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  • 2022/11/25 掲載

【単独】ナイアンティックに聞く「リアルメタバース」戦略、現実世界をどう拡張する?

連載:根岸智幸のメタバースウォッチ

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ポケモンGOで知られる米ナイアンティック CEO ジョン・ハンケ氏が「メタバースはディストピアの悪夢です。より良い現実の構築に焦点を当てましょう」と呼びかけたのが2021年8月。それからおよそ9カ月後の2022年5月、同社のAR開発キット向けに、現実世界を拡張するうえで欠かせないVPS(ビジュアル・ポジショニング・システム)をリリースした。同社が掲げる「リアルメタバース」とはいかなるものか。エンジニアリング担当上級副社長であるYuji Higaki氏と、CPO(最高プロダクト責任者)の河合敬一氏がビジネス+ITの単独インタビューに応じた。現在、開発中のARグラスの開発にも言及した。

執筆:根岸 智幸

執筆:根岸 智幸

1963年生まれ。Webコンサルタント、プロデューサー、編集者、ライター、エンジニア。90年代のIT雑誌を皮切りにWebクチコミサイト、SNS、電子書籍出版システム、ニュースメディアのグロースなどで、時代を先取りしてきた。

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Niantic inc. エンジニアリング担当上級副社長 Yuji Higaki氏(左)と
Niantic日本法人CPO(最高プロダクト責任者) 河合敬一氏(右)

現実世界をメタバースで拡張する

 米ナイアンティックは、2021年に「Lightship ARDK」(AR開発キット)をリリースした。これは誰でも手軽にAR(拡張現実)ゲームやアプリを作成できるソフトウェアライブラリ群だ。

 Lightship ARDKを使うと、スマホのカメラで捉えた映像をリアルタイムで分析し、映っている空や建物、机や椅子などの3Dオブジェクトとしての形状と位置を認識するだけでなく、意味までも認識する。

 そこにCGのキャラクターやアイテムを表示することで、現実空間を3Dゲーム空間のように変えてしまう。

 初期のARは単に実写映像に3Dオブジェクトがそこにあるかのように表示するだけだったが、Lightship ARDKを使えば3D CGのボールが現実の地面を弾んだり壁に当たって跳ね返ったりする。現実世界をCGで拡張してメタバース化する。これが、ナイアンティックが提唱するリアルメタバースだ。

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現実を理解し、その上に3D CGを重ね合わせてメタバース化するナイアンティックのリアルメタバース技術をわかりやすく表したGIFアニメーション

 2022年5月にはリアルメタバースの実現に欠かせないVPS(ビジュアル・ポジショニング・システム)が、9月には開発参入のハードルを下げる「Lightship VPS for Web」がリリースされた。

 今回、ナイアンティックのエンジニアリング担当上級副社長であるYuji Higaki氏と、CPO(最高プロダクト責任者)の河合敬一氏にナイアンティックのARによるリアルメタバースが社会やビジネスをどう変えつつあるのかを聞いた。


実在するランドマークを3D地図に取り込む

※Higaki氏は日系人だが日本語がNGで河合氏に通訳を兼ねていただいた。そのためお二人の発言を明確に分けるのが難しい部分があり、今回は二人の意見を合わせてナイアンティックの発言として掲載させていただく。

──2021年8月にジョン・ハンケCEOが「リアルメタバース」というものを宣言しました。VR(バーチャル・リアリティ:仮想現実)に対するAR(オーギュメント・リアリティ:拡張現実)、バーチャルのメタバースに対する、リアルメタバースというのを定義しました。

ナイアンティック:私たちが実現しようとしているのは、この現実の世界の上にもうひとつのレイヤーというか世界を重ねることです。VRが目指しているのは新しい世界を別に作ってみんなでそこに行くこと。ナイアンティックが目指しているのは、現実世界はもうあるので、その上に意味や価値を足すこと。バーチャルのメタバースとはアプローチが違うのです。

──今回発表されたVPSとはどのようなものなのでしょうか? また、VPSはリアルメタバースにとってどんな意味があるのでしょうか?

ナイアンティック:まず、街中の建物やオブジェをカメラで撮ります。そうすると、3Dの形状がコンピューターの中に再現されて、これが三次元の地図に登録されます。この3D地図を使うと、他の人がその場所に来て登録された建物やオブジェなどを見上げたときに、どの方向から見ているのかをアプリが判別できるのでARの表現がしやすくなります。

 そういった建物やオブジェが世界中に登録されたナイアンティックの地図を使うことで、たとえば、実在するある像の肩にアプリを使って架空の3Dオブジェクトを置いたら、そのアプリの中ではどこから見ても、誰が見ても、そこにオブジェクトがあることが判るようになる。それがVPSです。

 このVPSは、リアルメタバースを実現するのにとても大事なひとつの道具になってくると思っています。

──ポケモンGOの地図の中に置かれたポケストップ(アイテムの補給地点。実在するランドマークに設定されている)のようなものですか?

ナイアンティック:ちょっと違います。これには位置だけでなく、実際の形状や見え方もVPSの中に登録されます。ポケモンGOやイングレスでは、プレイヤーが実行するゲーム内の報酬付きタスクとして、実在する銅像やランドマークの周りをグルっと一周撮ることをお願いしています。そのデータがナイアンティックの3D地図に登録されます。なぜこんなことをしているかというと、歩いて使っていただくARアプリを作っていただきたいからです。

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VPS登録のイメージ。実在する銅像などを、周囲をグルっと360度回ってスキャンした素材を元に3Dオブジェクト化して位置情報と合わせて地図に登録する

 クルマからの撮影だと公園の中に入れないけれど、本当に面白いモノ(銅像、アート、遊具、建物など)はそういうところにあったりします。今までは、航空写真か道路から流し撮りするくらいしかなかったものを、良いアングルで、人が使うのに適した角度で撮れます。これを使えばより面白いAR体験が作れるよねというのが、ナイアンティックが考えていることで、それが他と違う特色、違いということになります。

──VPSは衛星から現在位置を特定するGPSを補完するものなのでしょうか?

ナイアンティック:補完するという意味もありますが、人が携帯電話を持って街を歩くためのAR技術を作ろうと思うと、撮影対象から離れて撮ったものよりも、実際に使う場所で撮ったもののほうがうまく動くのですよね。人が人のために使うモノは、その場で撮ったほうが良い。

──VPSは日本中どこでも使えるのでしょうか?

ナイアンティック:発表したときはまだ少なかったのですが、そこからどんどん拡大して日本の政令指定都市の大半で利用できるようになりました。面で塗りつぶすように「どこでも」ではないのですが、主要都市の主要地点はだいたいカバーできています。現在、1個でも登録されたランドマークがある県も含めると45都道府県をカバーしています。さらに開発者が自分でランドマークを登録することもできるようになりました。

【次ページ】実在する建築物や像をARで弄ることができる

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