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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって受けたダメージからの回復に向けて世界の製造業が一進一退の状況にある中、米国の市場調査会社Interact Analysis社はいくつかの具体的な問題に焦点を当てた調査を実施しています。本記事では、これらの調査結果に基づく同社のサブスクリプション型情報提供サービス
「Manufacturing Industry Output (MIO) Tracker(製造業生産高の追跡調査)」の最新情報を紹介します。今回のMIOによる情報予測を特に難しくしているさまざまな要因のうち、半導体チップ不足と輸送コストという2つの要因に焦点を当て、(伝統的に工業製品市場よりも変動の大きい)産業機械市場について見ていきます。
打撃の大きい半導体産業の先行き
パンデミック時にパソコンなどの電子機器の販売が好調だったことが半導体の供給を滞らせ、また、自動車メーカーが新車の需要減退を予測して生産を抑制し、マイクロチップの発注を減らしたことも、半導体不足の大きな要因となりました。結果的に、新車需要は落ち込まなかったため、自動車メーカーはチップの調達が間に合わず、工場にはチップを載せられない車であふれかえることとなりました。
半導体チップのサプライチェーンは、受注から納品まで7~8ヵ月かかることもあり、こうした問題がすぐに解決するとは思えません。すでに打撃を受けている業界にとっては、非常に厄介な問題です。
COVID-19ワクチンが承認されたことは、多くの人にとって喜ばしいことですが、ワクチン用のバイアルを製造するのにマイクロチップに使用されるのと同じ原料シリコンが大量に必要となったため、チップ不足はさらに深刻になりました。現在、半導体の需要が急増していることから、2023年後半から2024年前半には市場が低迷するのではないかと予測されています。これは、チップの在庫が積み上がることで、今まさに起きているメーカーによる過剰な発注が必然的に減少するためです。
長期的には、こうした流れの中、米国や欧州の政府レベルで、半導体の生産拠点の一部を自国内に戻す必要性が大きく語られるようになりました。ただし、たとえこれらの流れが実現化されたとしても多くの時間が必要となるため、当座の問題への解決策にはなり得ません。
しかしながら、各社は次々と生産設備の移転または新設を発表しており、その一例として、インテルはアリゾナ州の2ヵ所の新しいチップ工場に200億米ドルを投資すると発表し、TSMCも同じ州のチップ生産施設に120億米ドルを投じています。
輸送コストは2020年の5倍に
中国から米国東海岸への40フィートコンテナの輸送コストは、2021年7月に2万米ドルに達しました。これは2020年7月に比べて5倍の価格です。
英フィナンシャル・タイムズ紙は、アジアから欧州へのコンテナ1本の輸送コストが、2021年4月から8月の間だけで6,000米ドルも上昇したと報じており、東アジアと米国西海岸間の海上運賃は、前月比20%の割合で上昇し続けています。
さらに、コンテナ輸送のサービスが低下しており、コンテナが船に取り残されるなどのミスや遅延が頻発し、サプライチェーンに支障を来たしているという報告もあります。
感染拡大による船の遅延、中国の主要な製造拠点での感染アウトブレイク、世界中の港でのEC拡大に伴う商品の過積載、さらには感染症の影響による港の人手不足など、価格高騰と混乱の根本的な原因は当然ながらコロナウイルス感染症のパンデミックにあります。さらには、スエズ運河の封鎖や、中国南海岸沖で7月と8月に発生した台風も悪影響を及ぼしました。
こうした輸送に関連する問題が絡み合い、メーカー各社の業績に大きな影響を与えています。その一例として、アパレル分野では、ナイキが、需要の減退によってではなく、輸送用コンテナの不足と出荷の遅れにより売上が減少したと報告しました。
この問題は今後も当面続くと予想され、主に衣料品や電子機器の分野で、需要の増加に伴うサプライチェーンの分断が進んでいくと思われます。こうした輸送の問題は、製造業の近隣国へのアウトソーシングや海外に移した生産拠点の国内回帰の増加というトレンドにも、いずれは影響を与えると考えられますが、短期的な視点では、それらが本格的に検討されることはないでしょう。
【次ページ】産業機械受注は落ち込むも半導体・電子機器は8%も成長
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