプライチェーンの問題の解決に取り組むフランスの自動車メーカールノーグループの事例を解説します。同社はなぜ改革からたった1年で1億ユーロ(約135億円)のコスト削減を実現できたのでしょうか。

執筆:泉啓介(いずみ・けいすけ)

執筆:泉啓介(いずみ・けいすけ)

CSCP、CPIM。『全図解 メーカーの仕事』(ダイヤモンド社)の著者山口雄大、行本顕、小橋重信との4名によるグローバルSCM 推進ユニット「SCM4」で顧客サービスとコストのパートを担当。現在外資系化学メーカーに勤務。生産計画や需要予測、需給調整などサプライチェーンのプランニングに関わる業務に主に携わる。SCMの国際標準を策定する米ASCM/APICSのCPIM(在庫管理や需給調整に関する知識)とCSCP(サプライチェーン全般のマネジメントに関する知識)を取得。同団体認定インストラクター。APICSディクショナリーの翻訳メンバーにも第14版より参画している。最新版は『APICSディクショナリー第16版』(生産性出版、2020)。

■連載『現役サプライチェイナーたちが読む経済ニュース』について
本連載は、150社以上のSCM実務家と議論してきた経歴を持つ需要予測のプロフェッショナルである山口雄大氏、ロジスティクス専門のコンサルティングファームを経営する小橋重信氏、日系消費財メーカーの経営企画室に勤務し、グローバルSCMの世界標準を主導するASCM (Association for Supply Chain Management)の国際資格のインストラクターも務める行本顕氏、大手外資系メーカーでSCMを担当し、同じくAPICSの資格を保有する泉啓介氏による共同連載。需要予測、ロジスティクス、世界標準のSCMの世界観と整理軸、外資系のSCMといったそれぞれの専門分野の目線から経済ニュースを読み解く。

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なぜ、ルノーグループは1億ユーロ(約135億円)のコスト削減を実現できたのでしょうか。サプライチェーン改革の秘密に迫る(写真はルノーCEOルカ・デメオ氏)
(写真:ロイター/アフロ)

SCMの課題は「可視化」「リアルタイムの情報収集」

 新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻などの影響により製品供給が滞るなど、足元ではサプライチェーン上の問題が企業の経営に大きな影響を及ぼしており、これまで以上に企業のサプライチェーンマネジメント(SCM)の重要性が高まっています。

 しかし、ガートナー社のレポートによると、調査に回答した企業のうち、たった21%しか調達・製造・流通に関して必要な情報の可視化ができていないとの報告もあり、まだまだ多くのサプライチェーンで可視化の余地があるようです(注1)

 加えて、サプライチェーン向けのソリューションなども提供するグーグルクラウドが2021年9月に公表したプレスリリースによると、多くの企業がサプライチェーンを完全に把握していないことで小売の在庫切れ、製造品の在庫の滞留、天候起因の混乱を引き起こしており、2020年には在庫切れに対して推定1.14兆ドルの費用がかかったと試算しています(注2)。さらに、新型コロナウイルスに関連するサプライチェーンの混乱によって、オペレーションや在庫レベルなどに関するリアルタイムの洞察の必要性がさらに増しているとしています。

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多くの企業がサプライチェーンを完全に把握していないことで小売の在庫切れ、製造品の在庫の滞留、天候起因の混乱を引き起こしている
(Photo/Getty Images)

SCM課題を解決に導く「高度な分析」と「自動化」

 このように、「可視化されていない」「リアルタイムな情報収集ができていない」といった問題を解決するヒントとして、近年SCMにおいて“高度な分析”と“自動化”が重要なテーマになりつつあります。

 実際に、SCMの国際標準を策定する米ASCM(Association for Supply Chain Management)が公表しているサプライチェーンにおける10大トレンドの1つとしても挙げられており、“高度な分析”と“自動化”を進める組織は、「サプライチェーンの可視化」「データ主導の意思決定」「オペレーションの効率化」が進み、予測力・収益力の向上の恩恵を受けることができると予測しています。

 そんなSCMにおける“高度な分析”と“自動化”を実現する上で、重要になる2つのソリューションがあります。それぞれの特徴は下記の通りです。

■サプライチェーンツイン
IoTやAI、ARなどの技術を用いて仮想空間に実際のサプライチェーンの環境を構築し、シミュレーションを行うソリューション。さまざまなソースからのデータを組み合わせて、サプライヤー、在庫といったサプライチェーン全体の可視化を行う。複数のソースからのデータをまとめることが可能で、従来のAPIベースの統合よりも時間短縮が可能になる。また、統合可能なデータは企業のERPシステムをはじめ、サプライヤーやパートナーのシステム、天気などの公開データなどがある。

■サプライチェーンパルス
サプライチェーンツインと一緒に利用することで、リアルタイムのダッシュボード、高度な分析、潜在的なサプライチェーンの断絶といった問題についてのアラート主導のイベント管理、チーム間のコラボレーション、AI主導の最適化とシミュレーションといった機能を提供する。

ルノーグループのSCM改革とは

 これら技術を活用しながら、SCMの“高度な分析”と“自動化”を進めた好事例として、フランスの自動車メーカーであるルノーグループが挙げられます。

 2020年7月、ルノーグループはグーグルクラウドと提携を結び、生産設備やサプライチェーンのデジタル化・自動化を加速させると発表しています。もともとルノーグループは、生産設備やサプライチェーンに関わる独自のプラットフォームを開発しており、世界22拠点の工場と2500万台以上の機械からあらゆるデータを収集・蓄積しています。そうした中、同プラットフォームの最適化を目指すべくグーグルクラウドと連携することを決めたようです。

 この取り組みについて、ルノーグループのサプライ チェーン グローバル バイス プレジデントを務める ジョン・フランソワ・サーレス(Jean-Francois Salles)氏は、「サプライチェーンの運営方法の革新を推進しており、ネットワーク全体の在庫レベルの可視性を向上させることは重要なポイントである」と述べています。

 また、サプライチェーンツインのようなソリューションを使用して、サプライヤーの在庫データを集約し、データの整理と連携を実現するグーグルクラウドの強力な機能を活用することで、サプライチェーンを包括的に把握し、サプライチェーンの最適化することを目指していると述べています。

 実際に、こうした取り組みによりルノーグループはどれほどの成果を出しているのでしょうか。ここからは、ルノーグループの具体的な取り組みの内容とその効果について解説していきます。

【次ページ】ルノーグループ「1億ユーロのコスト削減」を実現できた理由

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