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  • 2019/09/17 掲載

「好きなことを仕事にしなければならない」という“残酷な現実”に直面している理由

連載:橘 玲のデジタル生存戦略(1)

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金融分野に精通し、活発に提言を続ける作家の目に、今、そしてこれからの世界はどのように映っているか。金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー、お金にまつわる数々のベストセラーを持つ橘玲氏によると、これからは「“好き”を仕事にするしかない残酷な現実が待ち受けている」という。好きなことを仕事にできるのは幸せなことのはずだが、なぜそれが残酷なのか。8月には最新作『上級国民/下級国民』(小学館)を上梓した橘氏に、金融の現在や超高齢化社会が進む中での人生戦略、資産形成などについて聞いた。

作家 橘 玲

作家 橘 玲

2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部を超えるベストセラーに。06年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。

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65歳から年収300万円で15年働けば4500万円だ
(Photo/Getty Images)

金融庁2,000万円問題とは何だったのか

 2019年6月、金融庁が老後に備えて2000万円の金融資産必要だという趣旨の報告書を発表し、大きな話題になりました。この報告書が注目を集めたのは、国民がこれまで漠然として抱いていた不安が、はっきりと目の前に現れたからだと思います。

「人生100年時代」では、60歳で定年して100歳まで生きるのですから、退職後の人生は40年もあります。40年というのは、20歳の人が60歳になるまでと同じ長さです。こんなに長い「老後」を本当に年金だけで安心して暮らしていけるのか、誰もがひそかに不安を感じていたでしょう。そこに初めて「2,000万円ないとふつうの暮らしはできません」といわれ、「やっぱり本当だった」となったわけです。

 金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」(2018年)によると、70歳以上で2,000万円の金融資産を持っている人はだいたい3割です。それに対し、金融資産をまったく持っていない人も3割います。日本の高齢者は、資産2,000万円超の人が3割、金融資産ゼロの人も3割という、U字型の分布になっているのです。

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金融資産の年齢別分布図

 これは、高齢者の7割が資産2000万円に達していないということでもあります。その「多数派(マジョリティ)」が、「自分たちは生きていけないというのか」とパニックに陥った。これが大騒ぎになった理由でしょう。

“好き”を仕事にするしかないという残酷な現実

「老後問題」の本質は、「老後が長すぎること」にあります。これを解決するもっともシンプルな方法は、「老後を短くする」ことです。

 たとえば今50歳で、高校生くらいの子どもがいて、住宅ローンを返している状態だとしたら、貯金はほとんどできません。そんな人に「60歳の時点で2,000万円の金融資産が必要です」と言っても、どうしていいかわからないでしょう。

 だとすれば、60歳以降も働けばいいのです。「人生100年」として80歳まで働けば、そのぶんだけ生涯収入が増え、40年あった「老後」が20年に縮まります。これだけで老後の経済状況はまったく違うものになるでしょう。

 このように考えて、2010年の『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』で、“好きを仕事にするしかない”と書きました。

 これに対して、「そんな甘い話があるわけがない」というたくさんのご批判をいただきました。たしかに、好きなことを仕事にできれば、それに越したことはないと誰もが思うでしょう。同時に、好きなことでは食べていけない現実も知っているはずです。

 しかし、これからの「生涯現役」社会では、誰もが20歳から80歳まで60年間働かなければならなくなります。日本人は「置かれた場所で咲きなさい」が好きですが、“石の上にも3年”ならぬ、“石の上に60年”なんて耐えられるわけがありません。そう考えれば、重要なのは、「好き」をマネタイズする戦略をもつことです。もちろん、すべての人ができるわけではないでしょう。だから、「残酷な世界」なのです。

65歳から年収300万円で15年働けば4500万円

 改めて話を整理しましょう。豊かさを「生涯の世帯収入を最大化すること」と定義するならば、そのための方法は大きく3つしかありません。

 1つは、いま稼いでいる金額を増やすことです。年収300万円から500万円、1000万円へと、「稼げる自分」になれば富は増えていくでしょう。

 2つ目は、働く期間を延ばすことです。平均年収を500万円として、40年働けば生涯収入は2億円ですが、60年なら3億円です。

 3つ目は、世帯内の働き手を増やすことです。年収500万円の夫が収入を100万円増やすのはかなり大変ですが、妻が月10万円のパートで働けばかんたんに達成できます。

 ところが、多くの人が考えるのは1番目の方法だけです。これが自己啓発が人気の理由で、「もっと稼げる自分になる」ことができれば達成感も得られますから素晴らしい話ですが、うまくいくかどうかはやってみなければわかりません。それに対して、2番目と3番目の方法はやれば確実に効果があります。

 どんなに自己啓発にお金をかけたところで、実際に稼げるようになるかどうかはわかりません。だとすれば、豊かになるために真っ先に考えるべきは「長く働く」と「一緒に働く」でしょう。

【次ページ】あと10年もしたら日本に専業主婦はいなくなる

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