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  • 2019/11/22 掲載

「これまでの経験は通用しない」地銀支店長は考え方をどう変えたのか

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ペーパーレスや印鑑レス、省人化など、デジタル技術を活用した革新的な店舗として誕生した伊予銀行 松山北支店。初代支店長・矢野 一成氏は前編で“苦情の嵐”だった苦しい時期を振り返った。後編では、同氏が考える支店長のあり方を語った。これまでの経験が通用しなくなる時代、いかに銀行が生き残る道を探っていくのか。『ザ・ネクストバンカー 次世代の銀行員のかたち』(講談社)を著した浪川 攻氏が聞いた。

金融ジャーナリスト 浪川 攻

金融ジャーナリスト 浪川 攻

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカーを経て、金融専門誌、証券業界紙、月刊誌で記者として活躍。東洋経済新報社の契約記者を経て、2016年4月、フリーに。「金融自壊」(東洋経済新報社)など著書多数。

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本部からの無理難題に対して、支店長はどうあるべきか(写真はイメージです)
(Photo/Getty Images)

前編はこちら(※この記事は後編です)


支店長は“ちょっとポンコツ”ぐらいでいい

 いま、松山北支店はBPRの効果を発揮し、それから捻出される余力が顧客サービスの向上へと向かっている。ロビーでの職員たちが絶えず笑みを浮かべていることでそのムードは察知できる。いわば、伊予銀行の将来を決するパイロットは順調な飛行を描き始めていると言える。その指揮官、矢野 一茂氏に新時代を切り拓く支店長の条件を聞いてみると、ちょっと意外な答えが返ってきた。

「“ちょっとポンコツ”ぐらいがいいですかね。従来型のやり方であれば、優秀な人がその経験値に基づいて『これをやりなさい』と言えばいいのだけど、これから新しいことが起きる中では、みんなの力を借りないと絶対に実現できない。経験値が生きない課題が出てくるので、つまり、ポンコツぐらいで『ごめん。わからないから、みんな、何かアイデアないかい?』とか『みんなでちょっと考えてみよう』と。そうでないと物事が解決していかないわけです」

 自虐的にも聞こえるかもしれない言い方だが、トワイライトゾーンに突入した指揮官としては、その空間を突き抜ける強い意志さえあればよい、という深みのある発言でもある。

「これまでは“お客さまに好かれるのが支店長の仕事である”という考え方で数店の支店長をやってきましたが、ここに来て状況はガラリと変わりました。効率化、生産性を追求しながら、新しい価値提供という両輪で取り組んでいる。そのつもりなのですが、ひょっとすると、『ただのコスト削減だろう』と見限られる危険性があります。そうならないためには、とことん、やりきるしかない。そのためには支店長などはもう嫌われても仕方がない。とことんやっている職員たちを守るためにはなおさら嫌われ役になるしかない。『支店長がこういう方針なので』という余地を職員たちに 残しておかないといけない。職員はお客さまに2時間も叱られているのだから。とにかく、私としては、『私の責任でこれをやっております』ということです」

「つまり、支店長と本部の経験値だけでは、もはや乗り切れない時代なのです。したがって、私は、みんなの意見をよく聞くように心掛けています」

本部の言い分をすべて聞いたら支店業務は回らない

 これは本部に対する構え方にも通じる。

「私自身に本部経験があるので、本部に対してはとても厳しいです。本部が言ってきたことをすべてやっていると、支店業務は回りません。だから、部下を守るためには、本部と戦うしかない。本部は前例踏襲型です。そんな時代ではないし、そんなことでは支店は回らない。とにかく、支店を守り、部下を守るためにやってきたという自負はあります」

 銀行の営業店で働く若手職員たちと会話すると、しばしば、「なぜ、支店長は本部からの無理難題をはね返してくれないのか」という訴えを聞くことがある。まさに、矢野氏ははね返す支店長なのだ。

「常に経営者は理想論を語ります。しかし、その一方で、現場は大変な現実と向き合っている。この2つには溝があり、そこをブリッジして優先順位をつけたり調整したりするのが本部の役割でした。少なくとも私が本部にいた頃には、当時の部長、課長からそう教えられていました。ところが、いま、本部は経営と同体。これでは経営者を守ることにもならないし、現場を守ることにもなりません。誰かが矢面に立ってあげないと、現場の行員たちは疲弊していくだけです」

 どうだろうか。これが支店長の気概というものだろう。このような人物だからこそ、いま、松山北支店は変わり、新たな回転を始めている。

「ロビーのアドバイザー担当、窓口のテラー、後方事務等々、全員とすべてやり直しの議論をしてきました。いまや、職員たちが『こうしましょう』と提案してきて、こちらから本部に『こうしますよ』というほどです。アイデアや意見があれば、すぐに私のもとに伝えられるように、私は支店長室のドアを開けっぱなしにしています」

 そうしたムードのなかで職員たちのメンタリティも変わってきたと言う。

「結束が強まってきました。それぞれが責任感を持って意見を出し、提案し、行動しています。ポンコツ支店長の下で、『やってみようやー』という感じです(笑)」

【次ページ】これまでの支店長経験は通用しない

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