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  • 2022/08/22 掲載

デジタルプロダクトパスポート(DPP)とは?循環経済を目指す「欧州の重要戦略」を解説

連載:第4次産業革命のビジネス実務論

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世界的なカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミー(循環経済)に向けた取り組みが加速する中、市場に投入される製品が持続可能性なものになるよう、製品の製造元や使用材料、リサイクル性などの情報を製品ライフサイクル上で共有する「デジタルプロダクトパスポート(DPP)」と呼ばれる取り組みが注目を集めています。今回は、サーキュラーエコノミー実現の鍵となるDPPについて解説します。

執筆:東芝 福本 勲

執筆:東芝 福本 勲

東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス 代表
中小企業診断士、PMP(Project Management Professional)
1990年3月 早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRM、インダストリアルIoTなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長をつとめる。主な著書に『デジタル・プラットフォーム解体新書』(共著:近代科学社)、『デジタルファースト・ソサエティ』(共著:日刊工業新聞社)、『製造業DX - EU/ドイツに学ぶ最新デジタル戦略』(近代科学社Digital)がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。また、企業のデジタル化(DX)の支援/推進を行うコアコンセプト・テクノロジーなどのアドバイザーをつとめている。

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デジタルプロダクトパスポート(DPP)とは?
(Photo/Getty Images)

欧州が先行するサーキュラーエコノミー(循環経済)

 世界は産業革命以降、資源やエネルギーを調達し、製品を大量生産し、使用後廃棄をするというリニアエコノミー(線形経済)を前提に経済成長を遂げてきました。これに対して、従来、廃棄が前提とされていた使用済み製品を新たな資源として再利用することで、できるだけ廃棄物を出さないという考え方がサーキュラーエコノミー(循環経済)です。

 サーキュラーエコノミーは使用後に廃棄されるという線形の構造とは異なり、円形のループの中で資源が循環し続けるクローズドループの考え方に基づくものです。

 サーキュラーエコノミーの概念は、資源循環だけでなく、資源回収・再利用を前提に原材料調達・製品設計・デザインなどを行うバリューチェーンや、サプライチェーン全体での抜本的なビジネスモデル変革を通じて、経済成長と雇用創出の効果も期待されている点に特徴があります。

 EUではこのような概念をEU環境政策の全体像を示した「欧州グリーンディール」と強く結びつけて展開しており、2030年に向けた新たなビジョンとして一連のサーキュラーエコノミー政策を打ち出してきました。

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リニアエコノミー(線形経済)からサーキュラーエコノミー(循環経済)への転換が進む
(Photo/Getty Images)

欧州委員会の「持続可能な製品イニシアティブ(SPI)」

 欧州委員会は、EU全域にサーキュラーエコノミーを加速させるための計画「サーキュラーエコノミーアクションプラン(循環型経済行動計画)」の要となる「持続可能な製品イニシアティブ(SPI: Sustainable Products Initiative)」を2022年3月に発表しました。SPIは、EU市場に投入される製品が持続可能なものになるよう、製品の標準化を進める施策が盛り込まれたイニシアティブです。

 SPIのポイントの1つが、環境配慮設計(エコデザイン)対象製品の拡大です。SPIが発表される前に、エコデザインを義務付けるために定められていた「エコデザイン指令(ErP(Energy-related Products)指令)」では、対象がエネルギー関連製品に限定されていましたが、SPIで新たに発表された「エコデザイン規則案」では、食品や医薬品などを除くほぼすべての製品が対象となる見込みです。また、対象範囲の拡大に加えて、「指令」から、より拘束力の強い「規則」に格上げされているのもポイントです。

 これら変更に伴い、欧州委員会は産業界に主に下記を促すとしています。

  • 製品の耐久性、再利用性、アップグレード性、修理可能性の促進
  • 循環性を阻害する製品、環境負荷物質への規制
  • 製品へのエネルギー、資源効率化、再生材含有率最低基準の設定
  • 製品の容易な解体性、容易なリマニュファクチャリング性、容易なリサイクル性の実現
  • カーボンフットプリント、環境フットプリントなどのライフサイクル評価、廃棄物抑止・削減

デジタルプロダクトパスポート(DPP)とは

 SPIで発表された持続可能な製品の標準化に関するパッケージのうち、注目すべきポイントが「デジタルプロダクトパスポート(DPP:Digital Product Passport)」の導入促進です。

 デジタルプロダクトパスポート(DPP)とは、製品が移動するために必要な「(電子的な)パスポート」を指します。一般的にパスポートは、人の属性や国境を越えた移動の履歴などを書き込む公的な本人証明書を指しますが、DPPの場合は製品の持続可能性を証明する情報として、製造元、使用材料、リサイクル性、解体方法などの情報も含まれ、製品のライフサイクルに沿ったトレーサビリティを確保することが求められています。

 DPP導入の目的はカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーの領域でEUが先行しようとすることにあると考えられます。製品はどこで採掘された原料を使い、どこで加工され、どこで最終製品にされたのか、その間、製品はどのような手段でどういった経路を運ばれ、CO2をどれだけ排出したのか、再生材はどれだけ含まれ、環境負荷物質(SOC:Substances of Concern)はどれだけ使われ、修理可能性や耐久性はどうなのか、といった製品のサステナビリティやサーキュラーエコノミーに関する情報がDPPを通じて記録され、提供されることが求められことになります。

 これらの情報がDPP上で電子的に把握できるようになることでEUの環境基準に適合しない製品には、販売許可を与えなかったり、高い関税をかけるといったことが可能となり、リサイクルやリユース販売もその対象となると思われます。

 この、DPPは現在、法制化が進められています。その目的は、サステナブルな製造や製品管理、消費を促進することであり、サーキュラーエコノミーのデジタルプラットフォームを提供する一方、法遵守の監視を効率化させることであると思われます。DPPは、デジタルとサーキュラーエコノミーを結ぶ重要なプラットフォームと言えるのです。

 優先的にDPPを適用する対象品目としては、すでに先行して検討がはじまっている電池や電子機器、IT機器、繊維製品(衣類など)、家具などの完成品、および鉄鋼、セメント、化学薬品などの中間製品が考えられています。

【次ページ】法制化が進む「電池パスポート」

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