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  • 2020/02/19 掲載

若者は「ゼネラリスト」を求める企業を辞めるべき、これだけの理由

連載:橘 玲のデジタル生存戦略(5)

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少子化や労働力不足の影響で若年層の失業率が低いのは救いだが、日本企業が日本的雇用習慣を墨守し、ゼネラリストしか養成してこなかった点は大いなる課題だ。作家 橘玲氏は、今やどの業界も仕事の高度化、IT化が進んでおり、もはやスペシャリストでなければ、仕事におけるグローバルな要求レベルを満たせなくなっていると訴える。若者はゼネラリストになることを求める企業を一刻も早く辞めて、スペシャリストを目指すべきという。さらにスペシャリストでないと出世できないとも。

作家 橘 玲

作家 橘 玲

2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部を超えるベストセラーに。06年『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。

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これからはスペシャリストでないと生き残れない
(Photo/Getty Images)

人間に幸福感を失わせる一番大きな要因は「失業」

 今の日本でほぼ唯一、欧米諸国より恵まれているのは若年層の失業率が低いことでしょう。これが若者の幸福感が高い理由で、何かしら仕事があって、生活ができるくらいの給料がもらえるなら「今の自分はそれなりに幸せ」と思えるのです。

 さまざまな調査で、幸福感を大きく毀損する要因が失業であることがわかっています。仕事をしているということは、会社の上司や同僚・部下、あるいは取引先や顧客との人間関係があり、他者から承認される機会があるということです。これを最近は「居場所がある」といいます。

 特に男性の場合、所属するコミュニティが会社しかないので、失業によってすべての人間関係が失われてしまいます。これが「社会的排除」で、それによって幸福度が大きく落ち込むという因果関係ははっきりしています。会社に行かなくなったら、話をする相手は買い物に出た先のコンビニ店員ぐらいというのが現実ですから。

 ただ問題は、日本の場合、雇用市場の流動性が極端に低いことで、とりわけ中高年はいったん会社を辞めると同条件での再就職が難しくなってしまいます。そのため会社にしがみつくことになり、これがパワハラやうつの温床になっています。

 最近では働かない中高年は「妖精さん(いるのかいないのかわらないの意)」と呼ばれるようですが、こんな社員が高給をもらっているようでは若手社員のやる気も失せるでしょう。日本の労働者は先進国でもっとも生産性が低く、米国の7割以下しかないという現実が最近ようやく広く知られるようになりましたが、その理由は「年功序列・終身雇用」の日本的な働き方がグローバル経済にまったく適応できなくなったからでしょう。いわば「妖精さん」の居場所を作るために、社会全体がとてつもないコストを払っているわけです。

 とはいえ、働き以上の給与を受け取っている「妖精さん」を自由に解雇できるようにすればいいとも単純には言えません。この人たちを解雇してしまうと生活保護の申請が急増して社会が大混乱してしまいますから。

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日本社会は「妖精さん」のために、高いコストを払わされている
(Photo/Getty Images)

スペシャリストを養成できない日本の組織は世界とは戦えない

 日本的雇用の最大の欠陥は、スペシャリストを養成できないことです。なぜスペシャリストが重要かというと、知識社会の高度化にともなって仕事の内容がどんどん複雑になっているからです。

 それにもかかわらず日本の会社では、いまだに新卒で採用した社員をさまざまな部署に異動させ、“会社仕様”の人材を養成しようとしています。これは、「会社を辞めればよそでは使えない」人材ということです。「ゼネラリストを養成する」といいますが、会社全体を統括できるゼネラリストは幹部候補でそもそもごく少数しか必要なく、グローバル企業では今や外部からプロの経営者・マネージャーを招聘するのが当然になっています。

 かつての銀行は預金を集めて貸し出すだけのシンプルな仕事でしたが、ウォール街の投資銀行には数学や物理学で博士号を取得した人材がたくさんいます。そんな相手からデリバティブ商品を説明され、確率偏微分方程式を紙に書かれたとしましょう。そこにいる日本の銀行のビジネスパーソンはついこの間までどこかの支店で営業をしていた法学部卒の学士です。これではとても太刀打ちできません。

 結局、いいようにぼったくられるのがオチで、日本の銀行や証券会社が海外の金融機関を買収するとたいてい大損する繰り返しです。

 このことは金融庁も気づいていて、日本の金融機関に「プロフェッショナルを養成しろ」と言っているそうですが、先日、その金融庁を辞めて民間企業に転職した人と話をする機会がありました。彼によると、銀行に対しては「人事をぐるぐる回すからスペシャリストが育たないんだ」と指導しているにもかかわらず、「そろそろ他の部署も体験してくれ」と人事からいわれたそうです。当の金融庁が、お役所人事で専門職のスタッフをぐるぐる回している(笑)。

 その人はスペシャリストを志向していたので、今さら他の部門に行っても自分のキャリアに何の足しにもならないと考えて転職を決めたそうですが、そうしたら「何年か民間を体験したら戻ってきてほしい」といわれたそうです。金融庁もこんな人事をやっていたらスペシャリストが育たないのはわかっていて、それでもこれまでの慣例を変えられないから、いったん退職した人材を呼び戻して専門性を確保しようとしているんですね。

 これは霞が関だけの話ではなく、役所も企業も日本の組織全体がゼネラリスト養成システムなっているため、スペシャリストは外から呼んでくるしかありません。パナソニックも、グーグル本社で幹部を務めた女性を役員待遇で招聘しましたよね。

【次ページ】会社に滅私奉公していても社長や役員は外部から招聘

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