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  • 2022/10/05 掲載

ゲームエンジンが変える自動車産業、メタバースの「今そこにある価値」とは?

連載:根岸智幸のメタバースウォッチ

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メタバースという言葉が注目を集めている。まったく新しい理想郷との見方をする人もいれば、「第二のセカンドライフに過ぎない」と冷淡なまなざしを送る人もいる。こうした中、Unreal Engine Automotive Summit Japan 2022が開催され、メタバース作成ツールとも言える「Unreal Engine」の自動車分野での活用事例が数多く紹介された。筆者はその中でも自動車部品大手デンソーによる開発現場での応用事例に注目。メタバースがリアルの産業を「すでに大きく変えている」現状を紹介したい。

執筆:根岸 智幸

執筆:根岸 智幸

1963年生まれ。Webコンサルタント、プロデューサー、編集者、ライター、エンジニア。90年代のIT雑誌を皮切りにWebクチコミサイト、SNS、電子書籍出版システム、ニュースメディアのグロースなどで、時代を先取りしてきた。

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世界中から1000万人以上が同時接続して遊ぶオンラインゲーム「フォートナイト」を支えるのがゲームエンジン「Unreal Engine」だ

ゲームエンジンがリアル産業を変える

 Unreal EngineはEpic Games(エピックゲームズ)が提供する「ゲームエンジン」と言われる3D制作プラットフォームだ。その名の通り、もともとは3Dゲームを開発するためのものだった。

 同社のオンラインゲーム「フォートナイト」は世界中から1000万人以上が同時接続して遊ぶマルチユーザーゲームで、VRヘッドセットにこそ対応していないが、PCやスマホを使っていわゆるメタバース的な体験ができる。そのフォートナイトを作るための開発環境がUnreal Engineである。

 Unreal Engineで生成した3D空間の中にCGで作った物体を配置し、現実世界と同様に動作させられる。自動車のような乗り物やそれを操作する人間を、実際に存在するかのように3D空間で動かすことができる。

 つまり、Unreal Engineを使えば手軽に現実のシミュレーションが行えるのだ。従来は非常に高価なソフトウェアと長い時間を必要とした作業が短時間で実現できる。この特徴を活かして非ゲーム分野でのUnreal Engineの利用が進みつつある。

 その先端分野のひとつが自動車関連産業だ。

自動車産業で進むメタバース活用

 自動車分野におけるUnreal Engineの利用範囲は広い。製品やHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス=操作系)をアイデアに基づいて試作する代わりにCGで作って使い勝手を評価することや、企画やプロモーション用の静止画や動画の作成などが行われている。

 今回の発表で特に印象深かったのは、デンソーによる自動運転や高度運転支援システムの開発におけるUnreal Engineの利用と、平プロモートによるトヨタ向けのVR車両整備トレーニング教材(XR Lerning)だった。

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平プロモートによるVR車両整備教材。実際の車両と同じリアルな整備体験ができる

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テスタで電圧を調べるなどして故障の原因が探すが、単純な検査では解決できないようになっている

 特にデンソーの発表は、Unreal Engineによって作られた仮想環境を使って自動運転や高度運転支援に必要な機械学習を高速化させるという、最先端技術を組み合わせたものだ。今回はこのデンソーの例を中心に紹介する。

デンソーが仮想環境を活用する自動運転の3分野

 デンソーではAD(=AutomatedDriving:自動運転)やADAS(=AdvancedDriverAssistanceSystem:高度運転支援システム)の開発にCGによる仮想環境を利用している。ここでは便宜上、ADとADASを合わせて「自動運転」と表記する。

 人命を預かる自動運転は品質(信頼性)が非常に重要で、その品質を効率良く保つ手段としてUnreal Engineを活用しているという。今回は、(1)システム検証、(2)センシング機能開発、(3)HMI機能開発の3分野の利用例が紹介された。

 1つ目の「システム検証」は、自動運転システム全体を検証する走行試験のことだ。

 自動運転のテストには膨大な評価シナリオのバリエーションがある。他車や歩行者と自車の位置関係、自車の速度や加速度、走行レーンの違い、時間帯や天候、測定用センサーの取り付け位置の違いなど、多数のパラメータの組みあわせは沢山ある。すべてを実車走行でテストをすると膨大な手間と時間がかかってしまう。

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実環境でテストとする前に仮想環境でテストして問題を洗い出すことで、テスト全体を効率化する
(出典:デンソー提供資料)

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仮想環境では走行環境(道路など)とカメラやミリ波レーダーなどセンサ類をモデル化して使用する
(出典:デンソー提供資料)

 仮想環境での試験はテスト車両や施設の数に左右されないので、短期間に数多くのテストを行える。それによって問題点を洗い出した後に実車試験を行うことで、品質を効率良く保つことに役立てたという。

 具体例として「自動バレー駐車」が紹介された。バレー駐車とは、海外でよくあるクルマをスタッフにキーごと預けて駐車場への出し入れを任せるシステムだ。荷物を抱えて駐車場まで歩く必要がないので便利だが、日本ではほとんど普及していない。

 これをITによる自動運転で実現するのが自動バレー駐車である。クルマから降りてスマホのアプリで操作し、無人の自動運転で駐車場の出し入れをする。

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アプリを使ったバレー駐車の実現のためには自車位置を正確に把握する必要がある
(出典:デンソー提供資料)

 仮想空間で試験を行うため、実在する駐車場のCADデータを使ってUnreal Engine上で駐車場を再現。実車に搭載されている各種センサーもUnreal Engine上でモデル化して仮想環境でのテストを行った。

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実在する駐車場と車載カメラをモデル化した仮想環境を活用することで実車実験の手戻りを削減した
(出典:デンソー提供資料)


【次ページ】走行時のAIを仮想環境で深層学習

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