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  • 2021/05/28 掲載

金融ジェロントロジーとは?高齢者の資産を適切に管理・運用する学問のポイント

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金融ジェロントロジーとは、高齢者の資産を適切に管理・運用することを目指す学問である。高齢者が社会で増加したことをきっかけに、金融庁や慶応義塾大学をはじめとして、多くの機関が金融ジェロントロジーの重要性を認知するに至っている。金融機関で働く者には、金融ジェロントロジーを取り入れた対応を実施することが求められるだろう。今回は、金融ジェロントロジーについて解説する。

執筆:鈴木 裕太、編集:しらいはるか

執筆:鈴木 裕太、編集:しらいはるか

鈴木 裕太
横浜国立大学在学中に中小企業診断士を取得(現在は休止中)。Webメディアの立ち上げ〜売却に携わり、SEO対策をはじめとしたWebマーケティングを幅広く経験。現在はビジネスの分野に特化したライター業と、他社のメディアサイトの立ち上げ支援を行っている。また、情報サイトの運営も行っており、会社経営に役立つ知識・ノウハウを伝えることにも力を入れている。

しらいはるか
エディター・ディレクター。心理学系大学院修了。公務を経てライターとしてキャリアをスタート。「医療」「金融」「ビジネス」の3分野をメインに執筆。ブックライティングやコピーライティングも手掛ける。2018年よりエディター・ディレクターにシフト。現在は主にサイト運営やメディア管理を行う。

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金融分野における高齢者の問題が増えている
(Photo/Getty Images)



金融ジェロントロジーとは何か?

 そもそもジェロントロジー(Gerontology)という用語は、和訳すると「老年学」という意味を表す。老年学とは、「高齢社会で社会や個人が抱えるあらゆる問題を解決すること」を目的とした新しい研究領域である。

 今回解説する金融ジェロントロジーは、金融の分野に絞って高齢者が抱える課題を解決しようとする学問のことだ。具体的には、高齢者の資産を適切に管理・運用することを目的とした研究領域である。

 金融ジェロントロジーの研究では、高齢化による認知能力の変化によって、「投資のスタイルや行動にどういった影響が生じるか」などの分析が必要だ。それにより、平均寿命と資産寿命の差を縮めることを目指す点が特徴である。


・金融ジェロントロジーが注目される背景
 金融ジェロントロジーが注目される背景にあるのは、日本で急速に進んでいる高齢化だ。内閣府のデータによると、1980年代まで日本の高齢化率は先進諸国の中では下位であったものの、2005年以降は先進諸国で最高の水準となっている。2025年には、高齢化率が30%を超えるとの予想もあり、日本では今後さらに高齢化が加速していく可能性が高い。

 高齢化が進むにつれて金融分野で危惧されるのが、認知機能の低下により金融取引を円滑に行えない高齢者が増加することだ。正常な判断が難しくなることで、生活に必要な蓄えを使ってしまうなどの事態が考えられる。

 以上の理由から、金融ジェロントロジーの知見を取り入れた金融サービスの重要性が高まっているわけだ。2016年に慶應義塾大学が日本で初となる金融ジェロントロジーの専門機関「ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター」を創設した。さらに、近年は民間の金融機関も積極的に金融ジェロントロジーを取り入れたサービスの開発・提供に努めている。

・金融庁も金融ジェロントロジーに注目している
 金融庁が2019年に公表した「高齢社会における金融サービスの方向性」という資料で金融ジェロントロジーを取り上げたことも、金融ジェロントロジーの注目度が高まった理由の一つといえるだろう。この資料では、顧客を「現役期」「リタイア期前後」「高齢期」という3つに分けて、顧客の特徴と金融サービスを提供する企業が行うべき対応を示している。

 高齢期の顧客に関して挙げられている特徴は、「心身の衰えに伴い介護のニーズが増大する」「認知能力が低下・喪失する」といった2点だ。そこで、金融サービスを提供する企業に対して、「高齢期にある顧客の認知能力が衰えた後でも、可能な限り以前と同じように金融サービスを享受できる環境作りを行うこと」を要求している。

 つまり、環境を作るための手段の一環として、金融ジェロントロジーを取り入れるということになる。

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高齢期の顧客には特有の特徴がある
(Photo/Getty Images)

金融ジェロントロジーの発展で期待できることとは?

 では、一体金融ジェロントロジーが発展することで、資産を運用する顧客側はどのようなメリットを享受できるのだろうか?具体的に期待できる主なメリットは2つある。

1.認知能力が低下した状態でも適切に資産を運用・保護できる
 1つ目のメリットは、認知能力が低下した状態でも適切に資産の運用・保護ができる点だ。現状の金融サービスは、顧客ごとの認知能力を考慮せずにサービスを提供している。そのため、例えば認知機能が低下している顧客に対して、価格変動が大きく運用が難しい商品を提案するなどの事態が生じかねない。

 また、電話応対や商品の提案がわかりにくく、顧客が十分に商品の性質を理解しないまま「お金を投資する」といった事態もあり得るだろう。しかし、金融ジェロントロジーをサービスに取り入れれば、顧客一人ひとりの認知能力に合わせて、商品を提案したり資産を運用したりすることが可能だ。

 具体的には、リスクの低い商品を提案したり、理解しやすい説明を心がけたりすることが期待できる。そのため、認知能力が低下した顧客でも、「自身の希望に応じたサービスを受けられる」「年齢や資産状況に応じた資産の運用・管理ができる」といったことが可能だ。

2.資産寿命が伸びることで満足いく老後を過ごせる
 金融ジェロントロジーで期待できる2つ目のメリットは、資産寿命の延長による満足いく老後の実現である。資産寿命とは、老後生活において資産がなくなるまでの期間のことだ。医療の進歩によって、人間の平均寿命は緩やかな上昇傾向を見せている。「人生100年時代」とも言われるほど寿命が伸び続けているのが現状だ。

 そのため、金融の業界では資産寿命を伸ばすことが不可欠の課題となっている。資産寿命を意識せずに生活していると、亡くなる前に資金が底をつきてしまい、金銭的に苦しい生活を余儀なくされてしまうおそれもあるのだ。

 一方で、金融ジェロントロジーの知見を取り入れたサービスが普及すれば、顧客は自身の寿命に合わせて資産寿命を伸ばすことが期待できる。資産寿命を伸ばすことで、生きている間に資金がつきる事態を回避できるわけだ。また、計画的に資金を運用・使っていくことで、満足いく老後を過ごせるだろう。

【次ページ】金融ジェロントロジーに関連した研究分野と資格

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