• 2024/01/12 掲載

日産やモスバーガーも活用、なぜ大企業がVRChatを使うのか? クリエイター経済との意外な接点

連載:根岸智幸のメタバースウォッチ

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VR(仮想現実)空間でチャットやゲームを楽しめる「VRChat」の国内利用が広がってきた。国内有名企業の利用も増え、3Dモデル制作者のクリエイター経済も数十億円規模に拡大している。VRChatと公式パートナーシップを結び、企業から案件を受注してワールドを構築する制作会社も増えてきた。今回は、日産自動車、京セラなどVRChatの企業案件を2021年から手がけている往来(株式会社往来)の東智美社長にVRChatの過去・現在・未来を聞いた。

執筆:根岸 智幸

執筆:根岸 智幸

1963年生まれ。Webコンサルタント、プロデューサー、編集者、ライター、エンジニア。90年代のIT雑誌を皮切りにWebクチコミサイト、SNS、電子書籍出版システム、ニュースメディアのグロースなどで、時代を先取りしてきた。

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なぜVRChatを利用する人が増えているのか?
(出典:VRChat内のモスバーガー・日産の店舗を筆者撮影)

今、VRChatに注目すべき理由

 VRChatは米国VRChat Inc.が2017年から開発・運営しているVR型のSNSだ。誰でも無料でゲームやイベントを楽しんだり雑談したりできる。2022年時点で340万人、日本国内だけで30数万人の利用者がいるとされ、ユーザーが作った3Dで構築されたワールドが10万近くあるとされる。11月には待望のVRChat内の公式課金システムがアナウンスされ、ワールドの作者が訪問者に課金できる仕組みが整備された。

 企業での利用も広がりを見せている。サンリオは2021年12月に2日間のVR音楽フェス「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」を有料開催し、その会場のひとつとしてVRChatを使用した。2024年は2月24日から3月10日にかけて計6日のライブパフォーマンスを行う。2023年12月には『プリキュアバーチャルワールド』が開催され、ミュージックステージやバーチャルキャラクターショーが行われた。サンリオとプリキュアのVRChatイベントを制作したのはgugenkaだ。

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「SANRIO Virtual Festival 2024 in Sanrio Puroland」は2024年2月19日から3月17日までVRChatのほか、SPWN、YouTube、REALITY、ZEPETOでも開催され、パレードなどは無料でも見ることができる
(出典:サンリオ)

 HIKKYが年数回開催している「バーチャルマーケット」の企業ワールドも規模を拡大しており、2023年12月の開催では、高島屋、ビームス、ロート製薬、ヤマハ発動機、日本中央競馬会(JRA)、愛知県豊田市など、計23の企業や自治体などが出展した。

 もうひとつ注目すべきは、3Dアバターやワールドを作るクリエイターたちの経済だ。ピクシブは2023年1月に「BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書」というブログ記事を掲載。オンライン同人マーケットBOOTHの3Dモデルカテゴリの取引高は2019年からほぼ倍々ゲームで伸びており、2022年は24億円に達したという。

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オンライン同人マーケットの「3Dモデル」カテゴリの取扱高の推移。現状の成長率をもとに皮算用すれば、2023年は50億円規模も期待できそうだ

 BOOTHの3Dモデルカテゴリのうち、VRChat関連は8万1703件で全体の約64%だが、人気上位2000件の大半にVRChat対応のロゴが付いている。BOOTHで3Dモデルを販売するクリエイターの中には総売上が700万円に到達したとnoteで報告している人もいる。

企業と個人クリエイターをマッチさせる

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往来 代表取締役社長 東智美氏
大阪出身。同志社女子大学卒業後、「絵を描くことを仕事にしたい」と考えたが、ちょうどインターネット時代が到来しており「デジタル系なら」という父親のアドバイスから専門学校でWebデザインを学んだ。ベンチャー企業でデザイナー業務に就いたあと独立。ウェディング会社でディレクションを統括したことも。VRChatでは「ぴちきょ」のユーザーネームで活動している
 こうした中、VRChatの企業利用の広がりと、クリエイターの盛り上がりの双方をつなげて独自の展開を見せているのが往来だ。同社は日産自動車、モスバーガー(モスフードサービス)、京セラ、ニッポン放送、横須賀市などの3Dワールドを制作してきた。毎回こだわったギミックで体験を提供するこれらの企業ワールドは、VRChatで活動している個人クリエイターたちを起用して作られている。

 名だたる大企業から制作を請け負った往来は社長の東智美氏が1人でやっている小さな企業だ。東氏はVRChat内の人脈の中から案件ごとに最適なクリエイターを抜擢してきたという。

「色々なコミュニティに顔を出して、スタッフを一緒にやったりしているうちに、『この人だったらできるんじゃないか』と思って、案件が来たときに1人ずつお声がけして口説くという感じです」(東氏)

日産自動車は軽EVのVR試乗会など4つのワールドを作成

 東京の銀座四丁目にある日産自動車ショウルーム「NISSAN CROSSING」の3D版をVRChatに公開したのが2021年11月4日。グローバル企業のVRChat利用としてはおそらく世界初だろう。さらに軽EV「日産SAKURA」のVR試乗会や、EVによる環境啓発など4つのワールドを作った。

2022年の12月にVRChatの「NISSAN CROSSING」で行われた、新型フェアレディZデザインセミナーの様子

「最初に日産自動車を手がけていただいたのは、VR蕎麦屋タナベさんというクリエイターでした。タナベさんはもともとVRChat内でいろんな配信企画をやっていて、そこに私が『自分も出たいです』と積極的に手を挙げて、それを半年も続けると信頼関係ができてきました。それがあってこそ、この仕事の相談ができました」(東氏)

 タナベ氏はモスバーガーのワールド制作も担当した。その後、往来以外の案件も請け負うようになり、2023年10月には19年続けた現実の蕎麦屋を閉店してVRクリエイター専業となった。

VR蕎麦屋タナベ氏の配信企画のひとつ「風雲タナベ城2022」

京セラは技術や製品を展示、海底を自由に散歩も

 京セラでは「Kyocera Tool World」と「Kyocera Laser World」を制作し、京セラの技術や製品の展示と説明を行った。「Laser World」では相模湾付近をイメージした海底ステージを制作し、そこで技術デモを見るだけでなく、海藻が揺らぎ、魚が泳ぐ海底を自由に散歩することもできた。

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「Kyocera Laser World」のレーザー光線の技術説明ツアーの様子

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「Kyocera Laser World」の海中ツアーの様子。VRなのでツアーが終わったあとみんなで海中散歩を楽しんだ

「京セラのワールドを作っている青猫さんも、もともとは『Open Mic Bar -Spot Light Talks(以下、SLT)』という、音楽ライブハウスのワールドを運営していました。私はそこに2年ぐらい客として通っていて、青猫さんのワールドを作るセンスと能力は凄いなと思っていました。その青猫さんに京セラの案件を提案したとき、『仕事でやったことはないし、自分はそんな(大それた)人間じゃない』と言っていたのを『絶対できるから』と口説き落として大成功しました」(東氏)

 ワールドを制作する場合はどういう体制で進めているのだろうか。

「ワールドを作るときは、メインのまとめるクリエイターは1人。そこに3Dモデル作る人、ギミックを作る、パーティクルを作る人、シェーダーを作る人と、案件によってマチマチですけど、いろんなクリエイターが作った技術が、その1つのワールドに入っています」(東氏)

「誰に何を頼むかは同時進行で、このワールドクリエイターさんに、こういうギミックを作れる人をぶつけたら、性格的にも合いそうだな、こことここをくっつけたら多分シナジーが生まれる、みたいなところまで、あらかじめ全部設計した上で同時に落としていきます」(東氏)

 往来は東さん1人の会社で、企業案件はすべて友人知己で回している。結果として作られたワールドは他社にひけをとらない立派なものばかりだが、個人とその友人チームに、次々と大企業や自治体の案件が舞い込むのはなぜなのか。 【次ページ】きっかけはホストクラブ!?VRChatの魅力とは

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