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  • 2020/01/23 掲載

その政府統計、信用できますか?ヤミ統計の是非、白書使用の調査の回収率は3割未満

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2019年はわが国の行政が、情報・記録(広い意味でのエビデンス)をないがしろにしてきた姿が露呈された。政府では経済・社会の状況を把握するための基礎情報を作成しているが、それぞれに課題を抱えている。自らも情報を生産し、また情報を利用して意思決定する金融業にとって、その課題を理解することは大きな意義を持つ。公表情報を鵜呑みにすることなく深い洞察につなげられるよう、多岐にわたる課題の中から代表的な論点を取り上げる。

たくみ総合研究所 代表 鈴木卓実

たくみ総合研究所 代表 鈴木卓実

2003年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。日本銀行にて、産業調査、金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年、たくみ総合研究所を設立。エコノミスト、睡眠健康指導士として、経済や健康に関する個人指導やセミナー等を通じて情報を発信。ITmediaビジネスオンライン「ガンダム経済学」、楽天証券トウシル「数字でわかる。経済ことはじめ」、東洋経済オンライン「あの統計の裏側」を連載。TBSテレビ「ジョブチューン」、ビデオニュース・ドットコム「マル激トーク・オン・ディマンド」などに出演。既存組織に属さないフットワークを活かし、各種媒体の取材協力を行う。

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その「統計」が作られている背景を理解しているだろうか?
(Photo/Getty Images)


正確性に欠くGDP、税務データの利用は“悲願”だが…

 経済の構造や景気の現状を把握するためにさまざまな統計が作成されている。最も集約度が高い統計はGDP(国内総生産)であるが、基礎統計に税務データ(個人住民税データ、法人税収データ、申告所得データなど)を利用していない。

 そのため、日本のGDPは三面等価の生産側・支出側・分配側を独立して作成することができず、先に生産側・支出側を推計することで大枠を固め、その後に分配側の内訳である雇用者報酬や営業余剰などに割り振るという流れで間接的に推計している。

 「税務データを用いた分配側GDPの試算」(日本銀行ワーキングペーパーシリーズ)では、分配側GDPを税務データから直接推計しているが、現行のGDPとの隔たりは大きく、特に、前回、消費税が増税された2014年度においては、実質GDPの増減が逆方向となっているため、増税が景気に及ぼした影響の評価もおのずと異なる。

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推計方法による実質GDPの比較(赤が税務データから直接推計したもの)。現行値(青)とは大きな差がある
(出所:「税務データを用いた分配側GDPの試算」 日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、2016年)

 各種の経済統計がサンプル調査を基に作成される一方、税務データは全数であることと、統計調査に比べて回答者(申告者)の誤記入が少ないことが期待できる。特に、消費税の処理については、税務データの精度が明らかに高いだろう。

 統計精度の改善が期待できるにも関わらず、税務データがGDPの分配面の作成に利用されていないのは、縦割り行政の弊害によるものである。税は税、統計は統計という仕立てになっているため、税務データを利用するハードルは高く、速報性に欠ける。

 ほかの行政データにも共通する課題であるが、マイナンバーを統計に利用できず、個人情報保護条例を各自治体が独自に制定しているため、足並みがそろわない。日本には都道府県、市町村、特別区を合計すると約1,800の自治体があるので、たとえば、税務データと社会保険データを結び付けて分析するための調整コストは膨大なものになる。

 「経済財政運営と改革の基本方針2019について」(いわゆる骨太の方針)において、データの積極的活用に向けた公的統計の整備とEBPMの推進の項目で、「公的統計を所管する各府省庁及び総務省において、税務情報や不動産登記情報などの行政記録情報等の統計への二次的な活用の促進を検討する。」と記されている。

 税務データの利用は統計メーカー・ユーザーの双方の悲願とも言えるが、それだけ長年にわたって指摘され続けたのに進展していない問題でもある。

業務統計はおおむね精度が期待できる

 また、別の課題として“ヤミ統計”問題がある。

 政府が作成する統計は、統計法にそった基幹統計調査や一般統計調査のほかにも、業務で知りえた情報を集約した統計(いわゆる業務統計)や統計法の範囲外で行われた調査を基に作成された統計が存在する。

 基幹統計や一般統計を作成するための調査を行うためには、事前に総務省統計局のチェックが必要であり、調査対象や調査項目も練られたものになる。基幹統計を作成するために行われる調査(たとえば、国勢調査)については、回答義務が課されているし、一般統計を作成するために行われる調査についても、“公式に”行われる“公的な”調査であるため、一般的な企業のアンケートよりは高い回答率が期待できる。

 業務統計の多くは、法令や監督業務上の必要性から報告された情報に基づいているため、精度は高くなる。たとえば、金融庁が公表している「銀行の決算状況」や「偽造キャッシュカード等による被害発生等の状況」などは業務上の必要性から収集した個別金融機関の情報を集約した統計であり、全数かつ回答率は100%になる。

 精度が期待できないのは、統計法の範囲外で行われる調査を基に作成された統計だ。経済団体連合会「わが国官庁統計の課題と今後の進むべき方向」(1999年)では、こうした統計をヤミ統計として、「指定・承認・届出として総務庁(編集部注:現在の総務省)に連絡することなく、各省が独自に実施している統計のこと。これらの中には、白書の作成、国会への報告などが目的で行われている調査なども含まれている。」と解説している。

 しかるべき手続きを行わずに統計作成を目的に調査をすることは、統計法に違反する違法行為であるが、グレーなものからブラックなものまで、上記報告書が公表されてから20年たった今もさまざまな独自調査が行われている。

【次ページ】実際にあった結果のねじ曲げと忖度

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