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  • 2023/06/07 掲載

「デジタル時代の銀行破綻」3つの特徴、「負の連鎖」止まらず1日400億ドル流出したワケ

FINOLABコラム

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シリコンバレーバンクに始まった銀行破綻の連鎖はいったん落ち着いたように見え、米国の金融当局も金融システムの安定性は揺らいでないという説明を行っているが、はたしてその通りであろうか?ここまでの破綻状況と米当局による検証を整理するとともに、デジタル化に対応して従来の銀行破綻と異なる点、そして米銀の置かれた状況をみつつ、今後について考えてみたい。

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

執筆:FINOLAB Head of FINOLAB 柴田 誠

FINOLAB設立とともに所長に就任。東大経済学部卒、東京銀行入行、池袋支店、オックスフォード大学留学(開発経済学修士取得)、経理部、名古屋支店、企画部を経て1998年より一貫して金融IT関連調査に従事。2018年三菱UFJ銀行からMUFGのイノベーション推進を担うJDDに移り、オックスフォード大学の客員研究員として渡英。日本のフィンテックコミュニティ育成に黎明期より関与、FINOVATORS創設にも参加。

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デジタル時代の米銀破綻と今後の見通し
(Photo:ThomasAFink/Shutterstock.com)

2023年に米国で発生した銀行破綻

 2023年3月10日のシリコンバレーバンクにはじまる3件の銀行破綻の概要は以下のとおりである。それ以前に最大だった銀行破綻がリーマンショック(2008年)の際に発生したワシントン・ミューチュアルで資産規模が3,070憶ドルであったことを考えると、3件を合計するとそれを上回る規模(約5,320億ドル)となっていることがわかる。

銀行名
(本拠地)
破綻日 資産規模
(億ドル)
破綻の経緯
シリコンバレーバンク
Silicon Valley Bank:SVB

(カリフォルニア州)
3/10 2,090 コロナ禍以降の金融緩和によって資金調達を拡大させたベンチャー企業の預金を獲得して資産規模を拡大、米国債や住宅債券などで運用していたが、金融引き締めとともに債券価格が下落、信用不安がささやかれる中で債券売却と株式による資金調達の計画を発表するも、かえってシリコンバレー投資家層の不安をあおり預金流出が加速したことによって破綻、FDICによる入札の結果、ファーストシチズンズバンクに吸収されることになった。
シグネチャーバンク
Signature Bank:SBNY

(ニューヨーク州)
3/12 1,104 主に暗号資産関連企業との法人取引が中心で、コロナ禍以降の金融緩和によって大量のマネーが流入、同行の2022年末の資産残高は2019年末と比べて2倍以上に拡大。しかし、金融引き締めにともない資金が暗号資産から引き上げられ、関連企業の経営悪化の影響を受け、預金引き出しが相次ぎ、流動性が急速に悪化したことから、破綻、ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYBC)が引き受け、子会社のフラグスターバンクに吸収されることになった。
ファーストリパブリックバンク
First Republic Bank:FRC

(カリフォルニア州)
5/1 2,126 富裕層取引に強みを持つ同行は、SVBと同様に非付保預金が全体に占める割合が高く、SVB破綻後に預金流出が目立つようになった。救済措置として米銀大手11行がFRCに対して計300億ドルの預金を注入したが、流出を食い止めることができず、ついに破綻、JPモルガン・チェースがFDICの実施した緊急入札で落札。
注:米国ではJPモルガン・チェースのように全米預金シェア10%を超える銀行が他行を買収することが禁止されているが、FRCについては、政府からの緊急要請ということもあり、特例措置が適用された模様。

当局は「2つの銀行経営破綻」をどのように検証した?

 米国連邦準備制度理事会(FRB)は4月28日、シリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻について検証したレポートを公表している。破綻に至るプロセスとその間の規制当局とのやり取りも含めて詳細が記載されたレポートの報告内容は100ページ以上に及び、経営破綻の原因を大きく2つの面から説明している。

 最初のポイントは同行のリスク管理の甘さである。コロナ禍による金融緩和およびベンチャー企業の資金調達が拡大する中で、同行が預金を積み上げたことによって資産規模は急速に拡大したが、流動性の確保と金利変動リスクによる財務健全性のバランスを見誤り、経営陣はリスク管理に失敗したと断定している。

 次にFRBの監督管理体制の不備に言及している。SVBが規模を拡大して構造を複雑化させる中で、FRBは同行の脆弱(ぜいじゃく)性を十分に理解しておらず、脆弱性を認識した後でも、これらの問題を迅速に修正するための十分な措置を講じなかったとしている。また、FRB内の人員体制も不十分で、1人の審査官が2~3週間の間に投資ポートフォリオ、流動性、リスクマネジメントの審査を受け持つこともあったという。

 FRBは「SVB破綻の教訓をもとに、監督と規制を強化しなければならない」として、ストレステストや流動性要件などについて、資産規模が1,000億ドルを超える銀行に対する規制の再評価や、満期保有目的債券や売却可能債券の未実現損益の会計処理上の見直しを行う方針を表明している。

 連邦預金保険公社(FDIC)も同じ4月28日にシグネチャーバンク(SBNY)の経営破綻について検証したレポートを公表している。

 62ページにわたる同報告書においても、まずは、リスク管理に問題があった点に言及している。暗号資産関連ビジネスの比重を拡大させて反動により資金流出が起こったことに加え、調達と運用のバランスを見誤った経営陣に問題があったものとしている。

 同時に、急速な状況変化が発生する中で、FDICの監督管理体制が充分でなかった点も指摘し、FDICが審査に十分な人員を割くことができず、審査の適時性と質に影響を及ぼしたと述べている。

 このように、それぞれの経営陣の怠慢を指摘すると同時に、それぞれの監督にも問題があった点を金融規制当局が詳細に分析して公開している点は注目される。特に、情報技術の進化によって、金融機関のおかれている状況が変化している点も見落とすことはできない。

画像
SVBの検証レポート(左)とSBNYの検証レポート(右)
【次ページ】1日400億ドル流出、「デジタル時代の銀行破綻」3つの特徴とは?

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